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有言実行と久典の卒業

 そして、次の日から桜子が宣言通り久典を起こしに来た。


 久典の部屋まで来て起こしに来る。


「先輩、いつまで寝てるんですか。朝ですよ」


 久典を揺さぶって起こす。

 そこまでするのかと驚いたが、そういえば桜子は変に行動力があったなと久典は納得。


「………………後五分……」


「ダメです。そんなことを許してたら。五分が十分にも二十分にもなります。だから今すぐ起きてください」


 まるで母親かのような感じすらしてくる。


「…………スー」


「寝ないでください」


 頭をペシンと叩かれた。


「わかったよ。起きたらいいんだろ。起きたら」


「それでいいんです。早く顔を洗って来てください。あと寝ぐせも直しましょう。そしたら朝ごはんを食べてください」


「母親じゃないんだから……」


「母親じゃありませんけど、先輩の面倒は私が見ないと誰がみるんですか」


「いや、自分の面倒ぐらい自分でみるけども……もう中学三年だぜ? 来年高校生だよ? それぐらい出来て当然じゃないか……」


「でも、遅刻ギリギリまで自力で起きれないですよね?」


「……」


 久典は何も言い返せなかった。


「ところで先輩。時間はまだ余裕があるので聞きますけど。この本なんですか?」


 桜子がビラっと見せてきたのは僕がベッドの下に隠していた秘蔵の本だった。


「いや、それはその……。いや、なんというか……というか勝手に人のベッドの下を漁るなよな!」


「たまたま目についただけですよ。ベッドの下からだいぶはみ出てましたし。それにしても、先輩はこういうのが趣味なんですか?」


 そう言って桜子は本を開いて見始めた。


「ちょっと、みるなよ!」


 久典は桜子から秘蔵の本を奪い取った。が、時すでに遅し。


「女子高生制服特集?」


「口にだすなよ!」


「え、それその本に書いてたやつですか? 何を口にだすんですか? 私わからないんですけど」


「そんなのまだ知らなくていい。桜子にはまだ早い」


「えー、先輩の意地悪。私と一歳しか変わらないじゃないですか。というか先輩も男の子なんですね。こういう本を隠し持ってるなんて。ちょっと軽蔑しました」


「軽蔑したのかよ!」


「嘘です。でも先輩の好みがちょっとわかりました。ああいうのがタイプなんですね。おっぱいが大きいのが――」


「そこまで言うな!」


 久典はついつい大声を出してしまった。


「もう、先輩急に大きな声出さないでくださいよ。って、あれ。でも思ったんですけど。さっきの本の人に負けないぐらいありますよね?」


「なにが?」


「私のおっぱいです」


「ぶっ!」


 久典は思わず吹き出した。

 確かに桜子の胸は大きい。正直中学生離れしている。身長は低いがそこだけ大人だと言っても差し支えない。いや、大人でもなかなかそこまで育っている人は居ないんじゃないだろうか。


「いや、そ、それは……なんというか……」


「えー、でもさっきの本の人よりありますよ絶対」


 桜子はそう言って背筋を伸ばした。制服でなおさらピシっとした状態になり、胸が強調される。


「わかった。わかったから。顔洗ってくる」


 そう言って久典は桜子を残して部屋を出た。


「先輩。顔真っ赤でしたね」


 桜子は一人でそう言って、クスっと笑った。



 翌週。

 学校がある日は桜子に起こされるのが日常と化してしまいそうになっていた頃。桜子にまた変化があった。


「今日は眼鏡つけてないんだな。いつもつけてるけど。どうしたんだ? もしかして家に忘れたとか?」


 寝起きの時は寝ぼけてて気が付かなかったけれど、家を出て、登校中に気がついた久典。


「いえ、違います。コンタクトにしてみました」


 桜子はそう言ってキメ顔をした。


「そうなのか、ずっと眼鏡していたからなんだか新鮮だな」


「え、なんかもっとこうリアクションしてくれないんですか?」


「リアクションとか言われてもなんというか。あっ、眼鏡かけてないんだー。って感じかな」


「えー。なにそれひどくないですか。眼鏡を外してる桜子も素敵だよ。みたいなこと言えないんですか?」


「それ、本当に僕に言って欲しいの?」


「そうですねー。どちらかと言ったら言って欲しいです」

 目を輝かせて期待の眼差しを久典に向ける桜子。


「に……似合ってるよ」


「違います。眼鏡を外してる桜子も素敵だよ。です」


「そ、そんな言葉言えるわけ無いだろ」


 顔を赤らめて拒否する久典。


「先輩ったら、恥ずかしがって、可愛いです」


「年上をからかうなよ」


「先輩はからかいがいがあるんですよ」


 桜子は笑いながらそう言った。

 桜子は髪型も変え、眼鏡を外し、明るくなった。それが久典にとって心境の変化となってきた。


 桜子ってひょっとしてめちゃくちゃ可愛いんじゃないだろうか。

 そういう風に思うようになってきたのだった。


 そして、桜子の変化はその後も続いた。スカートの丈が心なしか短くなってチラチラと太ももが見えるようになってきた。


 桜子は肌が綺麗なので、太もももすごく綺麗だった。ツヤのある肌。そして、太すぎず細すぎず絶妙なバランスの肉感。

 思わず触りたくなってくるような。桜子の太ももはそんな太ももだった。



 夏頃から桜子の変化が始まって、久典が中学を卒業する頃には前と比べて別人になってると思うほど変わった。


 以前はまさに地味という代名詞が似合う子だったのだけれど、今では見事に輝いている。

 自分が変われば周りも変わるという言葉があるけれど、桜子の周りの男子も変わったらしい。


 桜子は男子から人気が出始めた。何度か告白もされてた。


 桜子本人から聞いたわけじゃなく、男友達から聞いた情報だが、すべて断っているとのことだ。


 その断る理由が、好きな人が居るから。


 桜子はやっぱりまだ久典のことが好きなのだろう。


 その話を聞いた時の久典はなんとも言えないような気持ちになった。

 そして、久典というと、まだ好きな人に告白ができないでいた。


 というよりもむしろ、話すらまともにできていない。同じクラスの子なのだが、接点がなかなかない。


 久典が思い切って声をかけたらいいのだろうけれど、久典にそんな度胸があるはずもなかった。


 なんとか人づてにその子の進路先を聞き、同じ高校へと進学することを久典は決めた。


 幸い、女子校とか遠い私立の高校じゃなかった。


 少々頭の良い公立校。家からも近くだ。これなら勉強さえ頑張ればなんとか入る事ができる。


 久典はそう考え、秋頃から勉強をして、無事合格することが出来た。




 そして迎えた卒業式。


 三年間通ったこの学校ともお別れなんだな。なんて思うと少し切なくなった。


 最初はあまり楽しくなかった学校だったけれど、桜子と出会って、仲良くなって。告白されて、最後の半年ぐらいはずっと桜子が家に起こしに来てくれて。


 桜子と付き合っていたわけじゃないのに、桜子との思い出ばかりのこの中学校。


 桜子は一学年下なので、桜子と関わることもなくなる。


 そう思うとやっぱり残念だ。

 未練……。というわけではないのだけれど、それでも失うものがあるというのは悲しい物である。


 だが、久典には目標がある。

 桜子の告白を断った最大の要因。同じクラスの如月蒔菜きさらぎまきなのことだ。

 正直今の久典と蒔菜の関係は、ただのクラスメイトぐらいなものだ。同じ高校に進学することになったが、そこでまた同じクラスになるとは限らない。


 だから、なんとか接点を持つこと、そのためには積極的に話しかけることが必要だ。


 卒業式が終わり、みんな校門の近くでタムロしている。よし、今が話しかけるチャンスだ。なんて久典が思っていると。


「あっ、先輩!」


 後ろから声をかけられた。聞き慣れた声。


「桜子か、見送りに来てくれたのか?」


「そうですよ。先輩の門出じゃないですか。私が祝わずに誰が先輩の新しい生活を祝うって言うんですか」


「おいおい、それじゃ僕がぼっちみたいじゃないかやめてくれよ」


「えっ、先輩ぼっちじゃなかったんですか? 私が居なかったら完全にぼっちですよね。というかぼっち以外の何だって言うんですか?」


「やめてくれ流石に傷つく……」


「わかればいいんです。っと、そうそう。こんな話をしに来たんじゃないんですよ。先輩にお願いがあってきました」


「お願い?」


「はい、先輩。今日で中学校生活が最後じゃないですか。だから中学生最後の先輩とツーショットで写真を撮りたいんです。あと、もう一つお願いがあるのですが、それは写真を撮った後に言います」


「写真か。そういえば桜子と写真を撮ったことって無いな。いいぞ、一緒に撮ろう」


「ありがとうございます」


 そう言って桜子はカメラを近くに居た生徒に渡して、シャッターを押してくれることを頼んでいた。


「先輩。じゃあ撮りましょ」


 桜子は久典の腕を思いっきり抱きしめた。


 久典は腕いっぱいに感じる桜子の柔らかい大きな膨らみに驚き、変な体制になったところでカメラから光が発した。


「もー、先輩。変な感じになってませんでしたか?」


「悪い悪い。っていうか桜子にも原因があるだろ……。まぁ写りが悪かったら申し訳ないしもう一枚撮るか?」


「いえ、あのインスタントカメラ。フィルムが最後の一枚だったんです」


「って、そうだったのかよ。それはなんというか悪かった」


「んー、簡単には許せないですね。あっ、そうだ。もう一つのお願いを無条件で聞いてくれるなら許してあげますよ」


「えっ、それはちょっと……」


 久典の脳裏に浮かんだのは。私と付き合ってください。と言ってくることだった。

 無条件でそれを承諾する訳にはいかない。


「大丈夫ですよ。先輩を困らせることはしません。先輩の第二ボタンを私にください」


 少し顔を赤らめ、下を向いたと思ったら今度は上目遣いをして、久典におねだりをする桜子。


 この仕草にドキッとしない男が居るんだったらそれは絶対ホモだという自信がある。それぐらいの可愛い表情だった。


「あっ、そうか。ボタンか。いいよ。桜子にやる」


「なんで急に上から目線になってるのかわかりませんが、ボタンをくれるということには感謝します。だから写真のことは許してあげます」


 むしろ桜子の方が上から目線である。


 久典は第二ボタンの裏ボタンを外し、ボタンを桜子に渡した。


「ありがとうございます。一生大事にしますから」


「一生か……なんかそう聞くと重たいような気がするけど。大事にしてくれるのはありがたいな」


「それでは先輩。そろそろ私は退散します。寂しい高校生活が待っているかもしれませんが、一年後は私も行くので一年の辛抱ですよ。私は先輩と会えない一年を耐え抜きます」


 桜子の目には涙が浮かんでいた。


 切なくなってたのは桜子も同じなんだな。なんて久典は思った。

 普通に考えたら好きな人が卒業していくなんてことは切なくて、辛くて、悲しいことだ。


 そうか、明日から桜子に起こされることは無いんだな。なんて久典が考えると、そのこともちょっと寂しく感じた。



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