日常の中に潜む恐怖
「もう、先輩のせいで私も遅刻ですよ! もう完全に授業が始まってます! いや、もう二時間目突入ですよ!」
久典はあれから二時間ほど寝ていたようだ。
何度も桜子が起こそうとしたが全く起きなかったらしい。
「桜子だけ先に学校行ってたらよかったじゃないか」
「なんですかその冷たい答え。私は先輩と一緒に学校に行けるから毎朝起こしに行ってるんですよ!」
「通ってる学校は違うけどな」
「来年は一緒の学校になります」
こんな会話をしているが流石に早歩きをしている。
堂々とゆっくり歩いての遅刻する度胸は二人にはない。
「先生に怒られたら先輩のせいにしますね」
「やめろ、高校生にもなって中学の時の先生に嫌な感情を持たれたくない」
「時すでに遅し。ですね」
「えっ、マジで?」
「私があることないこと言ってますから」
「一体何を言ってるんだ!!!?」
「それは内緒です。ってそろそろ分かれ道ですね。じゃあまたですね先輩」
桜子は手を振ってちょうど別れるところの横断歩道を渡って行った。
そこで冷静になった久典はふと思った。
「なんで僕は桜子と普通に会話してるんだろう……」
昨日刃物で切りつけられた相手と普通に会話をして普通に横に並んで歩く。それはもうすでに十分異常なことだった。
傷口が痛むことを除けばいつもと変わらぬ日常だった。
そういつも通り、つまり、帰りは蒔菜と一緒だった。
蒔菜と一緒の下校。
その間楽しく会話をするのもいつも通り。
そして――。
視線を感じるのもいつも通りだった。
久典はその視線の主をついに知ることになる。
それは蒔菜と別れてからの帰り道だった。