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異世界自衛隊活動記  作者: YF-23
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2

 


「・・令!司令!佐々木司令!!」


「ん・・・あぁ、すまん。はっ!無事か!?」


 気付いたらCIC内で倒れていた佐々木司令だったが、起き上がるとまだ何人か倒れている人もおり、中には救護班に手当てを受けている者も居た。

 それ以外の無事な人も慌ただしく動いていた。しかしそれよりも異常だったのは普段はディスプレイにありとあらゆる情報が表示されているのだが、艦の状態を示すディスプレイ以外のパネルが全て黒い画面、つまりダウンしていたのである。


「はい。現在確認中ですが全員無事です。」


「レーダーや無線機は?」


 そう聞くと今まで答えていた人とは別の人、システム担当官が答えた。

 彼によるとどうやら核爆発とみられる原因により全てのシステムがダウンしたが、艦の制御システムはなんとか復旧させたようである。


「無線機は異常ありませんが、レーダーなどはシステムダウンしており、現在復旧中です。」


「艦の航行に支障はあるか?」


 問題はそれであった。

 艦の航行に支障が出るなら最悪の場合派遣を中止して、輸送艦のみ他国軍に護衛を要請して自分達は日本に帰還する事も十分に考えられた。

 帰還の理由が核攻撃なら防衛省や日本政府の面子と保たれ帰還の理由になり得るからだ。


「システムがダウンしている為、現在艦隊は停止しています。核爆発に巻き込まれた筈ですが、目に見える被害は無く、ガイガーカウンターも通常値です。・・・あと、空気中の酸素濃度が高く、二酸化炭素濃度が低いです。」


 核攻撃を受けたのに放射能を図るガイガーカウンターが正常値を示しているとも異常だったが、酸素濃度が高く二酸化炭素濃度が低いとはますます意味が分からなかった。


「?それはどう言う事だ?」


「値としては産業革命以前の値です。」


 それを聞いて佐々木司令は考えるのを辞めた。自分は自衛隊の人間であり、そう言う事は研究者に任せれば良いと考えていた。


「よく分からんが、早急にシステムを復旧させるんだ。」

「了解しました。」


「・・・なんか嫌な予感がするな。」


 ボソッと言ったが、幸いにもその言葉は佐々木司令以外に聞こえた人は居なかった。





「・・・まだシステムは直らんのか?」


 そう言ったのは【もがみ型】多機能護衛艦5番艦の【よど】艦長の工藤 隆二等海佐である。

【もがみ型】多機能護衛艦はFFMと呼ばれる3900t型量産護衛艦として建造された護衛艦である。

 対空•対艦•対潜をこなし機雷任務を担える次世代型護衛艦である。

 日本の仮想敵国である中国の海洋進出に対応する為、海上自衛隊の艦艇数増強と性能の向上の両立を目指した結果、完成した護衛艦である。

 ちなみにFFM、多機能護衛艦の艦名は日本の河川であり、【よど】は大阪平野を流れる淀川から取った名前である。


「はい。核爆発とみられる爆発の衝撃で色々とやられたみたいで、後30分ほど掛かるかと。」


 核爆弾が上空で爆発した割には何処も壊れていないのだが、その事については誰も指摘しなかった。

 ガイガーカウンターは正常値であり、放射線障害で体調不良になる人も居なければ死亡した人も居ないからである。


「そうか、他は何かあるか?」


「負傷者の救護は既に完了しました。また兵装システムに問題は無く、推進システム、通信システムも問題ありません。」


 つまり自艦の位置などを知るすべは無いが、戦闘や航行などの戦闘艦艇としての任務は遂行できるという事である。


「そうか、となると後はGPSなどの衛星経由システムのみか。」


「はい。他の艦も我が艦と同様みたいです。」


 通信システムは無事な為、僚艦や民間のRoRo船とも通信したが、全ての艦艇で衛星を使用するシステムがダウンしており、現在再起動中であった。

 先程も確認として艦前部に搭載している62口径5インチ砲や12.7mmRWS、SeaRAMなどを旋回させたが、問題無く動いた。


「全く、一体どうなっているんだ?」


「!?。しょ、正体不明の反応を探知!!」


「なに、潜水艦か!」


「わ、分かりません。深度20。距離40。速度は65ノット?」


「65ノット!?そんな潜水艦がいるか!」


 彼等はその報告が信じられなかった。

 65ノットと言えば時速に直すと約120km/hである。

 この【よど】が最大速力約35ノットで潜水艦となると25〜30ノットが限界であった。

 65ノットとは潜水艦などに搭載される魚雷と同じレベルだった。


「し、しかし。!?さ、左舷前方、浮上してきます!!」


 そう言い窓もないCICでも見えるように艦艇の各場所に設置されている外部カメラの映像を出した。

 そしてその映像が映った途端に海面から勢いよく水飛沫を上げて何かが飛び出してきた。


「く、クラーケン・・・・・だと?」


「・・・ダイオウイカ、じゃないよな?」


 そのリアルに欠ける映像を見て彼等はここは本当に地球なのか?と一瞬疑問を持った。

 だが、工藤艦長の命令により皆が現実に引き戻された。


「何をボサッとしている!!対水上戦闘用意!」


「はっ!了解。対水上戦闘よーい!」


「前部速射砲、砲撃準備!」


 そして前部砲塔担当官がコンソールを操作し、62口径5インチ砲がモーターの力により左旋回し、照準をクラーケンに合わせた。


「砲撃準備完了!いつでも撃てます。」


 後は自分の命令さえ有れば攻撃が出来る段階まで来た時工藤艦長は覚悟を決めて命令をした。


「これより艦の航行に支障をきたすと判断し正当防衛射撃を行う。攻撃開始!!」


 工藤艦長はこのままだとあの巨大イカが艦艇を襲う可能性があった為、有害害獣駆除の防衛力行使を根拠として正当防衛射撃を実施する事にした。

 ここにマスコミなどが居れば、「向こうはまだ攻撃して来ていない。」など言うだろうが、そんな悠長な事を言っている暇は無かった。

 そして工藤艦長の命令はすぐさま実行に移された。


「撃ちー方。始め!!」


 そう言い前部砲塔担当官がコンソールを操作し、トリガーを引いた。

 すると【よど】の艦艇前部に搭載されていた62口径5インチ砲がダンッ!ダンッ!と2回火を噴いた。


「お?尻尾が吹き飛んだな。」


「・・・5インチ砲では威力が高すぎるのでは?」


 巨大イカの尻尾?触手?は完全に吹き飛んでおり、127mm砲弾が過剰な事を表していた。

 流石に生き物に対し主砲は過剰威力だったようだ。


「前部砲塔の砲撃を終了。兵装をRWSに変更。射撃開始。」


「了解。RWS、射撃開始!」


 そう言い今度はRWS操作要員がリモートコントロールシステムを操作し、12.7mm機関銃を巨大イカに向けヴヴゥゥゥゥ!!との音を響かせ射撃した。


「射撃辞め!」


 工藤艦長がそう言うと12.7mmRWSの射撃音が止んだ。

 既に巨大イカは2発の5インチ砲弾と数百発の12.7mm弾を受けボロボロであった。


「生きていると思うか?」


「間違い無く死んでますね。研究機関に引き渡す必要があると思います。」


 今までに見たことも無いような生物だ。

 噂のダイオウイカなんかより遥かに大きく、核爆発の事が無ければ間違い無く新聞の一面を飾るだろうと思っていた。


「後部のクレーンでヘリ甲板に引き揚げるしかないだろう。」


【よど】は無人機(UAV)や掃海用具などを吊り下げるクレーンを艦後部に搭載しており、重そうな巨大イカでも吊り下げる事が出来るだろうと思っていた。

 何せ本来は数tもある機器を吊り下げている為、流石に巨大イカが許容値を超える重さは無いだろうと考えていた。


「ヘリの運用が出来なくなりますが・・・」


【よど】には艦載機としてSH-60K哨戒ヘリコプターを搭載しており、使ってない今は艦後部のヘリコプター格納庫内にしまわれていた。

 今回の派遣でヘリコプター格納庫を持つ全ての艦艇はヘリコプターを搭載しており、格納庫があるけど常備搭載はしない艦も搭載していた。


「大まかな検査をしてサンプルを採取したら海洋投棄だ。早急にヘリが必要な事態にはならんだろ。とりあえず戦闘終了だ。」


 研究素材と言え生物を延々と日本に帰投するまで置いておくわけにはいかず、簡単に検査して、サンプルを採取した後は海に返す事となった。


「了解しました。総員、戦闘用具納め。」


 その命令に対し被っていたバイザーやイヤホンを外した。そんな慌ただしく動く要員の中工藤艦長はボソリと呟いた。


「何かおかしいな・・・」


 そして、その声を聞いた者は居なかった。



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