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「お前達は何処の国の者だ!所属国及び目的を述べろ。」
外交派遣部隊代表の笹浦二等陸佐やその他の交渉官や護衛がヘリコプターから降りると、そこには100名程の兵士が槍や剣を持って敵意剥き出しでこちらを囲んでいた。護衛の自衛官も最悪の場合を想像してMP7A1の安全装置を解除した。
ヘリコプターを囲む兵士達はなんか緑色の兵士とみられる人が短い棒のような物をこっちに向けてくるとしか思っておらず、銃は一応存在しているが、もっと長い物であり、ここまで短い物を銃だとは思っていなかった。
そして隊長とみられる人が1人出てきてそう言うと、外交派遣部隊の代表でもある笹浦二等陸佐が前に進み出し答えた。
「わ、私達は日本国自衛隊です。私は外交を任せました笹浦です。対外派遣中に敵からの攻撃に巻き込まれて気が付いたらこの世界に居ました。ここへは物資などの補給を求めに来ました。」
今のところ何故か燃料及び弾薬は使っても直ぐにもと通りになる為必要無い。しかし食料や医薬品などは減るし無くなる。その為、食料(第1希望は米)や医薬品(医薬品のレベルはたかがしれてると思われるので薬草)を求めていた。
「・・・なんだと?ニホン国など聞いた事が無い!!」
彼は暫く考えた後、この辺りでニホンという国は自分の記憶のなかでは無かった。この辺りでは十数ヶ国の国が有るが少なくともニホンという国は聞いた事も無かった。すると突然奥から声がして軍人では無い服装の人が出てきた。
「そこまでだ!我々の国の者が失礼した。貴方達はジエイタイと言ったな?」
「・・・・・」
笹浦二等陸佐は余りにも驚きすぎて言葉を失った。その出てきた人は人間では無かったからだ。人間より長い特徴のある耳、それはアニメや小説の中だけの架空の存在の筈であったエルフだった。
「あの、どうしたのだ?」
自衛隊の様子に疑問を持ったそのエルフは心配そうな声で聞くが、ここで狼狽える訳にはいかないと、笹浦は平静を装った。
「あっ、いえ、失礼しました。はい、私達は自衛隊ですがそれが・・・」
「?まぁ、いい。私の名前はヒュクスだ。ササウラ殿、女王殿下が会談を希望されている。一緒に登城してもらえないか?」
そのヒュクスと名乗ったエルフの要請に一瞬の静けさがやって来た。日本側もヒュクス以外のスフィア王国側も理解が出来なかった。日本側としてはスフィア王国という国名から恐らく王政だろうと想像は付いた為、国王又は女王に謁見出来たら上出来と思ってたところに、向こうからの会談要請である。
そして暫く静けさが辺りを支配したのをまず最初に破ったのはこの部隊の隊長と思われる人だった。
「ひ、ヒュクス殿!彼等は空飛ぶ鉄の箱で我が王都の上空を侵犯したのですよ?そんな危険な奴等を女王殿下に合わせるなど!」
彼からすればいきなり他国の王都に無断で侵入してきて面目丸潰れのところをに女王殿下との会談だ。王都防空隊のプライドがある彼等は少なくとも侵入者の彼等を客人扱いしたく無かったのだ。それは口には出さないが、ヒュクスを除く兵士全てが思っていた事だ。しかしその考えはヒュクスが発した次の言葉で消え失せる事になった。
「彼等の事は精霊が保障するとの事です。」
「・・・・・せ、精霊が、嘘だろ・・・・」
それを聞いて隊長や他の兵士達はあり得ないと周りの兵士達と話し出し、辺りがザワザワとし出した。しかしヒュクスはそんな彼等には気にも止めず笑顔で日本側外交派遣団に語りかけた。
「では、ササウラ殿。宜しいか?」
「あ、はい。よろしくお願いします。」
「うん、では警戒態勢は解除だ。彼等の乗ってきた乗り物には一切手を触れないように。よろしいかな、隊長殿?」
先程の事ですっかり思考停止していた隊長に、そう命令した。服装から武官では無く文官なのだろうが、彼等に命令出来る立場の為、ヒュクスはかなりの立場のエルフだと日本側からしても直ぐに想像が出来た。
「は、はい。了解しました!」
「では、ササウラ殿、行きましょうか。」
そう言い、彼等外交派遣団(交渉官2名、護衛4名残りはヘリコプターに留守番)は異世界初の上陸後ポンポンと物事が進みスフィア王国の女王と会談する事となった。この事はヘリコプター留守番部隊より艦隊へと伝えられたが、一同に何故こんなに早く女王と会談する事になったのか首を傾げた。そして、この会談で日本側に衝撃の事実が伝えられるのだが、彼等はまだ知らない。
城は戦争用の軍事基地としての城と国家統治としての城の2種類が存在するが、スフィア王国の王都にあるムーンファルーナ城はその両方を兼ねた城であった。否、実際には最初に国家統治としての城が出来、その後に周りに戦争用の城壁が出来た。最初期の建築年数と後付け部分の建築年数にかなりの隔たりがある為、そもそも建築様式が異なるがそれが微妙にマッチしており、新しい美しさを醸し出している。
そんな城内をヒュクスと名乗ったエルフに案内され笹浦二等陸佐を始めとする外交派遣団6名は物珍しさから内心楽しんでいた。そしてそうこうしているうちに部屋に到着した。そしてヒュクスは扉をコンコンと叩いた。
「陛下、ニホンの者達を連れて参りました。」
「入りなさい。」
そして部屋の中に入ると、そこは外交交渉で使われるような木の長テーブルが置かれて部屋の内装は豪華で国の来賓を迎える物となっていた。そして長テーブルの片側にはスフィア王国の大臣と見られる4人の男女とその中心に一際目立つ女性が座っていた。そして笹浦陸佐は挨拶から始めた。
「お初にお目に掛かります。私は日本国陸上自衛隊所属の笹浦二等陸佐です。今回は外交派遣団の代表を務めさせています。」
そして、その後ももう1人の外交担当官が挨拶をすると、今度はスフィア王国側の挨拶となった。それによるとこの会談に出ているのはスフィア王国の宰相と外交大臣、軍務大臣、技術大臣の4名と。
「私はこのスフィア王国の女王のティリフア•ノル•スフィアよ。よく来てくれたわね、ジエイタイの人達。」
女王陛下であった。ちなみに案内をしていたヒュクスもさらっと会談に加わったが、彼の肩書きは女王補佐官であった。そして双方の挨拶が終わった所でティリフア女王がまず口を開いた。
「色々と書きたい事があるんだけど、説明してくれる?」
本来なら外交交渉として問題な口の利き方だが、自衛隊側はここは異世界だから、という考えの元、前世界の考えは全て捨てた。
「はい、畏まりました。我々はこの星とは別の星、地球と呼ばれる星の者です。各種事情があり艦隊で中東と呼ばれる地域に向かっていましたが、航行中に攻撃を受け、気が付いたらこの世界に来ていたという事です。」
「なるほど、でもその事を言われて、はいそうですかと信じられると思う?」
その問いに対し笹浦陸佐は内心、思えませんと返答した。しかしそんな事は口に出さず落ち着いて説明を始めた。
「・・・・我々が乗ってきたヘリコプターと呼ばれる乗り物、貴方方は作れますか?」
そう聞くとティリフア女王は横にいるいかにも文官らしい男性、技術大臣の方を向いた。そして技術大臣は少し考え自分の考えを述べた。
「私の立場としてこういう事は言いたく有りませんが、そのヘリコプターと言う乗り物は作れません。更に彼等の護衛が持っていたのは我々が知る形とは違いますが銃。我々はあんなに小さく銃を作る事は出来ません。それを考えても彼等がこの世界の者では無いと思います。」
その考えに対し自衛隊側は内心驚いていた。ヘリコプターで基地に着陸した彼等を取り囲んだ部隊は剣や槍で武装しており誰一人銃を持っておらず、自衛隊のMP7を見てコソコソと「なんだ、あの短い棒は?」と話していた為、この世界には銃は無い物だと考えていたが、技術大臣の話しでは初期の火縄銃レベルの物はあるそうだ。
「なるほど、それで貴方達は我々、この国に何を求めるの?」
それを聞いて自衛隊の実力を少し分かると(気がするだけ)少し態度を崩したティリフア女王は自衛隊側の目的を聞いた。
「食料及び医薬品又は原料となる薬草です。更に欲を出せば安住の地ですね。我々艦隊の上層部は元の世界に戻れる可能性は低いと見ています。そうなると約9000名近くに上る乗員をずっと艦で生活させるわけにはいかない。」
それは艦隊にいる約9350名(海上自衛隊4380名、陸上自衛隊3600名、航空自衛隊750名、民間人620名)の乗員の事を指していた。
戦闘部隊、補給部隊、飛行部隊、整備部隊とかの艦隊だけで正に戦争出来る形成であった。当然、ストレス軽減の為に定期的に陸に上げさせなければならないのは今も昔も同じであり、更に幾ら燃料・弾薬が無くならず部品が摩耗しないからといえ艦の整備は必須であり、そのドックなども必要であった。
その為にはそれなりの広さの陸地が必要だった。陸地さえ確保出来れば後は陸上自衛隊の施設科に整えてもらい、後は建物なり大体の物は作れる。何しろ燃料が減らないのでショベルカーやブルトーザーなどの重機が使い放題だった。
「・・・・き、9000人ってどれだけの艦隊なの。」
だが、それよりスフィア王国側はその人数の多さに驚いていた。
「総艦艇数24隻の艦隊です。」
「24隻に9000人って・・・・どれだけ大きな船なんですか?」
彼等が知っている船は数十mのいわゆる帆船であった。特殊な機関を使用している為、黒船レベルの造船技術はあったが、あくまでも木造船だった。その為、乗員も100名程度である。
「一番大きい艦艇のあかぎ型は私の胸までの高さを1mと呼び、その単位で284m。この城の横幅と同じくらいですね。最大幅は73m、喫水は9.9mの大きさを誇る艦艇です。」
【あかぎ型】航空機搭載護衛艦は基準排水量4万5000t、満載排水量6万7699tの海上自衛隊最大の艦艇である。いわゆる空母であり、約40機超の航空機を搭載可能である。
あかぎ型護衛艦はイギリスの【クイーン・エリザベス級】空母2番艦の【プリンス・オブ・ウェールズ】を日本が購入し、改装した艦艇である。
大まかには搭載されていた兵装をCIWSやSeeramに換装し、機関を【ながと型】と同じハイドロゲン水素タービン機関に変更した物である。ちなみに購入金額は艦載機別で3620億円(建造費は約4000億円)である。
今回の派遣では36機のF-35JBと4機のSH-60K、2機のMCH-101の計42機を搭載している。空母に必須の早期警戒機はジブチ基地に2機のE-2D早期警戒機がある為、【あかぎ】には今回は搭載されていない。
ちなみに【いずも型】護衛艦も近年の日本周辺の安全保障環境の悪化に伴い1番艦の【いずも】と【かが】にはある機能が加えられた、それが固定翼機運用能力である。
2022年から改修が始められ、イタリアの軽空母【カヴール】のようにスキージャンプ台が備えられた。更に航空機運用に障害となるレーダーやCIWSの撤去及び移動、艦首部のソナーの変更、そして格納庫や燃料タンクの強化などにより基準排水量は2万1500t、満載排水量は2万8000tとなり、最大12機の固定翼機と8機のヘリコプターを搭載出来る。
最も、今回の派遣では【あかぎ】型護衛艦がある為、【かが】にはヘリコプターしか搭載されていない。
「に、284m・・・・・・・」
「はぁ、とりあえず分かったわ。それで、単刀直入に聞くわ。対価は何?」
少し顔が青ざめている技術大臣及び軍務大臣とは違いティリフア女王は堂々としている。しかし少し疲れたのか少し溜息を吐き、自衛隊艦隊に補給するメリットを聞いてきた。そしてその答えは当然用意していた。
「医薬品などがありますが・・・我々は前世界と切り離された以上何処かの国に身を寄せざるを得ない。国土防衛なら我々の力を貸すことも吝かでは無い。」
その答えは自衛隊にとってかなり思い切った決断であった。日本国所属の艦隊が国の許可無しに他国の防衛を担う。間違い無く前世界ならあり得なかった決断であった。しかし派遣前に上層部で決定し、艦隊の乗員約9000名にアンケートを実施した結果、ほぼ全ての乗員が軍人として国防の任務に就く事を選んだのである。
しかしそんな彼等の思いとは裏腹にスフィア王国は自衛隊の技術力は分かったが、軍事力についてはまだ理解していなかった。
「・・・あのヘリコプターという乗り物?アレなら我々の竜騎士で一撃よ?」
交渉団派遣前に【かが】より飛ばした無人攻撃機アヴェンジャーによりワイバーンの速度は時速300km/h程度と既に分かっており、赤外線誘導弾などが探知する事も既に判明している。更にF-35JB戦闘機が42機ある為、王都の制空権を確保しろと言われたら問題無く確保出来る。
「アレは輸送用の乗り物です。ちゃんと戦闘用もありますよ。」
この時スフィア王国側からして見れば笹浦陸佐がもの凄く恐ろしく見えたであろう。当然ながら彼等自衛隊が軍隊だと言う事も分かっているので、攻撃用があるのも分かっていた。それを知っててあえて聞いたのだが、聞いた価値はあったようだ。
「・・・・・・・・」
そして暫く部屋の中に沈黙が流れたが、ティリフア女王がその沈黙を破った。
「とりあえずその艦隊の停泊先はなんとかするわ。とりあえずスフィア海からすぐさま移動する事をお勧めするわ。」
「何故ですか?」
この時始め自衛隊側はその海がスフィア海だと知ったが、それは置いておいて何故ティリフア女王が艦隊をスフィア王国が用意する場所まで移動させるかが分からなかった。まさか呼び寄せて攻撃などと言う手をこの女王が行うとは思えなかった。しかしその不安は直ぐに消え去った。
「クラーケンが出るからよ。我々と対岸の帝国は海洋交易を行っていたんだけど、最近クラーケンがスフィア海に入り込んだみたいで交易船を次々と沈めているのよ。幾ら大きくてもクラーケンの前では勝てないわ。」
そう聞いた笹浦陸佐はもしや?と思った。
「・・・そのクラーケンとはイカの大きい版のような生物ですか?」
「えぇ、正確には魔物化したイカなんだけど・・・何故知ってるの?この世界に来たばかりでしょ?」
「えぇ、まぁ。ちょっとあの箱を。」
「はい。」
そして笹浦陸佐が命令すると横にいた交渉担当官がジュラルミン製のケースを机の上に置き中を開けた。するとそこにはこの世界に来たばかりの時に多機能護衛艦【よど】に襲い掛かろうとした(という報告書を作成した)為、127mm砲と12.7mm機関銃で攻撃した巨大イカの中から出て来た青色の綺麗な宝石みたいなのが納められていた。
「実はこの世界に来た途端に大きいイカみたいなのに襲われましてそのイカを倒したら中からこういう宝石が・・・」
しかしその説明は途中で止まった。何故ならスフィア王国側がその宝石を見て尋常では無い程驚いていた、と言うより驚愕していたからである。