8
「では、我々PKF中東地域派遣艦隊の説明に入ります。現在、この中東地域派遣艦隊としてこの世界にいる艦艇はヘリコプター搭載護衛艦【DDH-184.かが】、航空機搭載護衛艦【DDC-185.あかぎ】、多目的護衛艦【DCG-190.ながと】、イージス護衛艦【DDG-178.あしがら】【DDG-179.まや】【DDG-180.はぐろ】、汎用護衛艦【DD-111.おおなみ】【DD-112.まきなみ】【DD-118.ふゆづき】【DD-120.しらぬい】、多機能護衛艦【FFM-204.よど】【FFM-207.いしかり】、潜水艦【SS-506.こくりゅう】【SS-509.せいりゅう】【SS-511.おうりゅう】、輸送艦【LST-4003.くにさき】【LST-4004.ぼうそう】【LST-4005.つがる】、補給艦【AOE-425.ましゅう】【AOE-426.おうみ】そして民間のRoRo船4隻の計24隻になります。」
「・・・・・多いな。」
艦隊側出席者からの説明にジブチ派遣部隊司令官の内田一等空佐が呟いた。
確かに24隻もの大艦隊など日本はおろか海外でもまず見る事の無い規模である。
ちなみに海上自衛隊の基本編成は1個護衛隊4隻を2個護衛隊分の8隻で1個護衛隊群を編成している。
今回の派遣は【ながと】【まや】【おおなみ】【よど】の4隻が第1護衛隊群第2護衛隊の横須賀基地(神奈川県横須賀市)所属。
【かが】【あしがら】【ふゆづき】【いしかり】の4隻が第2護衛隊群第2護衛隊の佐世保基地(長崎県佐世保市)所属。
【あかぎ】【はぐろ】【まきなみ】【しらぬい】の4隻が第4護衛艦隊群第4護衛隊の呉基地(広島県呉市)所属。
そして他の艦艇は補給隊や輸送隊、潜水艦隊などから抽出され、艦隊に組み込まれている。
「はい、次に航空機ですが、F-35JB戦闘機が42機、SH-60K対潜哨戒ヘリコプターが18機、JV-22輸送ヘリコプターが12機、MCH-101輸送・救難ヘリコプターが4機などが護衛艦などに搭載されています。他にもAH-64E戦闘ヘリコプターが12機、OH-1偵察ヘリコプターが6機、UH-2J多用途ヘリコプターが14機、UH-60JA多用途ヘリコプターが8機、CH-47JA輸送ヘリコプター2機でこれらはRoRo船に搭載しているのも含みます。これに加え無人機としてアヴェンジャー無人攻撃機が4機になります。」
戦闘機42機とヘリコプター76機、無人機4機がこの24隻に搭載されている。
そう考えるとアメリカの原子力空母並みの航空運用能力である。
最も、陸自のヘリコプターの4割がRoRo船内にあり、直ぐに運用できないが、7割がヘリコプターといえ航空戦力が存在するこの世界では非常に心強い存在であった。
ちなみに陸上自衛隊は2022年にAH-1S対戦車ヘリコプター及びAH-64D戦闘ヘリコプターの後継をAH-64Eに決定。
AH-64D戦闘ヘリコプター12機のE型への改修含めE型を56機調達する事を決定した。今回の派遣では56機中12機を派遣されている。
「・・・なるほど、そのアヴェンジャーは基地からでも操作は可能なのか?」
「【かが】や【あかぎ】、【ぼうそう型】輸送艦に設置されている操作システムを移築して、通信施設に接続すれば可能でしょうが・・・・」
小型のドローンなどは簡易的操作装置、いわゆるプロポがあれば操作が可能だが、アヴェンジャーなどの大型かつ精密な無人機は専用の操作装置が必要で、それを艦から陸上基地に移動しようとしたら、装置を運べる大きさまで分解して接続を解除して、移動して組み立てて、新たに通信装置に接続しなければならないととても大変かつ面倒であった。
「・・・現状、無理に移築する必要は無さそうだな。」
「そうなります。では、続いて車輌になります。10式戦車は2個戦車中隊分、16式機動戦闘車は3個即応機動中隊分、その他24式装甲戦闘車や87式偵察警戒車、87式自走高射機関砲、96式装輪装甲車、99式155mm自走榴弾砲、19式装輪155mmりゅう弾砲、FH70(155mm榴弾砲)、03式中距離地対空誘導弾、11式短距離地対空誘導弾、中距離多目的誘導弾など多数あります。更に施設科の装備として坑道掘削装置や重機などで、逆に無いのは地対艦誘導弾くらいでしょうか?」
ちなみに24式装甲戦闘車は89式装甲戦闘車の後継として開発された他国で言う歩兵戦闘車である。
高価過ぎて68輌で調達が終了した89式の時代とは違い、今では歩兵戦闘車もかなりの高価な装備となっている。
それでもコストダウンの為に、89式に装備されていた対戦車誘導弾を廃止し、代わりに35mm機関砲から新開発の40mmテレスコープ弾機関砲を搭載しており、結果的にブラッドレーやプーマなどの他国の歩兵戦闘車よりは安価になっている。
「流石に中東地域に地対艦誘導弾は必要無いですからねぇ。逆にこうなる事を見越してたかなような装備ですね。」
主にゲリラ部隊と航空機による攻撃が考えられた為、当然の事ながら必要無い対艦誘導弾などは持ってきていない。
その代わり、それ以外の殆どの装備品を持って来ており、まさに戦争する為の装備である。
「中東地域に対する自衛隊の派遣が核攻撃による異世界転移になるとは、でもこんなに戦闘装備があるからといえ、我々はこの異世界で戦争を行う訳では無いでしょうに。」
「スフィア王国がわざわざ土地を提供してまで、我々をこの国に居させる事を決定するに至った何かがあるんだろうな。」
実際にこの自衛隊に提供されたこの土地は伯爵領と公爵領に囲まれた土地で王家所有のいわゆる国有地であった。
近くに重要な街道(日本で言う国道)が通っている為、非常に重要かつ大洋を挟んで対立している敵国に対する重要防衛地点であった。
その為ティリファ女王はそれを全て自衛隊に丸投げしたのである。
「なに?それを分かっていて、有事の際の我々の派遣を了承したのですか!?」
「我々の隔絶した技術力を見て高圧的にならず、冷静に我々の必要な物を判断するだけの出来る国が果たしてこの文明レベルの世界に幾つある?我々は最悪いきなり攻撃を受けてもおかしくない存在なのだぞ?」
首都である王都ムーンファルーナの港に停泊していた船を見てもスフィア王国の兵士の服装を見ても文明レベルは地球で言う1700年代の産業革命に未到達の文明である事は明らかであった。
最も魔法という不確定要素がある為、正確には不明だが。
「察するにこのスフィア王国は王政だが、実質的には連邦制に近い国家体制だ、アメリカと同レベルのな。少なくともこの国に居る事が最善だと思うが?それともこの基地を放棄して別の場所に向かうか?幸いにも燃料は心配する必要はないぞ?」
「あと、この国は多種族国家だ、我々はこの国の女王とも会談したが、相当有能な女王だな。まぁ、この国が敵対しても軽くそれを遇らうだけの軍事力は我々は保有している。とりあえずこの基地周辺地域を把握し、何を建てるか決めるのが先決だと思うが?今では艦が止まる場所もない。」
一応1200名の隊員が駐留していた庁舎などの施設はあるが艦隊に居る約9000名近くの乗員が住む住居が全く足りなかった。
他にも整備用のドック(船を建造するような物ではなく海水を抜いて簡易点検出来るレベル)などの建設も将来的には必要だった。
更に5年、10年先の話をするなら街が必要であった。
「・・・・・そうだな。我々はいきなりこの世界にやってきたからな。」
「では、最後にスフィア王国がら我々に供与、実質的に譲渡された土地について説明する。どうやらこの世界の単位と我々の単位は同じなようだ、それによると我々が自由に使用出来る土地は約3500㎢にもなる。」
その3500㎢と言う数字にピントこない出席者達であった。
実際に彼らが使っているのはhaで㎢などそこまで広い面積の単位まで使わないのである。
ちなみにこの世界はミリやセンチ、メートル、そして重さもグラムやキログラムな為、オンスやマイルなどの単位が混合している地球より遥かに分かり易かった。
「・・・それってどのくらいだ?」
「空自の築城基地が2.7㎢、鳥取県の面積が約3500㎢だ。」
「・・・この国って広いのか?」
「スフィア半島と呼ばれている半島を丸々だから約75万㎢くらいだな。」
スフィア半島は長さ1400km、幅は凡そ470kmがら920kmの間である。
地図的に見て西側から東側に向かって伸びている半島であり、北側はスフィア海を挟んで1000kmから1500km程で大陸となる。
東側南側は大洋であり、数千kmは海しか無い。
非常に森林地帯が多く希少な動植物も生息しており天然資源(魔石や鉄鉱石などの鉱物資源)も非常に豊富である。
「75万か、スカンディナヴィア半島と同じくらいか・・・」
スカンディナヴィア半島はスカンジナビア半島とも呼ばれている北ヨーロッパにあるヨーロッパ最大の半島である。
スウェーデンやノルウェーの位置している半島であり、自然豊かな場所としても知られる。
「全域は無理だ。この基地周辺から開発を行おう。だが、幾ら施設科でも出来る事には限りがある。優先順位をつけていこう。港湾設備を造る為の海底マップ作りはMCH-101ヘリコプターか、多機能護衛艦2隻にしか出来ない。」
幾らこの世界とは隔絶した技術力を保有している自衛隊でも鳥取県程の面積を開発するのは無理であった。
本国の支援があれば話は別だが、この世界に日本人はPKF艦隊の9350人とジブチ派遣部隊1200名の約10550名しか居ないのである。
更に幾ら燃料弾薬が無尽蔵だからといえ、それを使う装備を失えば元も子も無く、慎重にならざるを得なかった。
「そうですね、地形的に不可能なら桟橋を作れば問題無い。幸いにもこの湾は外海の影響を殆ど受けない。24隻もの艦隊を停泊させるのも問題無い。」
実際、大型過ぎて港に入るのが難しい石油タンカーやLNG船などは陸から数km伸ばした桟橋に接岸して対応している。
だが簡単に調査する限りこの半島付近は東側は浅瀬が続いているが、西側は数万tクラスの大型艦艇も接岸できる程の深水が有りそうであった。
「次に電力だが、輸送艦などに積んでいる発電機だけでは限界がある。ここから南に7km行った場所に川がある、小型水力発電機を設置しよう。発電機を使えば問題無いはずだ。」
「幸いにも燃料は問題無いからな。」
無理なら補給艦から電力ケーブルを接続して無尽蔵の燃料がある補給艦で発電してその電力を基地に送るなどしたら良いのである。
燃料や弾薬は無尽蔵な為、補給艦はこの世界ではほぼ必要無かった。
つまり補給艦を発電艦にしようという発想であった。
「基本的に森は魔獣の住処らしい。夜になると活発的になるそうだ。だから都市を造るなら城壁で都市を囲むのが普通らしい。盛土をして半島の接続部分に柵を建てよう。小銃を持った隊員や装輪装甲車を貼り付けとけば問題無いだろう。」
この場所が半島では無く大陸のど真ん中とかだったら某自衛隊アニメみたいに北海道の五稜郭風に基地を作れば良いのだが、幸いにも半島な為、根元を抑えたら後は問題無かった。
「施設科は何人居るんだ?」
「400名程だ。当分必要無い機甲科や特科からローテーションで回そう。どうやら魔獣の核にあたる魔石は売れるらしいからな。」
当然、燃料や弾薬が無尽蔵でも、この世界で生きていくしか無い以上はお金が必要であった。
スフィア女王は将来的にこの自衛隊に提供した土地を自衛隊の自治区にする事も想定していると言っていた為、何処かの国の庇護を得る必要がある自衛隊にしてみれば願っても無い話であった。
自衛隊はシビリアンコントロール(文民統制)という国民がら選ばれた文民が軍(自衛隊)を統制するという考えの元成り立っている。
その為、自衛官でしか意思決定出来ないこの状況は問題があった。
「・・・とりあえず先に必要な建物を建てなければな。この警備体制だと魔獣の被害がいつ起きても不思議じゃ無いな。」
「はい。現在12名編成で8交代で対応にあたっています。我々の殆どが整備士などの後方支援部隊ですので、そのくらいしか出せないのですよ。」
元々、ジブチ派遣部隊は米軍などの後方支援や上空からの海賊監視などを目的に派遣された為、陸上部隊は警備隊レベルしかおらず全員合わせても1200名中70名程であった。
しかしジブチの50度を超える気温に慣れていた彼等は核爆発により25度〜30度のこの場所に来て、気温差による体調を崩してしまったのである。
「まぁ、銃も触った事無いような隊員にやらせる訳にもいかないからな。簡易的な見張り台を建ててそこに常駐させよう。M2を置いておけば大抵の魔獣は問題無いだろう。」
スフィア王国があれだけ苦労したクラーケンでさえ127mm速射砲は威力過剰過ぎて、結果無人操作型の12.7mm機関銃で倒したのである。
陸の魔獣がどれ程の強さかは不明だが、これまでに襲ってきた魔獣は19式小銃の5.56mmNATO弾やMP7A1短機関銃の9mmパラベラム弾で難なく倒せた。
最悪沖合の護衛艦の127mm砲で艦砲射撃を行えば問題無いと考えていた。
最も、その前に24式装甲戦闘車(他国の歩兵戦闘車)の40mmテレスコープ弾で死なない魔獣は居ないと思われるが。
「そうなると、ここに堀や塀などを構築するのが一番でしょう。丁度半島が狭まってますし、木々なども無く開けている。」
「では、その此方側の面積だけならどのくらいだ?」
実際、半島の付け根辺りが海水の侵食とみられる現象により両端から数km程、狭まっている。
その為3500㎢ある供与された土地が半分以下になっていた。
「1200㎢程になりますね。滑走路や港湾施設、その他防衛施設などを建設しても余ります。しかし、それには此方側の森林地帯の魔獣を完全に駆除する必要があります。」
1200㎢も十分に広いが、不思議と75万㎢もの面積があるスフィア王国からしたら0.3万㎢は少ない気がする。
最もティリファ女王はこの辺りの国有地7万㎢全てを後に供与する気でいたのだが、まだ彼らはその事を知らない。
「流石に森を焼き払う訳にはいかないから特科や装甲科は駄目だな。話によると魔獣は倒したら魔石を残して後は消えるらしい。普通科にやらせよう。」
「魔獣の死体処理が無いのは楽ですねぇ。後、燃料や弾薬の心配も要らない。」
燃料はともかく弾薬など、工作機器の無い彼らは作る事が不可能な物である。
更に艦艇の誘導弾や24式装甲戦闘車のテレスコープ弾などの特殊弾頭は余計に困難であった。
「そうだな。ヘリで発見して地上部隊が討伐、魔石は研究用を残して後は全部スフィア王国政府に売却しよう。では、これで決定。」
他の出席者がら否定的な反応が無かった為、この場での最高指揮官(と決定した)である。
佐々木一等海佐兼PKF中東地域派遣艦隊最高指揮官は決定し、それを聞いた他の出席者もそれぞれ指示を出す為に次々と部屋を出て行った。
現状、自衛隊の各部隊長が出席するこの会議が最高意思決定機関なのである。