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高校入学と新たな進展

 そして、久典の高校入学式の日の朝。


「先輩。朝ですよ。今日は入学式だから遅刻せずにちゃんと学校に行かないとダメなんですからね」


「さ、桜子!?」


 なぜ桜子が? 久典の脳裏にはそれしか浮かばなかった。


「何驚いているんですか先輩。先輩は私が起こしに来なかったらギリギリまで寝ちゃうじゃないですか。だから私が起こしにきたんですよ」


 桜子はそう淡々と答えた。


「えっ、じゃあ卒業式のあの涙はなんだったんだ……」


「それは学校で会えなくなるんですから、今までより会う時間が減るからじゃないですか。先輩と会えない時間は私にとってつらいものなんですよ」


「よくもまぁ、そんなことをあっけらかんと言えるな……」


 外見の変化とともに恥じらいも失くしてしまったんじゃないか、と久典は思った。


「それはそうと早く顔を洗ってきた方がいいんじゃないですか。余裕があるからと言って動かなかったら時間はすぐ過ぎてしまいますよ。ただでさえ朝の時間って過ぎるのが早いんですから」


 久典は納得しないまま顔を洗いに行った。




「さて……と。先輩は顔を洗いに行きましたね」






「んで……。なんでついてくるんだ桜子」


 家を出て五分ほど歩いたけれど、桜子はまだ久典と一緒に歩いている。


「なんでって、中学校と高校は方向が一緒じゃないですか。だから自然と途中までは同じ通学路になるんですよ」


「同じ通学路って言ったって、桜子の家からだと僕と同じ通学路にはならないんだけどな」


「それを言っちゃおしまいですよ先輩。それに、私がついておかないと先輩はダメダメじゃないですか」


「流石に今日から高校生なんだからちゃんとするって……」


「高校生になったからって人間いきなり変わったりはしないですよ。徐々に変わるならわかりますが、急激に朝起きれるようになるなんてことは……。少なくとも先輩に限ってはないですね」


 断言する桜子。


「そんなこと……ない……と思う」


 強く言えないところがまた久典らしい。そもそも久典自身も朝起きれるようになるかというのを考えたら、なかなかそうはいかないんだろうな。なんてことも思ったわけで。


「あっ、そうだ先輩。高校って成績悪かったら留年とかあるんですよね?」


「っていう話は聞くよな。実際高校で留年したって話はなかなか聞かないけど」


「だったら先輩は無理に勉強することはないですよ」


「おっ、僕の学力だったら大丈夫って言ってくれるのか?」


「いえ、留年したら私と同じ学年になれるじゃないですか」


「…………。絶対留年しない」


「えー、私と同じクラスになれるかもしれないチャンスをみすみす見逃すんですか?」


「高校で留年するだなんてそんな人生に影響しそうなことをしてまで桜子と一緒の学年になりたくない。というかそうなったら桜子は僕にタメ口をきくだろ? 桜子にだけはタメ口で話しかけられたくない」


「よう、久典、元気か?」


「やめてくれよ……」


「でも、確かに今までずっと敬語でしたからね。いきなりタメ口を使うのは私的にもすごく抵抗がありますねこれ」


「だろ? 桜子でそれなんだからタメ口きかれる僕のダメージはかなりでかいんだよ」


「しょいうがないですね。同じクラスになっても敬語でしゃべります」


「いや、だから同じ学年にはならないって」


「わかりました。高校で同じクラスになる夢は諦めます」


「おっ、やっとわかってくれたか」


「大学では同じ学年になりましょう!」


 ガクっと久典は肩を落とした。


「大学でも同じ学年にはならないってば。というかそんな先のことまで考えてない」


「えー、なんでですかー。高校で留年する。ってことに比べたら、浪人生になったり大学で留年するほうが現実的だと私思ったんですけど」


「どっちもごめんだな。というか、大学に行くかどうかなんてまだわからん。もしかしたら就職するかもしれないし」


「先輩が社会人だなんて想像できません。なので大学に行きましょう。というか先輩が行く学校的に進学する人の方が多いんじゃないですか? 一応進学校ですよね」


「それはまぁ、そうなんだけど」


「先輩、お願いですから一緒の大学に行きましょ!」


 そう言いながら、桜子は久典の腕に飛びついてきた。


 久典は、だからそんなことするなよ。そんなことすると桜子の豊満な胸が……。なんて思ったが流石にそのままは言葉に出来ない。


「ひ、人に見られたらどうするんだよ。やめろよ」


「やめないです。見てくる人が居るんだったら見せつけてやればいいんです。先輩と私はこういう仲だってことを」


「そういう仲じゃないだろ。って本当にやめろよ。さっき桜子が言ってたように高校もこっちの方角なんだよ。これから同じクラスになるやつにでも見られたらどうするんだよ」


 彼女が居るだなんて噂になったら嫌だ。同じ高校に絶対そんな噂話を聞かれたくない相手だっている。


「でも、さっきからあの人こっちをチラチラと見てますよね。あの制服は先輩と同じ高校なんじゃないですか?」


「えっ?」


 桜子に言われて、久典は桜子の視線の先を見る。

 するとそこには……。


「如月さん…………」


 一番見られたくない相手が居た。


 久典は如月蒔菜の姿を見ると、腕を振って、桜子をどかした。


「もう、先輩なにするんですか。そんなことされたら腕組めないじゃないですか」


「だから腕を組むなって言ってるんだよ。僕と桜子はそういう関係じゃないだろ」


 久典はわざと大きな声で言った。


 当然、蒔菜に聞こえるようにするためだ。桜子と付き合ってるだなんて誤解だけは避けたい。


「先輩冷たいです」


 桜子がしょぼんとした声で言う。

 その声を聞くと、流石に久典も罪悪感を感じてしまい。


「す、すまん……」


 とすんなりと謝った。


「じゃあ、くっついてもいいんですね?」


 ニパっと笑顔でそんなことを言う桜子。久典の性格を知っているからこそのやり方だ。


「いや、よくはない」


「いいじゃないですか。さっきの人ももう先に行っちゃいましたし」


 そう言われて蒔菜が居た場所を見てみると確かにもう居ない。道の先を見てみても、もう姿はなかった。


 勘違い……。されてなければいいけど……。と久典は心底思いつつ。再び腕に抱きついてくる桜子を振りほどく気力がなくなっていた。


「せーんぱい」


 甘えた声で桜子が言う。語尾にハートマークがついててもおかしくない言い方だ。


「なんだよ」


 しかたなく久典は返事をする。もしかしたら返事をしないほうがいいのかもしれないが、流石に無視は久典にはできなかった。そこまで大人じゃない。


「私、先輩と居られたらそれだけで満足です」


「そうか、それはよかった」


 ほとんど放心状態で返事をする久典。頭のなかには蒔菜に勘違いされてないかという心配しかなかった。


「あっ、そろそろ分かれ道ですね。先輩とはここでサヨナラしないといけないです」


 桜子がしょんぼりとしながら言う。


「そうだな、勉強頑張れよ。うちの高校にくるんだろ?」


「先輩が受かったんですから大丈夫ですよ」


「なんだそれは、失礼だな」


「えっ、だって先輩が受かった高校ですよ? 私が受からないわけないじゃないですか」


 すごい自信を持っているが、確かに桜子は勉強はできる。学年でもトップ十位に入るほどだ。


 地味だった頃はまさに、勉強します。みたいなイメージがあるが、今も勉強ができる。

 才色兼備という言葉が似合う女の子に生まれ変わったといっても差し支えない。


「でも僕もかなり勉強したからな。桜子は油断しすぎないようにって意味だよ」


「それはたしかにそうですね。油断大敵です。今までどおりしっかり勉強しますよ。万が一にも受験失敗ということだけはないようにします」


「あぁ、がんばれよ」


「じゃあ先輩。また明日。ちゃんと起こしに行きますからね」


 桜子はそう言って手を振りながら中学校へと向かっていった。


「はぁ、如月に勘違いされたよな絶対……」


 久典は肩を落としながら学校へと向かった。入学式の日からこんなに落ち込むだなんてことは考えてもみなかった。



 学校に到着した久典はまず、自分のクラスへと向かっていった。


 事前に手紙で自分がどのクラスなのかというお知らせがあったので、その手紙を持って学校に来ている。


 高校はそこまで大きくなく。校舎は東棟と西棟に分かれている感じだった。


 東棟は三階建てで、西棟は四階建てだった。


 教室は全部西棟に集まっている感じで。東棟はどうやら主に部活の部室があるといった感じらしい。生徒会も東棟にあるとこの手紙の地図には書いている。


「僕のクラスは二階か」


 一年C組が久典のクラスだった。どうやら一年は全部西棟二階のようだ。といっても一階は職員室やら購買部やら食堂といったものが主で授業を受ける教室はなかった。


 教室に入ると、すでに生徒が結構集まっていた。遅刻ギリギリというわけじゃなく多少余裕がある時間にもかかわらず思ったよりもすでにこのクラスの生徒は到着していた。


 友達と話している生徒。自分の席にじっと座っている生徒。と様々だったが、久典もとりあえず自分の席に行くことにした。


 久典は自分の席について、クラスを見渡したら、蒔菜の姿があった。

 一緒のクラスなのか。と心のなかでガッツポーズする久典。


 蒔菜の方をしばらく見ていると、視線に気がついたのか、蒔菜も久典を見てくる。


 げっ、目があってしまった。と久典が思い、急いで別の所を見るが、時すでに遅し、蒔菜が久典の方へと近づいてきた。


「時東くんも同じクラスなんだね。同じ高校を受験したことは知ってたけど」


 蒔菜が久典に声をかけてきた。


「そうみたいだな。これから一年間よろしく」


 蒔菜とあまり話したことのない久典は、緊張を表に表さないように気をつけながら言葉を返す。


「あれ、時東くん知らないの。この学校はクラス替えが無いらしいわよ。だから一年間じゃなくて三年間だよ。三年間よろしくね」


 蒔菜はロングヘアーで髪をお嬢様結びにしている美人さん。という表現が一番合う。

 顔も整っていて、割りと身長が高め。といっても百六十センチぐらいなので高すぎるということはないけれど、令嬢というような言葉が似合いそうな子である。そして胸もでかい。サイズ的に言うと桜子に負けてないほどだ。


 実際、中学時代影で令嬢と呼ばれていた。


 その一番の要因というのが、プライドが高そうだという男子達の印象があったからだ。

 誰にでも笑顔で優しく接していた蒔菜だったが、確かにプライドが高そうだと久典も思っていた。


 なんというか八方美人というようなそんな感じを受けてしまう。


 それはなぜかというと、蒔菜に関しての陰口や悪口は聞いたこと無いからだ。


 本当なら、性格がいいからということで片付くのだろうけれど、全くそういう部分がないというのが逆に人間としての不完全さが無いというイメージのせいだった。


 だが、実際性格は悪くないのだろう。


「そうなのか、中学でも三年間同じクラスだったけど、これからも一緒なんだな。同じ中学校だったよしみでこれからもよろしくな。といっても中学時代はあまり話したこと無いけど」


「話す機会があまりなかったからしょうがないわよ。あと、何人か同じ中学校だった人もこの学校に居るけど、大体が別のクラスみたいよ」


「そうなのか、だから知った顔が如月さんぐらいしか居ないのか」


「そうよ。だから時東くんも私の方見てたんでしょ? 私も時東くんを見た時ちょっと安心したもん」


 久典はその言葉でちょっと嬉しくなった。自分を見て安心しただなんてことを蒔菜から言われるだなんて思っても見なかったからだ。


「正直僕も如月さんが居てよかったよ。全員知らない人とかなるとちょっと不安になるし」


「わかるわかる。そういうのってあるよね。席は出席番号順だからちょっと離れてるけど、これからも話しかけていいかな?」


「もちろんいいよ! というか僕からも話しかけて大丈夫かな?」


「よかった。うん、時東くんからも話しかけてくれると私は嬉しいな」


 それはどういった意味なのだろうか。久典としては嬉しい以外の何物でもない。

 言葉どおり受け取っていいのか。そんなことを言われたら久典はどんどん話しかけてしまう。


「絶対話しかける!」


 久典はついつい心に思ったことをそのまま言ってしまった。


「クスッ。なにそれ時東くん面白いね。同じ中学だったよしみってのもあるけど、時東くんと仲良くなりたいな」


 仲良くなりたいな。仲良くなりたいな。仲良く――。


 久典の心のなかでリピートされるその言葉。

 なんだろう、今日は運勢最高の日なんじゃないだろうか。


「僕も如月さんと仲良くなりたい」


「それだったらよかった。あれ……でも彼女さんに悪いかな?」


「えっ、彼女なんて居ないけど……?」


「えっ、そうなの? 今日登校中に中学の子と腕組んで歩いてたからそうなのかなって思っちゃって」


「あぁ、あれは違うよ。ぜんぜん違う。彼女なんかじゃないから」


 桜子のことだ。やっぱり覚えられていたらしい。そりゃそうだガッツリ見られていたのだから。


 そして桜子のことを誤解のないように言う。だが客観的に見ると腕を組んで歩いていて、これは他の人には知られてないけれど毎朝起こしに来てくれるだなんてのは完全に彼女のそれである。


「そうなの? かなり仲良さそうだったから付き合ってるのかと思って」


「仲が良いのは否定しないけれどそんなんじゃないから」


「時東くんは案外ちゃらいのね」


「そんなんじゃないってば本当に」


「ごめんごめん。まぁ、とにかくこれからよろしくね。あっ、そうそう私のことは蒔菜でい

いよ。如月さんってなんだか他人行儀だしあまり好きじゃないの。仲のいい子はみんな蒔菜って呼んでるし。私もそのほうが楽かな」


「えっ、そうなんだ。わかったじゃあ今度から下の名前で呼ばせてもらうよ! 蒔菜……ちゃん?」


「ちゃんはやめて、なんか恥ずかしいから。普通に呼び捨てでいいよ。それにちゃん付けって言ってる方も恥ずかしくならない?」


「それは、確かにそうかも、よろしくな、蒔菜」


「うん。よろしくね久典くん」


 ニコッと笑顔を久典に見せる蒔菜。

 やっぱり美人だな蒔菜は。なんて久典は思ったわけなのだけど至福の時間というのはあっという間に過ぎる。


 予鈴が鳴ったのだ。


「あっ、じゃあ私席に戻るね」


 そう言って蒔菜は席へ戻っていった。

 こんな時席が隣同士とかだったらまだ話せるんだけど。などと久典は思ったけれど、同じクラスになっただけで十分運がよかった。


 一年だけで六クラスある。それだけ考えたら同じクラスになる確率もかなり減る。

 実際、同じ中学校だった他の奴らは久典や蒔菜とは別クラスなわけで。しかも、そのおかげで久典は蒔菜に話しかけられた。


「蒔菜……か」


 中学の時だったら考えられないことだ。あまり話したことがなかったというのもあって、特別仲がいいわけではない。蒔菜はあまり話さない相手でも笑顔で友達のように接していたので久典にも笑顔を向けてくることはあった。あったけれど、それでも久典は蒔菜のことを苗字で呼んでいたし、蒔菜も久典のことを時東くんと呼んでいた。


 それが同じ高校で、同じクラスだからと話しかけられて、下の名前で呼び合う仲になれたのだ。


 しかし、これからの方が大事だ。下の名前で呼ぶ仲になれそうだと言っても、その後話をしなければそれは自然消滅して、用事がある時急に名前呼びして、えっ。って顔をされてもたまったものじゃない。


 そもそも、それだけ話さなければそういう時は苗字呼びに戻ってるだろう。


 だからこそ距離を縮めるしかない。


 入学式が終わって帰る前に今度はこっちから話しかけよう。と久典は決意するのだった。



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