昼下がりのジネン童
その後、そのまんま、ジネンはオフィス街の外れの歩道に設置されたベンチから動かずに、チマチマチマチマ、パソコンをいじって入力を済ませた。
俺がノートパソコンをたたみ、ファストフードショップに入ったのは午後2時過ぎ。
まだ、やっていたランチセットを頼み、支払いは、わさとスマホの引き落とし……払えた!
これは、大浜直柔名義が使えるんだな。
この世界には、もう大浜直柔名義の口座が在るんだ。
『そう、僕が書き換えたからな』
得意そうに、ジネンが言った。
急に、メールとかの着信合図がひっきりなしんなった、スマホ……誰が、この出てきたばかりのスマホのアドレスを知ってるんだよ?
持ち主の俺すら知らないのに?
『そこは、ちゃんと書き換えたから、前のままだな。死んだ才谷直陰のアドレスと番号が、以前とは変わってるんだ』
ジネン、作業が細かいな。
『転生前の才谷直陰と、今の大浜直柔は従兄弟で親友って書き換えたから、友人関係は変わらんはずだ』
いや、俺が俺の親友って、なんて雑な設定だよ。まんまコピーなおんなじ顔のふたりが、親友って違和感すごいだろうが?
従兄弟とは言え。
てか、大浜の叔父さん、独身だったろうが!?
大浜方に従兄弟なんか居ないだろ?
『違和感が出たら、後で、僕が微調整しとくから心配ない』
なら、いいか。
『それにな、今の直には、イレギュラーな僕が付加されてるから、外見は微妙に直陰とは違ってるから大丈夫なんだな』
へいへい、微妙にね。
とりあえず、出てきた物を持って、窓際の席に陣取る。
腹ごしらえをしながら、スマホ着信は無視して、ニュースサイトを視ると、俺はどうも午前中にもう死んでたらしい。
重機で崩落した瓦礫を動かし、正午前に……12時前には正式に俺の死亡が確認されたらしい。
いや、死亡が確認されたのは、才谷直陰だった俺はだな。
で、午後の2時前に俺は大浜直柔として転生している。
死んだ実感も転生した実感もまるでないんだが、視界の端に、現実にビルが一部崩壊して……崩落か……してるのが見える。
そして、崩落したところが突っ込んだ、その部分にはブルーシートと、立ち入り禁止の黒黄色のテープが張られてる。
つまり、見えない。
大通りは通行止めだ。
このファストフード店からも現場のブルーシートやら、警官やら、重機の作業員やらがうごめいているのが、良く見える。
規制線はまだ張られたまんまだ。
警官が居るんだから、隣のビルの崩落の危険性はないんだろうな。
『ないんだろうなでなく、僕が無く書き換えたんだ!直は視てただろうが、僕が数値を入れ換えてるところを!?』
さっきパソコン上でジネンが数字をいじってるのは視てたが、あのビルに関してだとはわからなかったんだよ。
いじったのは、俺関係だけだとばっかり思ってたんだよ。
『あのなぁ、僕は高次元意識体だ。何回もいうが神様なんだぞ。直が好きなゲームのスキルで言ったら、そうだなぁ……ルールマスターだな。それに付随したスキルもあるんだからな。直も神様時の記憶を取り戻せば、僕の見習いっ小僧に成るはずなのに……まったく』
なら、ジネンのルールマスターのスキルで、俺の神様時代の記憶を植え付ければ良いだろうが?
『テ、お前は、バカか?神様が同位の神様の書き換えが出来るわけないだろう!僕が直に出来んのは、人としての直の書き換えだけ』
何故か偉そうに言われた。
まぁ、神様なら偉いんだろうがよ。
『僕は偉くはないぞ。たまたま、そういう風に存在していただけだからな。偉いんだ、なんて認識していたら交代なんがしたがらないだろがよ!』
確かに、ジネンは交代を、こころまちにしてたな。
『お前に記憶さえ戻ってれば、僕は、本来の休暇の時期が違うから、人の内に潜んでて、本来の休暇の60年後に新生児で産まれて、それから正式に人の人生をのんびり楽しめたはずなのに!なのに、交代しようにも、死んで戻って来ても、お前は記憶が戻ってなかった。前倒し出来るつもりが、ぬか喜びになっちゃったじゃないか!』
じゃぁ、ジネン、もし俺が老衰とかで58年後に死んでたらどうなってたんだよ?
『神様の記憶が戻ってるな。僕がこの前交代した時も、72才で死んでから、記憶が戻って来てたからな』
60年も58年も誤差の内か、そういうモンなんね。