産まれて来て御免ね
『無くした記憶の代わりに、僕を取り込むなんて、イレギュラーすぎだぞ!』
頭の中でだか、意識の中でだかで神様が甲高い声でわめいた。
「すまん」
一応、謝る。
『それに、この身体!産まれてから16周期は経ってる、元の身体じゃないか!ちゃんと新生児に産まれ替わってない!?ミンチに成る寸前の身体を複製移動したな!』
それは、分からん。
分かるのは、俺が、隣の某国の総連のビルの老朽化の挙げ句の崩落に巻き込まれて、古着屋の試着室ん中でミンチに成って死んだ事。
家電量販店本社ビルの巨大ディスプレイの中で、キャスターが、崩落事故に巻き込まれた唯一の犠牲者として俺の事を連呼している。
【巻き込まれた、吾勃区多古の壺の才谷直陰君(16才)、私立犀帝高校1年生】
なんてテロップも大型ディスプレイに流れてる。
ここにピンピンして居るのに。
俺の格好はというと、あの試着したアロォハァ〜な服装に、元神様のノートパソコンを抱えてるだけだ。
うん、海辺かプールサイドがピッタリな出で立ちだ。
何なら河原のバーベキュー場もいけるかも。
ただしここは、街中だ。
繁華街の外れで、まぁ、オフィス街とも云える。
とにかく、ここでの俺は、元神様のブーメランパンツで無いだけましな、異物感満載な服装だ。
その上、持ち物んはノートパソコンだけ。
あ、元神様のスマホも、ノートパソコンに接続されてんな。
『元じゃない。僕はまだ神様だ。分霊しても居ないし、お前みたいに人の子として顕現する前だからな』
甲高い声もそのままに、頭の中に響くな。
つまり、俺は神様と一身同体んなって、元居た世界に復活したんか?
『いいや。僕というイレギュラーが存在するために、元居た世界なのに、すでにそれとは異なる世界になったところにいる。いわは、産まれないで、死んだ時の姿で移動したみたいに、この異なっちゃった世界に転生したって事だ』
何か、しちめんどくさい言い方してんな。
中2の時の、ハズカシイ時期の俺みたいだな。
「どうすべ」
神様にお伺いだな。
『もう、僕の用意していた、設定をマイナーチェンジして上書きするしかない!この世界の才谷直陰は死んでるんだから!身体を借りる』
ガキんちょ神様は勝手に、俺の身体を操り始めた。
ノートパソコンを立ち上げて……開くだけで立ち上がるのか……ワード……じゃないな、兎に角、訳の解らない文字をタイピング。
『知覚視覚を調整同調させるよ。文字が劇的にかわるから驚け!』
とたんに読めなかった文字がホントにかわった!
浮かび上がったのは【名前・大浜直柔】だ。
大浜って、母さんの旧姓じゃないか?
【生年月日・××××年2月7日午後10時41分28秒】
日にちは俺の誕生日たが、年表示が今年から60年後じゃないか?
時間は知らんが?
俺の手で、神様が××××年をデリート。
年と俺の誕生年を入力。
で、エンター。
あ、別画面を開いて、コピーしてるが、今までの俺のデータじゃねぇかよ!
それを、大浜直柔名義のページにペースト。
その中から、地名の書かれた画面を開く。
『しかたない、隙間を創る。面倒臭い事が起きない様に、祈っててくれ』
今度は、地名番地緯度経度が書き換えられてゆく。
『とりあえず、今はこんなもんだ。僕等がキチンと同一化出来れば、言うだけで、見るだけで、思うだけでかわるからな』
そしてエンターが押された。
忽然と、俺の目の前、ノートパソコンのディスプレイに、大浜直柔の原付の免許証が浮かび上がった。
大浜直柔の犀帝高校の学生証も、大浜直柔の健康保険証も、パソコンのディスプレイに浮かび上がった。
てか、財布に入れて有った、カードの類いが、ノートパソコンのディスプレイから浮かび上がって、ぼろぼろ実体化して飛び出してる!
札に硬貨に、何かの鍵が幾つかと財布。
終いには、スマホまで転がり出てきた。
『これから、お前は、大浜直柔だ』
書き換えが一応終わったようだ。
この世界の才谷直陰が死んで、大浜直柔が産まれたんだ。
俺が大浜直柔なら、神様、お前は何て呼べば良いんだ?
『そうだな……ジネン童と呼べ。うん、ジネンでいい』
神様はジネンか。