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君へのラブレター(仮)  作者: 時雨
恋が実るまで
13/17



 やっと二人きりになれると、喜んだのもつかの間、あれほど騒がしかった場から、いざ2人になると緊張してくる。何を話せばよいのか。いつもなら他愛もない会話など、ぽんぽん出てくるのに……、それはやはり私が黒田くんに恋をしていると認めたからなのか。黒田くんは、私のことをどう思っているのだろう。私と2人きりになって、ドキドキしたりするのかな。いや、彼はなかなかのポーカーフェイスなので、見分けがつかない。悔しい!私はこんなに黒田くんを意識してドキドキしてしまうのに、彼は何も思っていないとしたら。彼の心をつかみたい。私のことを思ってドキドキしてほしい。彼は誰かを思って胸を焦がすほどの恋をしたことがあるのかも知らない。私は、案外彼のこと何も知らないのではないか……。頭の中でぐるぐると、そんなことばかりを考えていた。


「黒田くん、酔ってる?」

「酔ってないよ。」


彼は確かに見た目も酔っ払っているようには見えない。彼が乱れるところを見たことがない。酔っ払ったらどうなるのだろう。少し興味があった。彼は私とこんな夜に、2人きりでいることをなんと感じているのか。手を握ってみれば、わかるかもしれない。彼の緊張が手から伝わってくるかもしれない。普通に言葉を交わすだけなのに、噛むかもしれない。そんなことを考えていたけど、でも本当は私自身が彼の手を握ってみたかった。黒田くんのことを好きになってしまったから。


「ねえ。」


私は気が付けば考えるよりも先に、彼に掌を差し出した。私の手を握って、という意味を込めて。


「お金くれって?」

「はぁ?」


ロマンチックな場面が台無しになった。思わず心の中で、派手にずっこけてしまったよ。まあ確かにこの掌を見ると、金くれ~とねだっているように見えなくもない……。ましてや私は、女らしさを全開に見せることができないようなキャラだ。色気や誘惑なども不得意。ギャグを言っていると勘違いされる悲しい女の性。


「違うよ!手を握ってってこと!」

「え?!なんで」

「……私とは手をつなぎたくないの?」

「だいぶ酔ってるな。」


本当はそこまで酔っ払ってもいないのだが、酔っていることを見せかければ、手をつなげるかもしれないという安易な考えで挑んだのだ。だが、私とは嫌なの?と少し上目遣いで言ったことに効果があったのか、彼は不器用ながらも、私の手を握ってくれた。ああ、掌が熱い。脈打っているのが、わかっちゃうかな?自分から迫っておいて、恥ずかしいのだが、実は男性と恋人つなぎをしたことがなかった。そもそも男性と意識して手をつないだことすらなかった。だけど、私が初めて手をつなぎたいと思ったのが、黒田くんだった。慣れないことはするものではない。すぐに恥ずかしくなって、私から手を振りほどいてしまった。


「ごめんね、なんかやっぱり恥ずかしくなってきちゃった。」

「なんだよ」


彼はため息まじりで、また笑った。彼はこんな夜に私と二人きりになっても、慎重でいてくれる。私を襲ったりしない、とてもやさしい人だった。少し物足りないくらいだが、それでも黒田くんは、私のことを体目当てとして見ることも決してないのだと、わかった。普通の男ならここで手をつないできた、ということは体も許してくれるということだよな?と早とちりして、今すぐホテル行こうと言い出す。そんな男しか知らなかった。ようするに彼女にするのは面倒なので、体だけの関係ならいいよ、という愛のない言動だったのだ。黒田くんは、そういう人じゃないと改めてわかり、ますます彼に惹かれていった。


「なんなら、キスもしちゃう?」


わざといたずらな笑顔を見せて、私は彼にそう言った。ほかのとこなら、そんなことを言われるもんなら、すぐに体の関係をせまるためだけに、キスをする。愛情のあるキスなどしない。名前も覚える気などさらさらない相手に平気でキスができるのだ。だけど黒田くんは、戸惑った。付き合ってもいないのにだめだよと小さく呟くので、「冗談だよ」と笑って見せた。


だけど本当は、黒田くんと愛のあるキスをしたかったと思っていたが、さすがに付き合ってもいないのにそれをするのは、軽い女と思われるのでやめた。


彼から見たら、私は余裕を見せる年上の女に見えただろう。だけど、彼とさよならしたあと、部屋に入るなり、「あぁーーー!」と一人心の中で叫んだ。自分のした行動が恥ずかしすぎたのだ。



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