先輩を殺しに来ました
夕方。といってもホントもう暗くなってきている。意外と二人の買い物の時間は長かったようで。久典は足早に帰ろうとしていた。
そうは思っているが実はそんなに足早ではない。
蒔菜の胸の感触を思い出しながら歩いているので、ヘタしたら変質者扱いされてもおかしくはない。だが、当の本人は自分を客観的に見れていないので自分がどんな顔をしているのかという自覚はない。
「おっ、この公園を横切ったらちょっと近道だな」
近所の公園の入り口に差し掛かったところで久典は方向を変え、公園の中に入っていく。
「先輩――」
後ろから声が聞こえてきた。
久典は振り返ると、そこには制服姿の桜子の姿があった。
「桜子。一体どうしたんだ? こんなところで会うなんて珍しいな」
久典が近づこうとすると、桜子は思いっきり何かを持った手を振り下ろした。
近づいたとはいえまだ途中だったので桜子の手は空を切ったわけだけれど、手にしているものは刃物だった。
夕方で見にくかったけれど、一瞬街灯の光が反射した。
「先輩を殺しにきました」
夕焼けを背にして、長い髪を風になびかせながら桜子はそう言った。