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日本国自衛隊の対中東地域派遣艦隊が核ミサイルによる攻撃にあってから12時間後の夜、司令乗船艦のDD-184【かが】の会議室では、艦隊を構成する護衛艦17隻及び潜水艦3隻の計20隻の艦長、民間船であるRoRo船4隻の代表者、陸上自衛隊、航空自衛隊の幹部5名そして艦隊司令の佐々木一等海佐の計30名で核攻撃後から発生している不可思議な現象と今後について話し合う為に緊急会議が開かれる事になった。
ちなみに【かが】への移送は全ての護衛艦及び民間船にヘリパッドが設置されていた為、ヘリコプターで移送し、潜水艦は内火艇を降ろし【かが】へ移送した。
「わざわざ集まってもらって感謝する。皆も知っての通り我々中東地域派遣艦隊はイランとみられる国家からの核攻撃にあった。だが幸いにも艦艇に被害は無く死者はおろか負傷者も居ない。しかし核攻撃後から衛星関連機器のシステムダウン。地球では考えられない大きさの巨大イカなどが発見されている。」
「発言をよろしいですか?司令。」
そう言ったのはDDG-178、【あたご型】イージス護衛艦2番艦の【あしがら】艦長の向井 義勇一等海佐である。
「許可する。」
「ありがとうございます。我がイージス護衛艦【あしがら】と【まや】【はぐろ】はイランからの核攻撃に対しSM-3対空誘導弾を各1発づつ発射しました。発射後のセルは当然カラで、自動装填装置などはありません。またVLSの管制装置も装填済みを示すグリーンから未装填のレッドになっていました。ですが核爆発後レッドからグリーンに変わっており、機器の不具合かと確認しましたが、機器は正常でした。その為VLSのセルを手動にしてハッチを開けたところ、発射した筈のSM-3対空誘導弾が装填されていました。これは我が艦だけでは無く【まや】【はぐろ】も同様です。」
「・・・発射されたハッチとは別のハッチを開けたのでは?発射された筈のミサイルが装填されているなどそんなゲームみたいな事ある筈がない。」
当然そんな事を言えばこう言う人がいるのは分かっていたし、自分も実際に装填されているSM-3を見なければこの人と同じ事を言ったであろう。
「今回迎撃を担当した3隻にはVLSはそれぞれ96セルずつ搭載されています。ですが、その内SM-3が搭載されているセルは僅か8セルのみです。確認の為全てのセルを開けましたが、全てにSM-3が搭載されていました。」
「そんな馬鹿な・・・・・・」
「司令、私からも発言をよろしいですか?」
【よど】艦長の問いに司令は頷いて返した。
「ありがとうございます。我が艦【よど】はクラーケンとみられる巨大イカに対し攻撃を行いました。その際5インチ砲弾を2発、12.7mm弾を137発使用しましたが、再装填に向かった要員からは1発も撃たれてないという事でした。つまり我々が射撃した弾薬は書類上は1発も射撃していない事になります。」
「・・・・どうなっているんだ?ところでそのクラーケン?はどうなっている?」
「既に解剖とサンプル採取が終了し海洋投棄を行いました。その際そのイカの中、心臓付近空から直径40cm程の蒼色の宝石とみられる球体を発見しました。」
「宝石?材質は分からないのか?」
「護衛艦にそんな解析装置がある訳ないじゃないですか。RoRo船に居る探査チームなら解析可能かと思いますが・・・」
4隻のRoRo船のうちの1隻には中東で石油の探索チームも乗船しており、簡易的な解析装置なら搭載していた。ただ幾ら揺れが少ないからといえ波で揺れる船上で精密な解析などは出来なかった。
「船の中では無理です。少なくとも陸地に上がらないと・・・」
「そうか・・・ところで、各艦燃料はどのくらいありますか?」
その宝石の正体には興味があるが、今はそれどころじゃないとこれからの問題へと戻った。
「フルにあります。」
「同じく満タンです。」
他の艦長の方を見るが皆頷き、全ての艦艇が弾薬と同じく全く減ってない事が明らかとなった。
「司令、燃料は満タン、弾薬も問題なし、更にこの海路画像、我々は地球ではない世界、異世界に存在すると推測します。」
そう言いパソコンを操作し、会議室のパネルに海路画像装置の映像を投影する。するとそこには明らか地球とは似ても懐かない世界地図が映し出されていた。
「確かにこの海路画像はおかしい。GPSとのリンクが途絶えているのに自艦の位置が分かる。私が思うに、この世界は地球より広いのでは?」
海路画像装置は宇宙空間にあるGPS衛星を含む衛星から受診して初めて自分のいる位置などが分かる。見た事もない画像が出てきたという事はこの世界にも衛星がある事を意味していたが、何故か衛星とのリンクを示す所には通常なら衛星の名前が書かれているのだが、今は一切書かれていなかった。
つまりこのシステムとしての不具合を疑うべき所なのだが、再起動した全24隻の艦艇全てがこのような状況なのだ。流石に全てが同時に壊れるなどあり得ない事だった。
「はい。何故衛星とのリンクが途絶えているのに海路画像が表示されるかは置いておいて、縮尺が同じだとすれば地球の2倍程の広さがあります。」
この画像によると艦隊が居る位置は大陸とそこから延びる半島の間に位置する湾に艦隊が居るようであった。だが湾といえ最狭部で1200km、最広部だと3400kmもの距離があり、湾の中に日本列島がすっぽり埋まってしまうようであった。更にこの画像にはこの世界の国々の名前や国境線が記載されており、なんらかの人為的な力が働いたとしか思えなかった。
「・・・現時点にてこの世界が地球とは異なる世界、異世界と仮定して行動に移る事にする。戦時徴収では無いが民間船舶も我々自衛隊の指揮下に入って欲しい。」
防衛出動下での民間船の臨時徴収は可能だが、現在は防衛出動下でも戦時下でも無かった。だが地球ではない世界なのは確かで自衛隊の護衛が無ければマズイ事は分かっていた。
「・・・・・・分かりました。こんな状況で勝手に行動するのはマズイですからね。護衛は引き続きお願いしますが。」
「ありがとうございます。芹沢艦長、現在の艦隊構成艦を報告してくれ。」
そう言い佐々木司令が質問したのは2026年に就役したばかりの多用途護衛艦【ながと】艦長の芹沢 明一等海佐である。
【ながと型】多用途護衛艦は諸外国だとミサイル巡洋艦の区分に当たる大型戦闘艦艇である。満載排水量1万4600tのその艦艇は敵地攻撃能力としてタクティカルトマホーク巡航ミサイルを搭載しており、更に海上自衛隊の艦艇として初めて127mmレールガンを搭載した。
他にも126セルものVLS、左右に2基づつ搭載されている17式4連装艦対艦誘導弾発射筒などの兵装を搭載し、2機のSH-60K哨戒ヘリコプターを運用できる航空運用能力、そしてレールガンに使われる膨大な電力と巨艦を動かす推進力に使用されるのハイドロゲン水素タービンエンジンを搭載している。
このように通常の艦艇とは一線を画す艦艇の為、建造費は1隻辺り2000億円とイージスシステムを搭載してないのにイージス艦以上の高価格戦闘艦艇となってしまった為、2番艦【むつ】の建造は延期され2029年に就役する予定である。
「了解しました。」
「現在、この中東地域派遣艦隊としてこの世界にいる艦艇は指揮旗艦でもあるヘリコプター搭載護衛艦【DDH-184.かが】、航空機搭載護衛艦【DDC-185.あかぎ】、多目的護衛艦【DCG-190.ながと】、イージス護衛艦【DDG-178.あしがら】【DDG-179.まや】【DDG-180.はぐろ】、汎用護衛艦【DD-118.ふゆづき】【DD-120.しらぬい】【DD-111.おおなみ】【DD-112.まきなみ】多機能護衛艦【FFM-204.よど】【FFM-207.いしかり】潜水艦【SS-506.こくりゅう】【SS-509.せいりゅう】【SS-511.おうりゅう】輸送艦【LST-4003.くにさき】【LST-4004.ぼうそう】【LST-4005.つがる】補給艦【AOE-425.ましゅう】【AOE-426.おうみ】そして民間のRoRo船4隻の計24隻になります。」
これだけの艦艇を一挙に失い自衛隊、特に海上自衛隊は大損失だった。
ここまで多数の新型艦艇を失えば日本の国防すら危うい状態だったが、その事を彼等が知る事は二度となかった。
最も失ったのは外洋派遣出来るほどの大型艦艇であり、自国防衛などの艦艇は一切失っておらず、空自はほぼ無傷な為、問題は無いと思われる。
「燃料と弾薬の事は置いておいて。食料はどのくらい持つのだ?あと医薬品も。」
その問いに答えたのは補給艦【ましゅう】の艦長である代々木二等海佐である。今回の派遣では2隻の補給艦は海上自衛隊及び友好国海軍艦艇に燃料や物資・弾薬・食料などを供給する為、派遣された。その為派遣艦隊の食料や医薬品などは補給艦に積まれているのである。
「元々食料支援や医療支援などもありますので食料で言えば8ヶ月、陸上自衛隊のレーションを含めますと約20ヶ月分は問題ありません。医薬品に関しては使用頻度にバラツキがありますのでなんとも言えませんが戦闘により負傷しない限り数年は持つでしょう。」
元々長期航海で現地での調達が難しい為、かなりの食料・医薬品などを積んでいる。更に陸上自衛隊の戦闘糧食、いわゆるレーションなども含めれば1年半は食糧に困る事はなかったが、帰る国がない以上早急に食料の確保が望ましかった。
「なるほど、陸上自衛隊や航空自衛隊の装備品などは問題無いか?」
「航空自衛隊のF-35戦闘機ですが、核爆発後テスト飛行しましたが、整備員によると部品が摩耗していないそうです。」
佐々木司令の問いに対して答えたのは航空自衛隊の司令である吉本 和樹二等空佐である。航空自衛隊はヘリコプター搭載護衛艦(DDH)【かが】と航空機搭載護衛艦(DDC)【あかぎ】のF-35JB部隊担当であり、パイロット・整備士・要員など合わせて750名程である為、他の陸自・海自とは違い司令が1佐では無く2佐なのである。
「ん?どういう事だ?」
「戦闘機には数回飛行すれば交換する部品などがありますが、飛行前の点検と飛行後の点検で全ての部品が一切すり減っていないのです。更に【かが】艦内の航空用燃料を補給しましたが、その燃料計も一切減っておらず満タンのままでした。なんていうか、その時間が止まっているような感じでした。」
今回の派遣では航空支援として【あかぎ】とRoRo船内にに計42機のF-35JBと他にRoRo船内に4機のUH-60J、3基のPatriot pack-3地対空迎撃誘導弾、8基の対空機関砲VADSを搭載している。
「陸上自衛隊もヘリコプターの部品が摩耗せずに、航空用燃料が空自と同じく減っていない。車輌に関しては流石に艦内で動かす訳にはいかない為分からないが、おそらく航空機と同じだろう。」
そう言ったのは陸上自衛隊の派遣部隊司令の渡辺 舞一等陸佐であり、女性ながら高い指揮能力を評価され今回の派遣部隊の司令に抜擢された。現在陸上自衛隊の各部隊や隊員は3隻の輸送艦と民間のRoRo船に分乗している。陸上自衛隊派遣部隊は計3600名であり陸海空3自衛隊の中で唯一の地上戦闘部隊である。