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彼の隣に肩を並べて家路を歩いている。また、今日も特に約束したわけじゃないけど、私から目配せをして彼を誘った。聞きたいことはもう決まっているのに、いざ彼に聞こうとすると怖くなってしまう。だけど、今日はそれを聞くために、周りの目をしのんで一緒に帰っているのだ。
「あのさ……」
「俺、中村さんをデートに誘った。」
「えっ」
拍子抜けして声が裏返る。今まさに聞こうとしたことを、彼から話し始めた。彼はエスパーなのか?なぜわかったんだろう……。なぜそんな話を自分から打ち明けるのだろう。彼はきっと私の気持ちを知っているのに。
「いや、言っておこうかなと思ってさ」
「実は奈江から相談受けていたんだ。」
「まじかよー、すぐ話しちゃうんだな。」
「女ってそういう生き物だからね。」
デートの誘いを受けるか断るかは、奈江が最終的に決めなと強く言い残したので、私はまだ奈江が本当にどう返事したのかは知らない。奈江がデートの誘いをOKしたところで、私は彼女を否定する権利もない。だって彼女は私の気持ちを露知らずなのだから。
「で、どうだったの?」
「断られたよ」
「えっ、そうなんだ……。」
奈江が断ったとわかった途端、正直ほっとしてしまった。だけど、彼の切なそうな顔を見ると、私も胸がきゅーっと締め付けられる。彼は今私のことなんてきっと全く眼中になくて、ただ奈江に断られたショックに浸っているだけなのだろう。そう思うと、何もできない私がとてもちっぽけで無力な存在だと感じた。喜びたいはずなのに、こんな落ち込んでいる彼を目の前にしたら、私まで悲しくなってしまう。だけど、相手が振り向く確率がまったくないのなら、潔くあきらめることも人生の中では大事なことだと、失恋ばかりしてきた私は誰よりも強く言える。だけど今そんなこと言うと私はずるい女になりそうだから、何も言わずに、ただ彼の隣にいてあげようと思った。
「今は私が隣にいてあげる」
「……おう」
だけど、彼も私の気持ちを知っていながら、そんな顔を見せるのなら、彼も罪な男だ。
私は誰よりも、あんたのことが好きなんだから。