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異世界自衛隊活動記  作者: YF-23
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 2027年4月14日

 日本国 首都東京 千代田区

 総理官邸 総理執務室


「総理、依然としてインド洋沖で消失したPKF中東地域派遣艦隊は艦艇はおろか残骸一つすら発見されていません。」


「そうか・・・」


 防衛大臣からの報告を聞き、日本国内閣総理大臣の北条 隆久は椅子に深く座り込み、そう返した。

 そして、ふと執務室内のテレビを付けると中東地域の混沌とした状況や消失した自衛隊艦隊についてのニュースばかりやっていた。


『3月16日にインド洋沖でイランからの攻撃を受けたPKF自衛隊派遣艦隊の詳細は未だ不明です。またパキスタンとインドの武力衝突も日に日に激しさを増しており、付近地域では緊迫した状況が続いています。』


 そこで次のチャンネルに変えた。


『付近海域では中国海軍や韓国海軍の転覆した艦艇や艦艇の残骸などが発見されている事が明らかになっていますが、放射能汚染が激しく捜索隊を出す事すら出来ません。爆心地付近のディエゴガルシア島に駐留しているアメリカ、イギリス両軍は一時撤退する事を決定し、島は無人となっています。またジブチ基地に駐留している日米仏中にも核攻撃が加えられフランスがイランに報復、イラン各地で核爆発が起きていると思われ死傷者は計り知れません。死者行方不明者は日本だけに限っても1万人以上はいると推測され、海上自衛隊では主力艦艇を大量に失い、国内から自衛隊の防衛力低下を懸念する声も上がっています。』


 更にチャンネルを変えた。


『国会前では今回の派遣を決定した北条総理の辞任を求めるデモが連日行われており、別の場所ではイランに報復攻撃を行う多国籍軍に参加するべきとのデモも行われており、警視庁は警官隊を派遣し、衝突を防いでいます。同様のデモや抗議活動は東京だけでは無く名古屋や大阪などでも行われており、3日前には大阪府知事の要請により陸上自衛隊に治安出動命令が発令されおり、他にも愛知県や福岡県などが検討しているとの事です。』


 そこで総理はテレビのスイッチを切った。


「今回失った自衛隊の装備や死者・行方不明者などに防衛省内で約3兆円程必要になるとの試算が出ています。海上自衛隊だけでは無く中国海軍や韓国海軍も甚大な被害を受けた為、幸か不幸か何とか周辺地域の軍事バランスは保たれています。」


 今回の核攻撃でアジア地域で大きな被害を受けたのは日本、韓国、中国の3ヶ国である。

 日本の海上自衛隊は海軍戦力の約3分の1を喪失、海上自衛隊現状唯一の航空機搭載護衛艦【あかぎ】を喪失している。

 新造の2番艦【あまぎ】は2028年の就役を予定しているが、自衛隊の空母2隻体制は崩れてしまった。

 更に8隻のイージス艦のうち3隻を喪失している為、北朝鮮の弾道ミサイル防衛に問題が起きる可能性がある。

 ただ潜水艦は22隻中3隻の喪失にとどまっている為、海上自衛隊の潜水艦ドクトリンはなんとか健在である。

 韓国に関しては海軍第一艦隊を派遣しており、韓国海軍が保有する4隻のイージス艦のうち3隻が含まれていた。

 更に、韓国海軍の象徴と呼ばれている空母【ソウル】も含まれている。

 その第一艦隊の一部は付近海域で残骸となって発見されており、海軍力としては約3分の2を喪失した。

 中国海軍は沿岸海軍と呼ばれている艦艇は一切喪失していないが、近年になって力を入れている外洋艦隊のうち片方の艦隊を喪失した為、結果的に2010年代の軍事バランスに戻ってしまった。

 またジブチ前哨基地も喪失している為、中国のアフリカ戦略に大きな支障をきたす事は間違いないとみられている。


「・・・韓中両国艦艇はどれ程発見されている?」


「中国海軍艦隊は官民合わせて35隻の艦艇が中東地域に向かっていましたが、これまで残骸などが確認されているのは8隻のみです。ちなみに全て海軍艦艇で中には055型駆逐艦も含まれていました。」


 055型駆逐艦は中国海軍の大型駆逐艦である。

 海上自衛隊のながと型と同等のサイズの艦艇であり、高い防空能力や対艦攻撃能力を有している為、日本や東南アジアなどの周辺国からしてみれば脅威であった。

 他国の区分だと巡洋艦に分類されるその艦艇は新型レーダーやレールガンなどの多数の新技術が搭載され、顔には出さないが、防衛大臣は心の中ではガッツポーズをしていた。


「なるほど。それで、韓国は?」


「韓国海軍は8隻の艦隊ですが、現在までに5隻が残骸として発見され、軽空母【ソウル】を始め3隻が発見されていません。」


 爆心地から中国海軍艦隊は約70km、韓国海軍艦隊は220km地点に居た。

 20Mt級の核爆弾が爆発した為、爆心地に居た海上自衛隊艦隊だけでは無く、他の地域にもかなりの影響があった。

 高さ20m〜30mの津波が波紋のように広がり中国艦隊、韓国艦隊をのみ込んだ。

 更にその津波はインドや東南アジアにも被害をもたらしていた。


「全て消えたのは我が国だけか・・・」


「はい。」


「・・・分かった。それで?北朝鮮などに動きはあるか?」


 今回、韓国が失ったのは海軍戦力のみである。

 陸続きの朝鮮半島で対北朝鮮と考えるなら余り重要度の薄い戦力である。


「アメリカの38ノースが北朝鮮の弾道ミサイル発射場で動きがあると発表しています。更に一部部隊を38度線の韓国との国境地帯に集めているとの報告もあり、今後挑発的行動を取る恐れがあります。特に中国が海軍艦隊を失い、ロシアにも多少のダメージがある今、両国の縛りが緩んでいる可能性があり目が離せません。」


「イージス・アショアやPAC-3などの迎撃システムなどの展開は?」


 山口県と秋田県には弾道ミサイル迎撃システムであるイージス・アショアが設置されていた。

 当初はTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)かイージス・アショアのどちらかというか案だったが、いざイージス・アショアの配備が完了すると「更なる弾道ミサイル迎撃能力の拡充を!」という声が上がり、最近ではTHAADの導入計画まであがっている。

 ちなみにイージス・アショアは2基あれば日本全土をカバーできるが、THAADは日本全土をカバーするには約7基程必要である。

 イージス・アショアの価格はゴタゴタがあり結果的に1基3000億円で計6000億円。

 THAADは1基2000億円の為、計7基で1兆4000億円である。

 いろいろあって防衛費が上昇した日本でも1兆4000億円+維持費の支出はキツイものがある。

 ただでさえ日本は24個高射隊120機のパトリオットPAC-3を保有しており、維持費だけでもかなりの額が毎年計上されている。

 その為、MD(弾道ミサイル防衛)に自衛隊の予算が圧迫されているという批判もある。


「イージス・アショアに関しては24時間365日運用ですが、PAC-3に関しては市ヶ谷の防衛省前や大都市の駐屯地などに展開しています。」


 これに加え更に、海上自衛隊のイージス艦とアメリカ海軍第7艦隊のイージス艦の計3〜4隻体制は続いており、数発程度の弾道ミサイルなら迎撃出来る自信が防衛大臣にはあった。

 アメリカの早期警戒衛星だけでは無く日本の情報収集衛星など、宇宙からの監視体制が強化された現在、弾道ミサイルの迎撃成功率は95%を超えていた。


「破壊措置命令は継続中だな?」


「はい、常時発令状態です。」


 さまざまな制約がある自衛隊だが、弾道ミサイルの迎撃については別だった。

 通常、自衛隊が弾道ミサイルを迎撃するプロセスを実行する時には総理大臣の破壊措置命令と呼ばれる許可が必要である。

 この破壊措置命令は防衛出動のように国会の議決は必要無い物だ。

 だが、弾道ミサイルが発射されてから総理に確認を取っていれば迎撃は間に合わない。

 その為、現在自衛隊法82条の3により、常に命令を出しておく常時発令と呼ばれる形態をとっているのである。

 この常時発令は3ヶ月毎に防衛大臣が命令を更新させ効力を継続する必要があるのだが、2016年8月8日より今現在に至るまで破壊措置命令の常時発令は続いている。


「全く、いつまで続くんだか・・・」



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