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久典の決心

「よかったですね先輩。入院なんてことにならなくて」


 病院からの帰り道、桜子は久典に話しかけた。


「腕を怪我したからだなんてそう簡単に入院しないだろ縫っただけだし」


「ところで先輩。公園で言ってましたけど。告白するんですか?」


「うん、告白する。それが僕なりのけじめだ」


「そうですか。まぁ……なんというか頑張ってください」


「桜子に頑張ってくださいと言われるとなんか不気味だな。僕のことはもういいのか?」


「よくはないですが、先輩が不幸になるよりは、幸せになってくれるほうがいいです。といっても確かに私と一緒に幸せになってほしいというのはありますけどね」


 桜子はそう言って微笑む。何かつきものが取れたようなそんな雰囲気を感じる。


「でもあれですよ。もしうまくいっても私との関係は変わりませんから」


「それはそれでどうなんだろうか。なんか二股かけてるような気がするな」


「それは先輩の心が汚れてるからです。先輩は男女の友情がありえないって思ってるタイプですか?」


「いや、男女の友情が無いとは思ってないけど……」


「だったらいいじゃないですか」


「相手が自分のこと好きだとわかってる相手と男女の友情というのはなんか違う気もするし」


「それは先輩のさじ加減じゃないですか?」


「そういうもんか?」


 そう言いつつ久典は包帯が巻かれた腕を撫でる。


「痛いですか……?」


「痛くないと言ったら嘘になるけど。まぁ、大丈夫だ」


「ならよかったです。で、告白はいつにするんですか?」


「そうだな……いつにしよう」


「じゃあ明日ですね」


「それはいくらなんでも急すぎだろ」


「善は急げっていうじゃないですか。それに、先輩もその人のこと中学の時から好きだったんですよね。なら別に早くもないし急でもないですよ」


 それは確かにそうだった。久典は蒔菜のことが中学の時から好きだ。

 その好きという気持ちは大きくはなれど、小さくなったことはない。

 何かきっかけがあればと思っていたが、桜子に発破かけられて、久典も思うところが出来た。


「そうだな、思い切ってみてもいいかもしれない」


「それがいいですよ。振られたら私がもらってあげますから」


「おいおい、不吉なこというなよ。断られたくはない。成功するように祈っててくれよ」


「っと、私はあっちの道なので。じゃあまた明日起こしに行きます」


 そう言って桜子は走っていった。


「逃げたなあいつ」


 ともあれ、桜子とは和解することができてよかった。

 まだ家に帰ってないから腕の傷のことを親にどう誤魔化そうとかは考えなきゃいけないけれど。とりあえずニュースになったり騒ぎになることがなくてよかった。


 明日からきっとまたいつも通りの関係に戻れる。それは桜子の性格からしても分かることだった。


 家に帰った後、久典は親に適当な嘘をついて怪我のことを誤魔化した。


 その言葉を信じたか信じてないかは定かではないが深くまで追求されなかった。


「気をつけなさいよ」


 と言われたぐらいである。

 寛大なのか無関心なのか。少なくとも無関心ではないのだろうけれど、少しありがたかった。



 次の日の朝。


「先輩朝ですよー! 起きてください!!」


 いつも通り桜子に起こされる久典。


 そして、着替えて朝食をとり、桜子と一緒に登校する。


 相も変わらず桜子はくっついてきてやわらかな胸を押し付けてくる。

 もちろん、怪我した方とは逆の腕に。


「そうだ桜子。僕、今日告白をするよ」


「そうですか、まぁ、頑張ってください。と正妻の余裕を見せます」


「そんなこと言って、本当は成功したら嫌なくせに」


「はいはい。そうですねー。でもまぁ、成功しないで暗い顔されるよりは成功して楽しそうな先輩を見るほうがいいかもしれません」


「そうか……ありがとう」


「やめてください先輩が私に礼を言うなんて天変地異が起こりそうで嫌です」


「えっ、僕ってそんなに桜子に感謝の言葉を言ったことなかったか?」


「言わないですよ。先輩は薄情者ですからね」


「そうか、でもまぁ、桜子には感謝してるよ。だからこそ僕が傷つけられても、例え殺されたとしても桜子が捕まったり、不自由な生活になるのは僕にとって耐えられない」


「そんなこと思ってたんですね。先輩を殺そうとしたのに先輩は私を恨んでない。そう言うんですか?」


「恨んでないよ。というか僕がはっきりしなかったのが悪いしね」


「やっと気がついてくれたんですか!?」


「あ、そうだ今はっきりさせようか」


「それって完全に私振られますよね。切り捨てられますよね。絶対嫌です。というか先輩には私が必要だと思うんですけどね」


 そんな会話をしながら楽しく登校。



 そして、昼休み。


「蒔菜あのさ、今日帰りに話があるんだけどいいかな?」


「いいわよ。何か大事はお話?」


「あぁ、大事な話だ。今日の帰りの時にいいかな」


 そう、久典は帰り道で告白をしようとしている。場所とかは考えていない。


 ロマンチックな告白だなんて久典に思いつくはずがない。


「いいよ。わかった。どっちにしろ今日も久典くんと一緒に帰るしね」


 蒔菜と約束をすることができた。

 いつも一緒に帰るのだから約束する必要はなかったかもしれないが、急に一緒に帰れないという風になると、告白すらできなくなるので一応確認しておきたかった。


 昼休みに告白するという案も当然浮かんでいたが、結果によっては午後の授業がまったく身にならないということも考慮したのだ。


 結果によってはと言ったが、厳密にはそれは違う。告白が成功した場合。嬉しさで勉強どころじゃないし、断られた場合ももちろん勉強どころじゃない。


 勉強しないでこの学校のテストが乗りきれると思えないのでそれだけは阻止したい。

 ちなみに、補足しておくと、まだ四月なので制服は冬服だ。つまり長袖なので腕の傷のことは隠せている。


 怪我をしたのが利き手ではないというのも幸いした。久典は右利きなので文字を書くのも右手なのだけれど、怪我をしたのは左手。勉強にも差し支えない。


 なので午後の授業もいつも通りちゃんと受けた。


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