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核爆発によりこの世界に転移してから4日後、スフィア王国の王都から東に200km程行ったスフィア半島の最東端にある数百㎢の小ぶりな半島の沖合4km地点にこの世界ではまず見る事のない大型艦艇24隻の大艦隊が停泊していた。
その中でも揚陸機能を持つ3隻、おおすみ型輸送艦3番艦【くにさき】、ぼうそう型輸送艦1番艦【ぼうそう】2番艦【つがる】では物資や人員を揚陸する為、艦内にあるウェルドックと呼ばれる場所では作業員が大忙しで準備を行なっていた。
このウェルドックは艦内の一部に海水を注入して艦内から水陸両用車や揚陸艇が発艦出来るようにする機能である。
世界中の揚陸艦では標準機能となっており、この3隻も例外なく装備している。
8900t型輸送艦【くにさき】では2隻のLCACと4輌のAAV-7を、後継の1万8500t型輸送艦【ぼうそう】【つがる】では各3隻のLCACと8輌のAAV-7が揚陸する陸上自衛隊隊員や車輌・装備、そして甲板ではCH-47JA輸送ヘリコプターやJV-22輸送ヘリコプターが人員や装備などを搭載して揚陸準備を行なっていた。
1万8500t型輸送艦は【おおすみ型】輸送艦の後継として2023年に就役した揚陸艦である。
島嶼防衛の一環として2018年に日本版海兵隊である水陸機動団が新編されたが、隊員を島嶼部に輸送する揚陸機能が【おおすみ型】では能力不足であった。
その為【おおすみ型】輸送艦の能力向上型として【ぼうそう型】の建造を決定した。
航空機運用能力は向上したが、固定翼機の運用能力は無く、VTOL機は運用出来ない。
その代わり最大20機ものヘリコプターを搭載・運用する事ができ、陸上自衛隊隊員を最大1200名揚陸出来る能力を有している。
そしてその3隻の輸送艦やヘリコプター搭載護衛艦から輸送ヘリコプターや揚陸艇が海岸に向かって揚陸の準備をしていた。
1回の輸送で全て揚陸するのは不可能な為、何往復もするのである。
そしてPKF自衛隊艦隊が物資や人員を揚陸しようとしている時、ジブチ基地(仮)にある施設の一つ、鉄筋コンクリート造りの頑丈な建物の中の一室、基地司令室に幹部自衛官とみられる男性が飛び込んできた。
「内田司令!沖合に海自の艦隊が!!」
「なに!?どういう事だ?」
窶れた様子で書類整理をしていた基地司令でもある内田 誠一等空佐は余りの衝撃に持っていた書類を地面にばらまけてしまった。
幾らペーパーレス化が進んでいるからといえ、少なくない重要事項は書類が必要になるのである。
「分かりません。ぼうそう型輸送艦を視認しました。他にも多数の護衛艦を確認、恐らくPKF中東地域派遣艦隊かと・・・・」
【ぼうそう型】輸送艦は現在2隻が就役しており1隻が建造中である。そしてその就役している2隻共、PKF中東地域派遣艦隊に組み込まれていた筈であった。
いきなり核攻撃にあい、気が付いたら中東地域のような砂漠では無く半島に居り、中世風の兵士が日本語を話している。
話を聞いたらここは彼等の領土らしく、いつこちらに攻めてきてもおかしくない。そんな中1個旅団規模の戦闘部隊を輸送していた海自艦隊が現れた為、とても心強かった。
「・・・・24隻全艦居るのか?」
「分かりません、レーダーが現在稼働しておらず、この周辺の地理情報も分かりません。」
この基地に設置されている発電機では施設内の灯りなどの電力を確保する程度の発電量しか無かった。
エアコンや最低限の家電設備などを動かす為の電気は施設の屋上に設置されているソーラーパネルから賄っていたが、日光の多い中東とは違いこの場所ではそこまで日光量は多くない為、発電量が低下していた。
そもそも転移前と転移後で20度も急に気温が変わった為、体調を崩す隊員が続出し、1200人の基地は現在最低限の人数で維持されていた。
「司令、輸送艦から揚陸してきています。」
「連絡は取れないのか?」
「この基地に船舶との通信が可能な通信機は現在ありません。」
転移前はいくつか通信が可能な通信機が存在していたが核爆発による転移の影響で全てがシステムダウンし、ダウンしなかった通信機も非常用発電機の出力が小さ過ぎて稼働できないのだ。
元々自衛隊ジブチ駐屯地は隣接するフランス軍区域やアメリカ軍区域と協力する名目で成り立っている。
その為、突如孤立状態になると機能しなかなったのである。
「食料も残り少ない、助かったのか?」
「我々が核攻撃を受ける数分前に海自の艦隊が核攻撃を受けたとの連絡があったので、彼等も核攻撃を受けこの世界に転移したのでは?」
一応、この駐屯地にも大型通信施設やレーダー施設が存在し、ジブチ国際空港内で一番の性能であった為、フランス軍やアメリカ軍の同盟国間の軍事通信も兼務していた。
そして自衛隊艦隊が核攻撃を受けた情報は真っ先に入手していた。
最も、その高性能すぎる通信機器の為、現在電力が足りない状態になっているのだが。
「可能性はそれしか無いだろう。空いている基地の西側に物資を集積するように言ってくれ。警備の隊員以外は揚陸する物資や車輌の案内、恐らく彼等はこっちが無線を使えない事を知らないと考えられる。駐機場でヘリコプターの着陸支援や整備を行ってくれ。」
この世界に転移してきた人員1200名の殆どは戦闘部隊ではない航空機の整備要員であった。
理由は自衛隊だけでは無くPKF軍の後方支援を行う為である。
その結果現在警戒にあたる陸自隊員が80名しか居らず整備要員にまで小銃を持たせて警戒に当たらせている状態なのだ(最も、その整備要員も年に数回射撃訓練は行なっている為、全くの素人では無い)。
「了解しました!」
そして部下が揚陸部隊の支援にあたる為出て行き、1人残された基地司令室で内田一等空佐はポツリと呟いた。
「・・・・はぁ、ようやくこの世界で生きていける。」
この世界に飛ばされて彼の1番の任務は1200名居る隊員を守る事であった。
しかし武器は充分では無く、唯一心配しなくて良いのは燃料や弾薬などの補給部品だけであった。
軽装備はあったが、重装備となるとF-15JXなど過剰すぎる装備しか無く、重機関銃や機動戦闘車などはこの基地には配備されていなかった。
しかしそれが一転、24隻もの大艦隊が現れ、更に1個旅団規模の戦闘部隊と戦闘ヘリから重機関銃までの兵器、化学科や施設科の隊員や装備まで輸送しており、9000名もの日本人が来たのである。
これなら地球より物騒なこの世界でも生きていけると思った。
更に輸送艦内の発電機はこの基地に設置されている発電機より出力が高い物であり、レーダーや通信機器の稼働も可能となる。
となると航空部隊を有効活用が出来るのである。
しかし艦隊のヘリコプターや隊員が一緒になると宿舎などの建設が必要となるが、施設科も居る為大丈夫だろう。
4時間後、揚陸艦に搭載されていた車輌や装備などをジブチ基地(仮)周辺に揚陸させ、整地は後にして、宿泊用の臨時テントの構築に施設科や他の科の隊員達が作業にあたっていた。
未だに海底の状態などが分からず座礁を防ぐ為、艦隊は海岸から5km沖合に錨を降ろして停泊していた。
とりあえずこれから数日掛けて施設科の重機を使い整地を行い、恒久的宿舎の建設を行うのである。
当然、艦を無人にする訳にはいかない為、当直の隊員は内火艇などを使い陸地と艦を移動する。
RoRo船に関しては海自の輸送艦のように広いヘリ甲板やウェルドックなどない為、CH-47JAやJV-22などの輸送ヘリコプターにより吊るして揚陸する事になり、重量物は分解して運ぶ事となり、全ての作業が完了するまで軽く3週間程はかかる見通しである。
「佐々木司令、ご無事でなによりです。」
「内田司令も、まさか我々だけでは無く貴方方もこの世界に飛ばされていたとは・・・」
他の隊員が物資の揚陸や仮設テントの施設を行なっている時、艦隊の上層部はヘリコプターでスフィア基地(仮)に来ており、ジブチ派遣部隊の上層部と会談を開いていた。
「えぇ、私達も驚きました。何故自衛隊だけなのかは非常に疑問ですが。」
「疑問は他にも沢山ありますが、とりあえず我々から説明しましょう。」
何故自衛隊だけ?という疑問以外にも、何故燃料・
弾薬が減らないのか?何故GPS衛星などの衛星が無いのにシステムが使えるのか?などの疑問は沢山浮かぶが、それを話していたらキリがない為目先の事に集中する事にした。
「はい、我々PKF自衛隊対中東地域派遣艦隊は核爆発によりこの世界に飛ばされました。その後一番近くのこの国、スフィア王国との接触に成功し、その後紆余曲折ありましたが、この周辺地域を譲渡されました。代わりに有事の際にはスフィア王国に協力する事が条件となります。」
スフィア王国に協力する事は艦隊内部だけで決定した事な為、ジブチ派遣部隊は全く知らないが、彼等と敵対する事を避けられたならそれは安堵する事だった。
また、周辺地域を譲渡されたなら問題無く施設などを建設出来る。
輸送艦内には中東地域で使用する仮設テントや資材なども積んでいる為、問題無く建てられる。
「なるほど、我々は貴方方が核攻撃にあった7分後に核攻撃にあい、この世界に飛ばされた。そのスフィア王国軍という組織とは武力衝突まではなってないものも、非常に危険な状態だった。基地の電気は非常用発電機やソーラーパネルで賄っているが、出力が小さく通信施設とレーダー施設の稼働は不可能だ。隊員は約1200名、装備はF-15JX戦闘機が12機、P-1対潜哨戒機が8機、C-2輸送機が6機、E-2D早期警戒機が2機、KC-46空中給油機・輸送機が1機、その他車輌だ。C-2とKC-46Aは物資輸送に来た時に巻き込まれた為にここにある。」
それを聞いて何故ジブチ派遣部隊に配備されてない筈のC-2輸送機があったのか納得したが、同時にKC-46空中給油機まであったのかと思った。
KC-46空中給油機は航空自衛隊が使っている空中給油機の中で最新の機体であり、空自には3機しか配備されていなかった。
この機体は空中給油ユニットを外せば輸送機としても使える用途の広い機体である。
「だからあったのか、では我々の装備品ですが・・・・」
C-2輸送機が6機も?という疑問はあったが、このジブチ基地は後方支援も兼ねていた事から他国軍に対する装備も含まれていたのだろうと脳内判断をした。
その後艦隊の保有する艦隊・航空機・装備品などの紹介が始まった。
こうしてこの世界に飛ばされた2つの自衛隊部隊は合流したのである。