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初めて手をつないでしまった日から、数日経って、もうすぐ敬老の日が近づこうとしていた。私は毎年祖母にプレゼントを渡しているので、今年も従来通り何かプレゼントを買おうと思っていたけど、いつも何かプレゼントを選ぶときは、母や友人たちと買い物に行くときに、一緒に選んでもらっている。優柔不断な性格なので、1人では中々決められない。だけど、今年は黒田くんと一緒にプレゼントを選びたいと思った。それに、彼とはもう一度デートをしたかったから。(どちらかというとプレゼント選びは口実になってしまうのかもしれないが)だけど現状は2人きりでお昼休みにご飯を食べたり、こっそり待ち合わせして家路を辿ったりしていたので、次のデートの約束をするのも、そこまで緊張はしなかった。実際メールで、次のデートの約束も簡単にできた。私がずっと行ってみたいと思っていた江戸東京たてもの園に行くことに決まった。
そして今は彼と二人で、武蔵小金井駅を降りたところ。たてもの園は駅からだいぶ離れているので、バスに乗らなくてはならない。いつも電車異動なのでバスに乗りなれておらず、迷ったらどうしようと心配していたけど、彼がバス停の乗り場を見つけてくれて無事に並ぶことができた。結構このバスに乗る人多いんだな。見たことのない街並みをバスが走っていく。知らない町に行くのは不安もあるけど、黒田くんが隣にいれば、ドキドキに変わる。しかもこの町は都心から少し離れているので、緑も豊で心が落ち着いた。
無事にたてもの園につき、2人で入場する。ここはあの有名な日本のアニメ映画のモデルになった場所もあるようで、そこを見ることも楽しみにしていた。もともと私は歴史文化財などに興味があり、古いものを展示している場所が好きなのだ。あまり公言していなかったが、実は古墳マニアなほど、古い時代のものに興味深々。だけど今までデートしたことのある男性に、その趣味を打ち明けたことはない。当然片思いしてきた相手にも。だって、古墳などを見るのが好きで、そういう場所でデートをするのが夢。だなんて話した日には、きっと笑いものだ。だけど黒田くんに、この趣味を話しても、笑わないでいてくれるだろうと、何故だか強い自信があった。案の定彼は笑わなかった。それどころか、「俺も古めかしい和なテイストのものが好きだ」と言ってくれた。少しジャンルは違えども、同じようなものが好きと言ってくれた黒田くんのことを、ますます好きになってしまった。だから今日、勇気を振り絞ってこのたてもの園に行こうと誘ってみたのだ。サイトのURLを送って、それを見た彼は、「すごいいいね!俺好み」とテンションがあがったようだ。いつもクールなのに、時折子供みたいにはしゃぐ彼が可愛くて、またドキドキしたのは秘密。
中はとても広い公園のようになっていて、和風な建物から洋館・カフェなど色んな建物があった。大きな銭湯の建物もあり、初めて見るレトロな銭湯に心躍った。せっかくだし、中にあるレトロなカフェでお茶でもしようということになり、洋館の中に入った。人はまばらにいるが、すいていた。すいていたが、奥の席に座り、二人でメニューを眺める。だけど私の食欲があまりないことを感じずにはいられなかった。前回のデートのとき同様、きっと今がっつり食事は食べられないだろう。メニューをぱらぱらめくり、シンプルなパンケーキに決めた。このくらいの量なら私でもペロッと食べられる。そう思って注文したのに、いざ目の前にパンケーキが届き、口に運ぼうとすると胸がいっぱいで食べにくい。量的には何の問題もないはずなのに。わかっていた。黒田くんのことが好きだから、向き合って食事をすると緊張してしまうのだ。彼に心を許しているので、緊張はしないと思っていたのに、体は言うことをきかない。
「食べられないの?」
「えへへ……」
「じゃあ俺が食べていい?」
彼は仕方ないなと顔に書いたような表情で、私のパンケーキを食べてくれた。残すのも申し訳ないと思っていたので、助かった。パンケーキをほおばる彼も可愛かった。というか、愛おしいと思った。なんだろう、うまく言葉にできないけど、緊張して食べられなかったくせに、心はこんなにほっこりしている。居心地がとてもよい。ずっとこうして2人でいたいと思えた。(今となっては、あの日食べきれなかったパンケーキがもったいなかったなぁ、と思う今日このごろである。)