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君へのラブレター(仮)  作者: 時雨
恋が実るまで
15/17


 カフェを出て、目の前にあったレトロな写真館を再現した建物に入る。すると中に案内人のおばさんがいて、「こんにちは」と気さくに挨拶してくれた。こうして他人から見たら、私たちはカップルなんだろう。ふとそう思って少し胸があつくなった。彼は同じように思っているだろうか。


「ここで記念撮影ができますよ。撮りましょうか?」


おばさんが、おそらくカップルだと思っているであろう私たちに話しかける。黒田くんとツーショットを撮るチャンス到来!だけど、私たち本当はカップルじゃないので、彼はいやがるかな。それにやはり気恥ずかしくて、彼に目配せをした。


「あ、いや大丈夫です。」

「あら、いいの?」

「はい、すみません。」


少しだけ気まずい空気が流れたので、そうそうに私たちはその場所を立ち去った。私も断るつもりだったが、彼に、こう言葉にされると少し寂しくなってしまった。本当は彼と写真が撮りたかったのだ。だけど、付き合っているわけではない彼に、そう言う勇気がなかったのだ。(今の私たちなら、こちらから写真撮ってくれと頼むだろう……)

楽しい時間はあっという間で、最後にお土産コーナーを見ていた。家族にでも何か買ってあげようかなとも思ったが、同じ東京都内だしいいか、とあきらめて、気楽にお土産をただ眺めるだけにした。だけどそれも黒田くんと一緒の時間なら、とても意味のあるものになる。この模様、絶対黒田くん好きでしょ!なんて言い合って笑っていた。


2人で公園をあとにし、もと来た道を辿って、武蔵小金井駅行きのバス停まで歩いた。少しだけ先に歩く彼の後ろに立ち、彼の左手を見つめていた。今このタイミングで手をつなぎたくなった。私たち、どこからどう見てもカップルなのだから、知らないこの町で手をつないで歩いたっていいじゃないか。そう思って彼の横に立ち、彼の顔を覗き込んだ。


「何?」

「いや、その……」


私がじっと彼の左手を見つめると、彼はすぐに察し、「手をつなぎたいのか」と言ってきた。「でも俺たちまだ付き合っているわけじゃないし、まだ早いから」と言って、やんわりと断られてしまった。ああ、恥ずかしい。やっぱり黒田くんにとってみたら、私は付き合っているわけでもない。ただの同僚。そう言われたような気がして、少し落ち込んだ。彼がうぶすぎるのか、それとも私がひとり舞い上がっていただけなのか、少し気まずい空気が流れた。だけど彼とこの空気でいるのは嫌だったので、わざと空気をかえた。どうでもいい話をして。そうこうしているうちにバスに乗り込み、駅まで向かっていく。ふと気が付くと、彼が私を「壁ドン」していた。最近はやりで、よく少女漫画やドラマなどに出てくる、壁に手をついて好きな相手を追い込む、という、まさに胸がキュンキュンするようなシーンだ。別に黒田くんが意図的になったことではなく、バスの揺れに耐えるために、私の顔の横に手を置いただけなのは知っている。だけど、思った以上に彼との距離が近くて、またドキドキさせられているのだ。


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