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神様の山

作者: 月影 咲良

怪談寄りのお話です。

怖い話しが苦手な方は注意してください。






 カレンは深い森と山に囲まれた小さなアデルの村に、お父さんとお母さんと犬のバウと暮らしていました。


 カレンが今日も森で背負い籠いっぱいの木の実を採って帰ってくると、お父さんが言いました。

「やあカレン、今日もいっぱい採れたね。

 カレンはお父さんよりも木の実を採るのが上手いかもしれないなぁ」

 カレンは嬉しくなって言いました。

「お父さん、だってわたしはもう6才よ!

 街では仕事に出る子も大勢いるんだから!」

 カレンは森での採集や畑仕事も好きですが、街の子達のように自分の力で生活するというのに少しだけ憧れてもいました。

「カレン、あなた、お帰りなさい」

 家に入るとお母さんが椅子に腰かけたまま声をかけてきました。

 お母さんのお腹の中には、カレンの弟か妹がいます。お母さんは大きなお腹を抱えて立ち上がると、困ったような顔をしました。

「どうしたの?お母さん」

「それが昨日お祖母さんのお家に届けた荷物の中に小麦粉を入れ忘れていたようなの」

「まあ、たいへん!」

 お祖母さんは山を越えた処にある、ここよりずうっと小さな村に住んでいます。

「父さんは明日は町に行かなきゃならんから、明後日お祖母さんの家に持っていこう」

 お父さんが言いました。

 しかしお父さんは畑仕事もしなければなりません。

 お母さんはお腹に赤ちゃんがいるので、とてもそんなに遠くまでは歩けないでしょう。

「わたしがお祖母さんのお家に行くわ!」

 カレンは言いました。

 カレンは何度もお父さんとお母さんについてお祖母さんの家に行ったことがあります。

 それにカレンはもう6才なのです。

 街の子みたいに、大人と同じように仕事が出来る年だ、とカレンは思っています。

 お父さんとお母さんはとても心配でしたが、カレンが必ず山の脇の道を通る事と山には決して入らない事を約束したのでカレンに任せることにしました。

 カレンは仕事を任されてとても誇らしい気持ちになりました。





 次の日の朝、カレンは朝早くに目が覚めました。

 いつもの背負い籠に小麦粉とお弁当を入れてもらい出発しようとすると、お母さんが言いました。

「カレン、バウを連れて行きなさい」

「嫌よ。だってバウの事は大好きだけど、お爺ちゃんなんだもの。遅くなっちゃうわ」

 カレンは断りましたが、お母さんはバウと一緒でないと行ってはいけないと言うばかりです。

 カレンは仕方なくバウと一緒にお祖母さんの家へ向かうことにしました。

「いーい?バウ。遅れたら置いていっちゃうんだからね」

 カレンはバウに言い聞かせますが、バウは聞いているのやらです。




 しばらく森の中の道を歩いていると、山の縁に来ました。

 まだまだ先は長いのに、バウが遅いのでこのままではお祖母さんの家に着くのはお昼ギリギリになりそうです。

(あーあ、バウがいなかったら こっそり山を突き抜けちゃうのになぁ)

 カレンはため息をつきながら思いました。

 バウは足が弱っているので、この山道を登ることはできないでしょう。


 大人はこの山を神様の山だからむやみに入るなと言います。

 けれど毎年お祭りの日に村の皆で山のてっぺんのお社に行きますが、神様に怒られたことは1度もありません。

 それどころか、山を反対側に下るとお祖母さんのお家まではすぐです。

 カレンは山を恨めしそうに見たあと、バウと一緒に山の脇の道を黙々と歩いて行きました。




 途中何度も休みながらも、カレンとバウはお昼少し前にはお祖母さんのお家にたどり着く事が出来ました。

 お祖母さんは一人で来たカレンをとても誉めてくれて、大好きな木の実のケーキをご馳走してくれました。

 カレンはお祖母さんが大好きです。

 でも日が落ちると森も危なくなります。

 カレンは軽くなった籠にお土産の木の実のケーキを入れてもらい、早々に家に向かって出発しました。



 カレンが山の脇の道に入ろうとすると、山を登る方の道から3才くらいの男の子が声をかけてきました。

「もぅし、おねぇちゃん。

 何だかとってもいい匂いがするね」

 カレンは男の子が籠の中のケーキを食べたがっているとピンときました。

 なんと言ってもお祖母さんのケーキは絶品なのです。

「ねぇ、こっちに来て少しだけ食べさせてよ」

「今日はだめなの。早く帰らないと、日が落ちちゃうもの」

 カレンはそう言って歩き出しました。

 すると男の子はカレンの進む方向に山の斜面を歩いてついて来ます。

「ねぇ、ちょっとだけ。ちょっとだけなら、いいでしょう?」

 なおもお願いする自分よりも小さな男の子に、可愛そうになったカレンも少し考えます。

(少しくらいなら、休んでもいいかな?)

「わかったわ。じゃあ少しだけね」

 カレンがそう言うと、男の子はそれはそれは嬉しそうに「ありがとぉ」と言ってニタリと笑うと舌なめずりをしました。よほどお腹が空いていたのでしょう。

 カレンは道の端の岩に腰を掛けると、ケーキを取りだして採集用のナイフで少しだけ切り分けました。

「そんな処にいないで、こちらにおいでなさいよ」

 しかしカレンが手招きしても、男の子は山から降りてきません。

「ワシは犬が苦手なんだ。おねえちゃんこっちに来てよ」

「バウは噛まないから大丈夫よ」

 しかし男の子は笑うばかりでいっこうに降りてきません。

 仕方なくカレンが男の子の方へ行こうと山に足を踏み出そうとしたとき、それまで大人しく側に控えていたバウが、男の子の方へ向かって大きな声で鳴き始めました。

 カレンは滅多に鳴かないバウの鳴き声に驚いてなだめようとしますが、バウは全く鳴き止みません。


 カレンがやっとの思いでバウを宥めてから男の子のいた山の斜面を見上げると、いつのまにか男の子はいなくなっていました。

 バウの鳴き声に驚いて行ってしまったようです。

(可愛そうな事をしたわ)

 カレンは申し訳なく思って、近くの木の大きな葉っぱを一枚採ると、その上に切り分けた木の実のケーキを乗せて道の端の石の上に置いておきました。

 きっと後で男の子が戻ってきたら食べるでしょう。





 しばらく進むと、山の上の方から甘い香りが漂ってきました。

 見上げるとそこにはたわわに実った真っ赤なコッコリの実がありました。

 こんなに沢山のコッコリの実がなっている所を、カレンは他に知りません。

(やっぱり山は人が入らないから、木の実の生りも違うんだわ)

 カレンはコッコリの木の実を取りたくて取りたくて仕方がありません。

 あんなにあれば、甘いものが大好きなお父さんはきっと大喜びして誉めてくれるでしょう。

 お母さんは甘いジャムを作ってくれるかもしれません。

 カレンは決心しました。

 山にはちょっとだけ足を踏み入れるけど、すぐそこなので迷うことはないし、すぐ戻ってくれば問題ないように思えます。

 カレンがコッコリの方へと足を向けたその時です。バウが再びけたたましくほえ始めました。

 カレンが驚いて振り替えると、バウはそんなカレンのスカートの裾をくわえてぐいぐいと脇道の方へと引っ張ります。

 カレンはお気に入りのスカートをバウに破られまいと、バウに引かれるがままになってしまいます。

「もう、バウ!山って言っても少し入るだけなのに、あなたってば真面目すぎよっ」

 カレンはバウに悪態をつくと、名残惜しそうにコッコリの木を見上げましたが、あんなにたわわに実っていたはずのコッコリが少しも見当たりません。

 木々に隠れて見えなくなったようです。

 カレンは残念に思いながらも、また家に向かって歩くことにしました。






 カレンとバウはそのあともがんばって歩き続け、夕暮れ時になってやっと脇道の終わりに来ました。

 すると、山の方から鳴き声が聞こえてきました。

 カレンが山の方を見上げると、そこにはケーキを欲しがった男の子がうずくまって泣いていました。

「どうしたの?なぜ泣いているの?」

 もしかしたら、どこか怪我をしているのかもしれません。

 カレンは駆け寄ろうとしましたが、またもバウが激しく吠えます。

 しかし今度はカレンは止まりませんでした。

 何故なら目の前で自分よりも幼い子が泣いているのです。

 お父さんもお母さんも、これから生まれてくる弟か妹は、カレンよりも幼いのだから何かあったら守ってあげてほしいと言われています。

 カレンはおねえちゃん心がむくむくと湧いてきて、自分が守ってあげなければ、と思いました。



 カレンは男の子の側に駆け寄ると、いつも自分が泣いている時にお母さんがするように、男の子の背中をさすってあげました。

 カレンはしかし、その時になってはじめておかしな事に気がつきました。

(この子、どこの子かしら)

 カレンの住んでいる村も、お祖母さんの住んでいる村も、とても小さな村です。

 村の人ならほとんど顔がわかります。

 しかしカレンはこんな子見たことありません。

 しかもこんなに小さな子が、いかに山を越えて近道したと言えど、カレンと同時にここまでたどり着けるでしょうか?

 カレンは何だかとっても不安な気持ちになりましたが、もしかしたら親戚を訪ねて来た人の子供が山に迷い混んでしまったのかもと思い直し、男の子に話しかけました。

「ねえ、どうして泣いているの?」

「おねえちゃんがくれるって約束したのに、くれないんだもん。こんなにこんなに、お腹が空いているのに」

 男の子は顔を両手で覆いながら言いました。

 カレンは確かにそんなような話になっていたなと思い出して、なだめました。

「ごめんなさいね、じゃあ、今あげるから泣き止んで?」

 カレンが優しく語りかけると、男の子は下を向いたままピタリと泣き止みました。

「ほんとう?」

「ほんとうよ」

 カレンが背負い籠を下ろすと、男の子はようやっと顔を上げてニタリと笑って言いました。

「あぁりぃがぁとぉうぅぅ」


 上げた男の子の顔は、影でした。

 影のように暗く淀んだ顔の口だけが妙に鮮明な赤色を発しており、くぱぁと耳まで裂けて広がると、カレンを飲み込もうとします。

 カレンはあまりの事に驚いて声も出ません。


 その時です。

 何かが男の子だったモノに襲いかかりました。

「バウ!」

 カレンは叫びました。

 バウは獰猛にうなり声を上げると、何度も何度も男の子だったモノに飛びかかります。

 男の子だったモノは敵わないと思ったのか、山の上の方へと逃げました。

 バウはそのモノを追いかけて、すっかり暗くなった山の道を登っていきました。

 カレンは腰が抜けてしまい、そこから動けません。

 ただだた恐ろしく、そしてバウが心配でその場で山に向かって叫び続けました。


「バウー!バウーーーー!」

「カレンか!?」

 すると後ろからカレンを呼ぶ声が聞こえました。

 驚き振り向くと、そこにはお父さんと村の男の人たちが大勢いました。

 皆が手に手に明かりを持っているので、さっきまで真っ暗だった辺りが急に照らされます。

 カレンはほっとすると同時に壊れたように泣きじゃくりました。

 鳴きながら「バウを助けて!」とお願いしました。

 村の男たちが何人か山を少し登りバウを抱えて帰ってきました。

 バウはぐったりとしてはいましたが、カレンを見るとクゥンと泣きましたので、カレンは嬉しくて益々泣かずにはいられませんでした。

 バウを見つけた男たちによると、バウの側には昔なくなったのであろう子供の風化した骨が落ちていたそうです。




 バウはそれから五年後に老衰で息をひきとりました。

 その後 村では各家で必ず、犬を飼うようになりました。

 神様の山はその後も時々いろんなモノが住み着きますが、村の人たちは山の脇道を通るときは必ず犬を連れて通り、親は子供たちには決して山には入らないようにと教えています。


 カレンは大人になってからは大きな街に嫁ぎましたが、いつまでもあの頃の事は忘れられない記憶としてカレンの心に残っています。

 





どうしてこうなったのか……


ほのぼのとした、絵本を書くような気持ちで書き始めたのですが、気がつけば頭のなかに「漫画日本昔話」の怖い時のメロディーが流れ始め、何だかとってもおどろおどろしいお話に。

前半に名残が少し有りますね。



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