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森林会

 森林会。関東屈指の指定暴力団。構成員は千百五十人ほど。しかし準構成員を含めれば軽く三千人を超える。


 好戦的な団体であり、先ほども述べたが一般人の被害者も出ている。


 主な収入源は賭博と人身売買、そして薬物。


 本部はこの街にはないが、最大支部はこの街に存在する。


 森林会の第二統括支部。


 そこへ俺たちは向かっていた。


「ねえ。あんたはどうする気なの? 素直にノックして沙紀の居場所を聞き出す気?」


「そんな悠長な真似できるか」


「じゃあどうする気なのよ?」


「……人間は怖がり屋で痛がり屋だ」


 簡潔に答えると美希は「何言ってるの?」と不可解な表情を見せた。


 車を走らせて二十分。その支部は街の中心にあった。五階建てのビル。ごみごみとした都会に溶け込むように、まるで普通の商社の装いだった。


「ここが森林会の支部なの? なんか地味」


 支部から三十メートル近くに停車した。窓から美希は支部を様子見る。


「こんな普通のビルに下種なヤクザが居るとは思わないだろう。貴様はここで待て」


 鍵をかけたまま俺は車から降りる。


「……私も行くわ。沙紀が居るかもしれないのに、じっとなんてしてられないわ」


 降りようとする美希に俺は「やめておけ」と忠告した。


「ここからは貴様の人生を狂わせてしまうことになる。だからおとなしくしていろ」


「……もう狂っているわよ。殺し屋に依頼した時点から、いや依頼しようと思った時点で私の人生は大きく捻じ曲がってしまったわ」


 美希の眼を見た。潤んでいたが、それは覚悟を決めたものと同じ眼だった。


 この眼をした者は、どうあっても止まらない。どう足掻こうが付いてくるだろう。


 だから俺はやるべきことをやった。


「悪いがここからは俺の仕事だ」


 俺は美希の眼を見た。美希は俺を睨んでいる。


「――しばらく寝てろ」


「えっ?」


 俺はポケットから素早く薬品を染みこませた布を取り出し、美希の口元にあてた。


「むぐ! ――」


 抵抗なく眠りに入る美希。この薬品は効き目は速いが効力もなくなるのも速い。急がねばならない。


 美希を車に押し込み、車の鍵を閉める。防弾防刃のガラスを使っているので、流れ弾があって死ぬことはないだろう。


「さて。行くか」


 森林会の事務所に歩いていく。途中ですれ違う男女が俺の顔見て道を避ける。後ろからくすくす笑っている。


 事務所に着いた。俺はノックもせずにドアを開けた。


 入ると体格が大きいガラの悪い男たちが居た。ソファーに座っている。素早く人数を数える。六人。


「なんだてめえコノヤロー! ここがどこだか分かっているのか!?」


 一人の男が俺に迫ってくる。俺は後ろ手でドアを閉めて「沙紀という子どもはどこだ?」と端的に質問した。


「ああん? 知らねえよ! てめえなんだその格好は――」


 胸ぐらを掴もうとしたので、俺は相手の右手首を握った。ごきりと骨の折れる音がした。


「いいいいいいい!? ぎゃあああ!!」


 無様に男は倒れ込む。


「てめえ、何しやがった!」


「ぶっ殺すぞコノヤロー!」


 男たちは一斉に立ち上がる。多分殴りかかろうとしているのだろう。右から二番目の男はナイフを持っていた。


 だから、その前に俺はコートの内側に収納していた銃を使った。


 一人一人の頭部を狙い、撃つ。


 サイレンサーを用いたので、音はしない。


 だが脳髄が弾けとび、壁や床に血液が付着したのはいたし方のないことだ。


 俺は五発で全てを終わらせた。


「な、なんだてめえ……親父が黙ってねえぞ……」


 手首を折られたヤクザだけ残す。こいつには訊かなければならないことがあった。


「もう一度だけ訊く。沙紀という子どもを知っているか? 女子高生らしい。居場所を知っているはずだ」


「し、知らねえ! そんな女知らない!」


 嘘を言ってはいないが、何かを隠している。


「そうか。ならいい」


 俺はもう片方の手首を取り、へし折った。


「がああああああ!!」


 ケダモノのような悲鳴が響く。上の階からドタドタと音がした。予想通りまだゴミ共が居る。こいつは生かしておくべきか?


「隠していることを言え。今度は眼球を引っこ抜く。さあ言うんだ」


「そんな女は本当に知らないんだ!」


「では何を隠している?」


「そ、それは……」


 向かいのドアが乱暴に開いた。


 数人の男が銃を携えて入ってくる――瞬間、俺に向けて発砲してくる。


 俺は手首を折った男を盾にして、近くの机の陰に飛び込んだ。


 盾にした男は無惨に穴だらけになってしまう。こいつからは訊くべきことがあったのだが。まあいい。支部の幹部に訊けばいい。


「コノヤロー! 出てきやがれ!!」


 素直に出てくる馬鹿はいない。俺は胸ポケットから手榴弾を取り出し、ピンを抜き、トリガーハッピーになっているゴミに向けて投げた。


 轟音。揺れるビル。崩れる天井。


 全てが落ち着いた後、俺は立ち上がった。埃がついてしまったが、関係ないし問題ない。


 苦痛に歪むヤクザ共。俺は助かりそうな者だけとどめを刺しながら、階段をゆっくりと昇った。


 途中、倒れていた組員を尋問して、最上階に支部長、若頭が居ることを聞き出し、上へ上へと向かう。


 最上階、つまり五階に着いた。


 ドアを開けようとすると、殺気を感じる。


 ふん。二流め。殺気や殺意は相手の中に潜ますものだ。


 俺はドアを開けずに、一度ドアから離れる。そして勢いよく駆けてドアを蹴破る。 


 ドアはそのままの衝撃で部屋の中ほどまで進んだ。そのドア目がけて中に居たヤクザ共は発砲する。


 銃声が止んで、しばらく経ち、俺は堂々と部屋の中に入る。


 ヤクザ共は懸命にリロードし始めるが、あまりにも遅い。


 こういう場合は二発ほど残しておくべきだ。素人め。先ほど二流と称したが、三流の間違いだったようだ。


 手間取る愚図共を俺は瞬く間に殺していく。全ての人間の頭部をことごとく破壊した。


 そして残されたのは一人だけ。


「……どこぞの組の鉄砲玉でもなさそうだな。てめえは何者だ?」


 中年の恰幅の良い男。色黒く、白いスーツに紫色のスーツという悪趣味な服装。色眼鏡。頬には長い刀傷。典型的なヤクザの若頭。


 この状況でも余裕は崩さない。その胆力だけは認めよう。


「答える義務はない。貴様は俺の質問に正直に答えるだけでいい」


 俺はいつも殺せるように構えつつ、ヤクザの若頭に正対した。


「沙紀という女を知っているな? 女子高校生だ。今朝の八時頃、貴様らがさらった」


「……ああ、知っている。俺らが『手を貸した』。ただそれだけの間柄だ」


 手を貸した?


「おい、どういう意味――」


 俺がさらに問い質そうとしたときだった。


「――逃げて!!」


 聞き覚えのある声。さらに殺気。俺は確認することなく、横っ飛びで回避した。


 俺が居た位置に銃弾が豪雨のように降りそそぐ。


「おい姉ちゃん! 舐めた真似してくれるじゃねえかコノヤロー!」


「きゃああああ!!」


 殴打する音。女の悲鳴。俺は回避しつつ今起きた状況を整理する。


 何らかの方法で美希をこの場に来させて人質にしているわけか。


 俺は絶え間なく降り注ぐ銃弾が止むまで、死角となる机の下に隠れていた。


 手持ちの手榴弾を使えばなんとでもなるが、それでは美希が死んでしまう。閃光手榴弾を持ってくれば良かったか。


 アレを使うしかないな。


 俺は手袋を嵌めた。


 銃弾が止んだ瞬間、俺は『技術』を使った。


 そして余裕を持って、姿を現すことができた。


「はっは! おとなしく殺される覚悟ができたわけか! だったら殺して――」


 美希を捕らえている男の勝ち誇る声。


「貴様らはもう『動けない』んだ」


 そう言うと俺は美希へ近づく。


「な、なんだ、これ……」


 ドアに居たのは三人。三人とも動きを封じておいた。


「てめえら、どうして動かない! 殺さない! ……なあ!? 俺も!?」


 ヤクザの若頭も拘束した。動けるのは俺と美希のみ。


「大丈夫か? 傷は……それほど深くない」


 顔の傷をじろじろと見る。赤くなっているが痣にはならないだろう。


「あ、あんた、何をやったの?」


「何かをした。それより何故ここに来た」


 厳しく問い詰めると美希は「凄い音で起きたら、事務所から煙が出て、それで心配になって……」と言い訳をする。


「……まあいい。それより訊くべきことがある。おい、沙紀がどこにいるのか、知っているな。居場所を言え」


 俺は若頭に問う。しかし「誰が言うか。くたばれ×××」と薄汚い言葉を吐く。


「そうか。なら仕方ないな」


 俺は銃を拘束しているヤクザの一人に向けてためらいもなく撃つ。


 頭部に命中。悲鳴を上げずに黙って死んでいく。


「あ、あああ……」


 美希の呆然とした声。目の前で人が死ぬのは初めてみたいだ。


「言わなければ全員死ぬ」


「わ、分かった! 言う! 言う!」


 化物を見る視線は不本意だが、こうでもしないと言わないだろう。死の恐怖は人々を平等にする。


「そいつは街のハズレの埠頭に連れていった! LB倉庫のある埠頭だ! そこで『虚言組合』に売る予定だ!」


「なんだと? 『虚言組合』だと!?」


 くそ! なんてことだ!!俺は選択を間違えたのか!? いや、まだ時間がある。落ち着け。こういうときほど冷静でなければいけない。しかし『虚言組合』が絡んでいる。その事実は恐るべきものだ。


「これだけ話したんだ! 頼む、殺さないでくれ!!」


 若頭の養豚場の豚の悲鳴に似た声で現実に引き戻される。


 俺は若頭と残った二人のヤクザを見つめた。


 もちろん答えはNOだ。


「……断る。貴様らは死ぬべき人間だ」


 俺の言葉に若頭は顔を引きつらせた。


 美希は「待って!」と言った。


 それらを無視して、銃を向けた。


 たった三発で全ては終わった。


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