死んでしまったのか
『……おぉ!才谷直陰!うっかり死んじまうとは!何事だい!』
辺りに響く、妙に甲高い声が呼ぶ、才谷直陰は、俺の名前だな。
死んでしまったのかって、いやいやいや、死んでないだろう。
ちゃんと意識もあるぞ?
周りも見えてるし、この声も聴こえてるんだから。
つまり……これは、夢だな。
足元は、何処までも続く霧のカーペット。
何か、ドライアイスを水に浸けた後の様だ。
空は抜けるような青空。
雲ひとつ無い。
何処をみても、太陽が見えないんだが、明るい。
俺は、Tシャツにアロハシャツを引っ掻けて、短パン履きで、頭にはストローハット。
霧から足をあげると、素足にビーサンだ。
Tシャツの襟首にはグラサンが引っ掛けてある。
この格好は、さっき、大通りの古着屋の試着室で着てみた、一式と同じだな。
何か視線を感じた気がして、後ろを振り向くと、グラサンかけたガキんちょが居た。
3〜4学年下くらいの、小学校高学年くらいな、男のガキんちょだな。
ビーチパラソルの下で、デッキチェアの背もたれを倒して寝てる、ブーメランパンツのガキんちょ。
寝てるガキんちょの傍らの、メッシュの小テーブルの上には、ノートパソコンとスマホ。
と、トロピカルなドリンク。
俺は、海水浴場に来たんだっけか?
いやいやいや、オフィス街に近いところにある古着屋に居たはずだ。
『お前、戻るの早すぎ!』
妙に甲高い声で、牡ガキが馴れ馴れしく喋りかけてきた。
てか、馴れ馴れしい小坊に、お前呼ばわりされるいわれは無い!
「てめえは誰だ?」
『高々17周期で僕を忘れたか?』
グラサンを取ったガキんちょは、何か小6ん時の俺に見える顔をしてた。
身内か?
けど、俺には弟は居らんし、従弟も居らんぞ?
「ホント誰?」
親父に隠し子でも居たのか?
『僕等は、同じ高次元意識体だろうが!』
ガキんちょが、言った。
「高次元意識体?なにそれ?それにここ何処?」
聞き返してやった。
『平たく言うと、僕等は【神様】だ。そして、ここは神様だけの座する場所だ』
「神様?神様だけが座する場所?俺も居るんに?まぁ、神様でも何でも良いけど、古着屋に戻してくんない?多分、スマホも時計も財布もみんな試着室なんだよ」
手を突っ込んでもポケット空っぽだし、バッグ持ってねぇし。
「そうだよ、バッグん中の原付の免許もだ!」
こないだ取った免許もねぇし。
『ホントに、17周期できれいさっぱり忘れたんだな』
呆れた様に言われた。
『ここは神様の座する場所。つまり、ここに居られるんだから、お前、えぇと、才谷直陰も神様なんだ。神様なのにお前、自力でさっきまで自分の居た世界に戻れないのか?』
ガキんちょ神様に見つめられ、言われたが、さっぱり意味が解らない。
『……そうか!お前は、オキシトシンを浴びて産まれから、忘れてしまったか!』
オキシトシン?
てか、この考えがまとまると、辺りが見えなくなるとことか、妙に自信家そうなとことか、中学生ん時の俺の記録映像を視てるみたいなんだが?
見た目は小6な俺だが、言動は中坊な俺だ。
「……もしかして、てめえ、俺?」
『さすが、記憶を失ってても僕だな。ホントなら、まだ60周期も先の計画なんだが、死んでしまって、自力で戻れないんだからしょうがない。今、交代しよう。これからは、お前が僕の代わりにここで管理をしてくれよ』
俺に、神様なガキんちょ時代の俺がノートパソコンとスマホをぐいぐい押し付けてきた。
「まて、俺には、神様の記憶なんかねぇよ!」
『あ?ホントかよ?ちょっとオキシトシンを分泌して浴びたくらいならそんな事はないはずだ。おい記憶を覗かせろ』
ガキんちょ俺が抱きついてきやがった!
てか、前から肩車して来たぞ!
俺の頭を上半身で抱えてこんで、俺の鼻先にブーメランパンツの前を押し付けてきやがった!
『……あ、ホントだ!ダメだ!僕にも予想外のイレギュラーで死んでしまったのがまずかったか!これは!!……待て!待て!待て!』
小6の俺のでも、そんなモノを顔面に押し付けられてじっとして居られるか!
気色悪いんだよ!
振り払う!
『待て!こら僕の半神!まだ、記憶コピーも移動も終わってないぞんだぞ!!』
ガキんちょ時代の俺な神様が、悲鳴を上げた。
俺は帰るんだよ!
とたんに、足元の感覚が頼りなく成って、凄い落下感が来た!
『バカァァ!今、帰るスイッチを入れるな!ギャーァァ!』
「入れたつもりはない!ヌォォー!」
この落下感、気持ち悪い!
ノートパソコンとスマホを抱えて、落ちてる!!
で、ブラックアウト。