プロローグ
プロローグ
「先輩を殺しに来ました」
黒髪でサラサラなロングヘアーの巨乳少女がそう宣言した。
一見、可愛らしい美少女。街中に居たらナンパされたり声をかけられそうなぐらいのルックスをしているが、その子の手には今、ナイフが握られている。
「ちょっと待て、まずは落ち着け、なっ」
男は慌てながら、手を少女に向けながらそう言う。しかも必死に。
もちろん、自分の命がかかっているのだから必死になるには当然なのだが、それでいて大声を出さない辺り、少女への配慮がうかがえる。
場所は日の沈んだ夜の公園。もうすっかり暗くなっているが、大声を出したら誰かしらが現れてくるだろう。
でも男はそうしなかった。
「待ちません。私は先輩を殺すと決めたんです。前からずっとそう言ってきましたよね? ですから私は先輩を殺します」
ナイフを両手でへそのあたりに構え、体ごと突進する少女。
横に倒れながら男はギリギリのところで避ける。
「先輩、なんで避けるんですか? 先輩が避けたら殺せないじゃないですか」
少女は冷えきった言葉を男に投げつける。
「だから、殺されたくないんだよ。というか早まるな。な、桜子も本当は僕を殺したくないんだよな。だよな。よく考えてみてくれ」
「…………」
桜子と呼ばれた少女は沈黙する。何かを考えているようにも見えるし、何も考えてないようにも見える。もしかしたら間を開けようとしているだけなのかもしれない。
十数秒の沈黙の後、桜子は重々しく言葉を発した。
「私は、先輩を殺します」
そう言って、今度は大きくナイフを振りかざした。
「だぁぁ、これはダメだ!」
男は振り返って、思いっきり走った。逃げるが吉と思ったのだろう。
「先輩、逃がしませんよ」
走って行く、男を追いかける桜子。
公園を出て、住宅街へと入っていく辺りまでは男の背中を見れていたが、とうとう見失ってしまった。
「また逃げられました。延命出来てよかったですね、先輩。でも私、先輩を殺しますから。これは決定事項なんです」