第2章「政略結婚」
はい!どうもディーです。
まさかの初日で市民権が与えられた奏太と小百合。
しかも、身を捧げよとは?
女王の真意が明るみになる第2章。
始まります!
追伸:現実世界への反逆者は毎週日曜深夜0時に投稿予定です。
僕はハロルドに付いていった。
侵入した時とは違って、改めて見たせいか、この施設は軍の基地というにはあまりにも、輝かしく、まるで、高級リゾートホテルのようだった。
「私は姫様に使える身。ですので、これははっきりさせておかけばなりません。」
唐突にハロルドは僕にこう切り出した。
「奏太殿。姫様があなた達の市民権を認めたのは、あなたがこの国で一番の魔力を持たねば抜けない我らが国の長の証である聖剣『ネビュラ』を鞘から抜いたからです。あの剣は代々の王の並外れた魔力がなくては絶対に抜けません。私が抜けなかったのもそれが理由です。さて…」
ハロルドは目にも止まらぬ勢いで僕に剣を向けた。僕と剣先の距離は一センチもない。
「あなたは我々の味方になりますか。敵になりますか。」
「わからないじゃないですか?」
僕はそう答えた。そして、こう続けた。
「僕は貴方達の国の人の生き方を知りません。それすらもわからないうちは、決められません。それでも、決めろというのであれば、僕は貴方を国民の基準とし、この国は横暴な国として、僕の中で処理します。」
手持ちぶさたの癖に格好つけてしまったと後から後悔した。
しかし、ハロルドは剣を納めた。
「ふふっ、わかりました。ならば、姫様に国を巡る手筈を整えてもらいましょう。きっと、姫様も了承してくださる筈です。そして、この国を私は大変愛していて、どの世界でも一番と考えています。まぁ、自国が一番なのは当たり前ですが。」
あぁ、耳が痛い。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。では、改めて、私は姫様直属の騎士。ハロルド・ネルソン・アルターと申します。ハロルドで構いません。以後、お見知りおきを。」
そう言ってハロルドは微笑んだ。
「では、改めて僕も。僕は小澤奏太。今年で15になります。僕も奏太でいいですよ。よろしく、ハロルド。」
「いえいえ、まだ貴方は客人です。そうでなくとも奏太殿と言うのは何故かしっくりくるのです。どうしてもやめろというなら、変えさせてもらいますが。」
「そうか。ハロルドがそれで良いなら、かまいません。僕はハロルドと呼ばせてもらうね。」
「はい。どうぞ。」
さっきまでお互いを警戒していたのが嘘のようだ。
おそらく、女王を姫様と呼ぶのもその口だな。試しに聞いてみるか。
「そういえば、どうして女王様は『姫様』と呼ばれることを嫌っているの?意味は変わらないと思うんだけど。」
まだまだ、女王の自室まで遠いと思った僕はハロルドとの会話を止めたくなかった。無言で歩くのは気まずいからだ。
「あぁ、それですか。」
ハロルドは再度微笑み、こう答えた。
「ところで、我々はどうやってこの世界に来たと思います?実を言うと、この国が飛行したまま落ちないのも、奏太殿の世界に転移してきたのも、全ては王族の方々が人柱となり、文字通り、国に命を捧げてきたからです。そのせいで、姫様の父上であられる前国王様も、この世界に来る前の世界への転移の際、魔力不足で人柱になられることを決意したのです。見事な英断でした。僕が物心つく前の話で覚えているわけではないですが。」
たしかにしばらく話は続きそうだが、なんともまぁ重い話だと思った。
「そして、前国王の妃様は、前の世界で前国王を失ったショックからか、売国奴に成り果て、最後は私の父がその手で首を落としました。そして、姫様が姫様と呼ばれるのを嫌うわけですが、先の話の通り、物心つく前から両親二人に先立たれ、重臣達は姫様を大事に育てました。今でも当時の重臣達は姫様のことを子供のように可愛がり、姫様は威厳を出すべく、女王と呼ぶように、重臣達に申し付けました。しかし、守る者は誰一人いませんでしたがね。」
あまりにも簡単な理由で今度は軽く声を出して笑ってしまった。だが、聞いた感じだと、母親が彼女の中の心の闇になっていないのかと少し考えたりもする。案外闇が深い内容に雑談のチョイスを失敗したとも思ってしまった。
「私からも一ついいですか?少し疑問に思ってしまうことがあるので。」
ハロルドも会話を続けたいのか、僕に質問する。
「奏太殿は自分の世界に未練はないのですか?」
「そんなものは最初からないです。」
当たり前だ。ただ、盲目的に群がる女子の群れ。それに嫉妬する男子。そして、その光景を哀れむだけで何もしない人間達。
僕はその全てが嫌いだ。
ハロルドはその一言で気持ちを読み取ったのか、わかりましたと軽く返答をするだけだった。
「さて!お互いにわだかまりがなくなってスッキリしたところで、そろそろ姫様の部屋です。」
ハロルドはノックをして、ドアを開けた。そして、僕を最初に入るように促した。
「待っておったぞ。」
中には『姫様』と小百合がいた。
小百合は少しうつむいている。
「さて、奏太よ。その体。私に捧げてもらうぞ。」
どうやら、僕の聞き間違いではなかったらしい。
「では、ハロルド。」
「はっ!奏太殿。失礼!」
そう言って、姫様から命令されるでもなく、ハロルドは僕を羽交い締めにした。
あまりの唐突さに僕も呆気にとられた。
そして、姫様は
「痛むかもしれんが、我慢せよ!」
そう言って、僕の上半身を裸にし、胸元に針を刺した。軽く刺したので、血は少し膨らむ程度だった。そして、姫様はその膨らんでいる血を舐めとった。
アレの前の儀式なのかなと僕は考えたりもした。だが…
「ふむ、何も味がしない。あ…でも、味が引いてきて…」
その、なんというか、なんとも言えない反応に僕らは戸惑った。
そして、姫様が落ち着くと、いきなり…
「濃すぎる!」
と文句を言った。いや、いきなり血を舐めとられて文句を言いたいのはこちらなのだが。だが、それよりも…
「僕はそこまで血はドロドロじゃありせん!」
僕はまだ中学生だ!血がドロドロになるような不健康な生活はしていない!
すると、ハロルドが…
「失礼。姫様が申された『濃い』とは体内魔力の濃度の話です。」
と誤解を解いた。さらに続けて…
「それと、姫様に濃いと言わせるとは…もしや、偉大な賢者のご子息でもあらせられるのですか。」
と驚きとフランクな皮肉が混ざった反応をした。
「でも、これで体を捧げるというのは終わったんですか?」
僕がそう聞くと、姫様は…
「うむ、そうだな。だが…」
続きは遮られた。いや、本人は遮ったのを気付かなかっただろう。
「じゃあ、性的な意味での捧げるではないんですね!良かったー!」
そう言ったのは小百合だった。
何故、小百合が?とも思ったが、たしかに王族の血に交わるということは雑務も任される可能性が増えるということもありえる。
そうなると、僕と離れた小百合はこの国で一人になってしまう。
「たしかに、そういうことですよね?」
と僕も便乗した。すると…
「最後まで話を聞けぃ!強い魔力があるとわかった以上、貴様は私と寝るのだ!そ、その性的な意味で…」
姫様の顔は赤かった。いや、だがそれ以上に…
「気がはようございます!姫様!重臣達も姫様がいきなりそんなことをなされては、混乱してしまいます!」
ハロルドはものすごく慌てふためいていた。
「ええい、止めてくれるなハロルド!私ではなぁ!…私ではなぁ!…」
姫様は涙目になって
「私では!もうあの剣は抜くだけしか出来ないのだ。もう、王族では振るえる者はいないのだ!それを!あの男は軽々抜き、平然と合格か否かを聞いてきた!ということは、あやつはこの世界でただ一人、あの剣を振るって戦えるということなのだ!ならば、その男と寝て、子孫にこれからも剣を振るってもらうしかなかろう!」
姫様は剣を振るえない。それは恐らく、この場にいる四人しか知らないのだろう。
「奏太よ!貴様も亡命者なら、その身はもう私のものだ!」
彼女をここまで追い込んだのは、誰でもない。彼女自身だ。それだけは僕でもわかる気がした。だが…
「ハロルドの言うとおり、気が早いですよ。姫様。」
「姫と呼ぶ…」
姫様を無視し、僕はこう続けた。
「お互い、まだ若い。この年で政略結婚というのは、あまりにも愚策だ。今すぐやったところで、誰の得にもならない。それとも姫様は自分を哀れみたいだけですか?」
煽りまじりに、僕は姫様を説得した。
「ッ!…」
姫様は悔しいだろう。たかが亡命者に煽られて、姫様は悲しいだろう。亡命者に事実を突き付けられて、だが、正論はただ筋が通っているだけだ。こっからまだ足掻くこともできる。しかし、姫様は…
「取り乱してすまない。たしかに貴様らの言うとおりだ。では、体の件はもうしばし、待つとしよう。だが、せめて今のうちに結婚はしておかないか?」
とさっきの判断は愚かと認め、その上で結婚を迫ってきた。
しかし、これには絶対反論が入るのだろう。
「ちょっと待ってよ!」
ほら来た。この中ではおそらく結婚も納得しないのは一人いるだろう。そう、小百合だ。
「私達の国では結婚は男18女16なのよ!それに…」
わかっている。そこに続くものが本命なのだろう。一人は辛いからな。
すると、姫様は…
「安心せよ。私達の国は13を越えれば結婚できる。そして、一夫多妻。多夫一妻もできるぞ。」
とド天然の勘違いをした。
しかし…
「そ、そういうことじゃ…」
と何故か小百合はたじたじになった。
すると、姫様は何かを察したのか…
「ふむ、では結婚の話はしばらく待つとしよう。あまり急ぐことでもないしな。」
と結婚の話も取り止めにした。
「今日はもうよいぞ。ゆっくり休むといい。ついでに街を見てくるとよい。ハロルド!貴様に休暇を与える。何故かはわかるな?」
ハロルドは手間を省けたことと、自分の街を誇れる機会を貰ったからか、
「はっ!」
と言う声が少々大きかった。
国に人々が誇りを持てる。
そんな国を見れることに僕は明日が少々楽しみになってきた。
僕は亡命初日、軍施設という名の高級リゾートホテルの一室でぐっすりと眠ることが出来た。
ピロロロロロ…アイガッタビリィー…
小澤奏太ァ!
何故君が異世界の聖剣を抜くことが出来たのか
何故初日で市民権が認められたのか
何故姫様に身を捧げねばならないのかぁ!
その答えはただ一つ…
小澤奏太ァ!君がこの世界で唯一…優れた強い魔力をもっている男だからだぁぁぁぁ!!
アーハハハハハハハハ!
とまぁ、それでいいのかという感じですね(笑)
政略結婚とは(哲学)
まだまだ、バトルシーンも主人公の詳しい過去も明かされないこの小説、本当に大丈夫なのだろうか…