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君へのラブレター(仮)  作者: 時雨
はじまりの映画
5/17


 そろそろ帰る時間になってきたので、彼を家まで送っていくことにした。すっかり暗くなった中、多摩大橋を渡っていると、ほんの少しの夜景が見えた。都会に比べると、ちっぽけな夜景だけど私はこんな夜景も好きだった。でも夜景と言えるのかもわからない規模の景色を「綺麗だね」なんて、ほかの男の人には言うのも少し恥ずかしい。


「夜景、きれい」


そんな風に思っていた横で、彼はぽつりと呟いた。


「そ、そうだよね!私こういう小さな夜景、結構好きなんだ。」

「俺も好きだよ、こういうの」

「なんか素朴で切ない感じがいいよねー、私こういう景色見ているとね、なんだか少し切なくなるんだ。」

「んー、切なくなるのは、ちょっとよくわからん」

「えー、なんでよー」


少し頬をふくらませてみたけど、すぐに笑ってしまった。私のこの気持ちに共感してくれたことが、ただ嬉しかったからだ。ほかの男の人なら、「こんな小さい夜景じゃなくて、もっとすごい夜景があるよ」なんて鼻高く言ってくるだろう。私の好きな景色を否定された気分になるから、あまりこういうことは言いたくなかったのだ。だけど彼には否定されるどころか共感してくれることがわかったので、安堵した。


「私、一度行ってみたい夜景スポットがあるんだよねぇ。」

「どこ?」

「ゆうひの丘。知らない?映画のモデルになった場所なの。」

「なんか聞いたことあるけど、行ったことないや」

「じゃあ、今度2人で行くか!」


なんてまた調子に乗って冗談のつもりで聞いてみた。だけど彼は「いいよ」と一言。「え?いいの?」とまた冒頭と同じセリフ。「本当だよ。今度行くぞ!」と彼は力強く私に言った。(それって私と2回目のデートもしたいってこと?)

もうすぐ彼の家の近くになる、この辺でおろしたら、月曜日まで会えない。(別に会えなくてもどうってことないのだけど)ああ、今日はあっという間に時間が過ぎていったなぁ。それって私は彼とのデートが楽しかったということだよね。食欲はなかったから緊張はしていたみたいだけど、彼には嫌な気の使い方をしなくていいことが、何よりも心穏やかにしてくれた。それが2回目のデートもありだな、と確信づかせる材料だった。でも、そんなことを思うのは、きっと私だけ。今までデートしてきた男性もすべてそうだった。私とデートしてくれたのは、仕方がなく、付き合いで、合コンで一度知り合ったから試しに、という感じで、2回目はあっても3回目はなかった。そしていつもデートに誘うのは私からだった。


「じゃあ、ここでいいかな。」

「うん。ありがとう。」

「また月曜日にね。」

「あのさ……、俺、今日すごく楽しかった。」


照れくさそうに呟いた彼の声は、しっかりと私の耳に届いた。何度もエコーする。何度もその言葉が脳裏をぐるぐるまわる。一瞬返事をすることを忘れてしまいそうだった。今までのどんな男性よりも、どんな片思い相手の言葉よりも、私の心にぐっとささった。楽しかったというのはいつも私からで、相手は慣れたような愛想笑いで「ありがとう」と言ってくれた。言ってくれたけど、「俺も楽しかったよ」と返してくれたことはなかった。そんな簡単な言葉さえ、くれた人はいなかった。「楽しかった」その一言は、まるで魔法のように私をロマンスの世界へ導くのであった。(夢見る乙女のような思考回路になっているのはご了承いただければ)


頭の中はぐるぐる色々考えて、一言私も返さないといけないと思い、特に勇気を振り絞ることなどもないのだが、


「……私も、本当はすごく楽しかった」


照れくさい感情がバレないように、小さく呟いた。(小さく呟くだけじゃ、照れ隠しだってことがバレバレなのだが)そのあと彼とわかれて、一人車の中で大音量で歌を歌いながら帰ったことは内緒。



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