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斜め上王道婚約破棄シリーズ

婚約破棄を相談されました。

作者: ノノ丸



「婚約を破棄しようと思っている」

「そりゃまた大事だな」


 で、


「何でオレに話すんだよ。家族か直接本人に話しに行けよ」

「大事になる前にお前に話しておきたかったんだ。勝手に破棄する俺に非があるのは分かっている・・・甘えかもしれんが」


 まぁうん。自分は責めたりしないだろうからね。友人として高い評価を頂いて有難いが真面目なこの男のことだ。迷惑をかける前に話しておこうって感じだろう。

 ここは王宮の客間の一室。離れの端にある部屋だから、人の目はない。そこで優雅に2人で紅茶を飲んで世間話をしたり政治について議論を交わしたりするのが日課。・・・だったはずなんだが爆弾ぶっこんできたな。



 目の前にいる男の名はガーランド・ルット・ヴァラーン。この国ヴァラーン帝国の第三王子だ。そんな王子様と自分が何で知り合いかというとまぁ偶然昼寝を楽しんでいた場所が彼のお気に入りのこの離れの部屋だった、といったものだ。もちろん怒られはしたけど。勝手に部屋借りてたからなーそこで目に入った王子も持ってた書物が知ってるものだったから話題振って、気があって、今に至る。

 最近は慣れたのか友人として扱いが上がったのか自分自身の話をチラチラと気軽に話してくれるようになったが、ここまでぶっちゃけた話となるとなぁ。うーん。

 真面目なこの男のことだ。婚約破棄だという大事をするのも悩んで悩んだ結果だろう。しょうがない、話を聞いてやるか。


「別にお前と婚約者、仲が悪いって噂聞いたことないけど・・・なんかやらかしたのか?お相手さん」

「いや・・・彼女になんの非もない。親同士の決めた婚約でありながらも、会えない時が多いが誠実に相手をしてくれている。ただ俺に・・・好きな相手が出来ただけだ」

「・・・・・・は?」


 好きな相手が出来た。

 マジか、この堅物に?


「え、何それ面白・・・じゃない。お前がマジモンの恋愛?そりゃ凄い。政務や軍事以外で心動くことが出来たんだな」

「悪かったな。…その、相手といる時は安心出来るというか…肩の力が抜けるんだ」


 成る程。ガーランドは第三王子だが、王位継承権は二位という微妙な位置だ。

 現在一位である第一王子がまぁ王様になるだろうけど、それを良しとしない派閥があってガーランドを王にと推している。本人は第一王子である兄を支えて軍人にでもなるかと日々呟いているが…肝心の王である陛下がなぁ。曖昧にそのことを濁しているせいで敵が多いというかなんというか。とにかく、立ち位置的に微妙なのだ。日々が緊張の連続。そんな中、安心出来る場所があるとはいいことじゃないだろうか?この堅物が、だ。自分から身を預ける場所を決めたのなら、



 「私」は、応援するべきであろう。



 婚約破棄について悩んでいる本人には悪いが、現在目の前で聞いている親友がまさか婚約者だとは思うまい。いやいや、これには深い事情があってだね。

 幼い頃から礼儀作法が嫌いで日々逃げ回っていた公爵令嬢である自分。きついコルセットも、重いドレスも大嫌いだ。脱ぎ捨てて兄のお下がりである簡易な礼服を着て髪を纏め上げていれば、普段から釣り目でまだ凹凸のない身体では男女の見分けはつかなかった。それを良しとして、王城に呼ばれた時はその格好で抜け出し空いている客間で昼寝をしていたのだ。

 まぁそれでガーランドと出会って仲良くなって…その、好きになったのだ。この堅物で、真面目で、味方を作らない王子が。

 最初は放っておけないという気持ちだったと思う。ピリピリと周りを警戒して、まだ子供であったのに大人の対応を求められた。国も、家族も大事にしてる。でも自分のことは二の次で。くたびれた姿で自分の注いだ紅茶を飲む彼の、味方になりたいと思ったのだ。

 だから願った。礼儀作法も完璧にする、勉強や夜会もサボらない。だから、第三王子の婚約者にしてほしい。

 両親はそりゃあ驚いた。なんせ接点もない二人だ。身分的には問題ないだろうが、何故急にそんなことを言い出したのかと問い詰められた。まさか男装して毎回お茶会やってますなんて言えやしないものだから、城で見かけた時に一目ぼれしたんですと言っておいた。なんだかんだ私に甘い両親はガーランドの婚約者にしてくれた。


 でも私は彼に名乗り出るつもりはなかった。嘘をついて、男のフリをして彼と会っていたのだ。軽蔑されたらと思うと涙が出る。だから長い髪をほどき、化粧を濃くつけ、令嬢らしい作法で会った。案の定、気づかれなかった。良かったと思う反面、少しだけ残念に思う。でもいつか…私自身が彼の支えであり強い味方になれた時に伝えられたら、と。



 思っていたんだけどなぁ。



「…良かったな、そんな相手と出会えて」


 ああ、ちゃんと笑っているだろうか。

 声は震えていないだろうか。

 いいじゃないか。彼が、ガーランドが味方でいてほしい相手を見つけたんだ。祝福しなくては、応援しなくては。だって、彼が私に求めたのは「親友」という私で。


「ちゃんと、婚約者も分かってくれるんじゃないか?お前の気持ちを素直に伝えてやれ」



 「親友」を演じきろう。

 ちゃんと味方のままで終わらせよう。



「そう…だろうか」

「堅物のお前を今まで相手にしてきたんだ。分かってもらえるだろ。それで?その恋焦がれた相手にはちゃんと気持ちを伝えたのか?」


 にこやかに言っているはずの言葉は軽く聞こえる。駄目だ、ちゃんと笑え、いつもの、彼の理解者でなくては。

 不安そうにしている彼にせっつくように言えば、何故かゆっくりと首を横に振られた。


「いや、この気持ちを相手に伝えるつもりはない」

「…はぁぁ?!!」


 まさかの言葉に声が漏れる。は?気持ちを伝えるつもりがないだと?婚約破棄までするつもりで?!


「あのな、それ婚約破棄した相手にも失礼だぞ?その愛を貫き通すつもりなら想いを伝えなくてどうするよ、告白しないでどうするよ、押し倒さなくてどうするよ?!」

「おい、下品だぞ」

「うっさい、最終的にはそうなるだろ。お前がその相手と報われないと婚約者だって面目立たないだろうが。実際王子との婚約を破棄された令嬢がもう一度ちゃんとした別の婚約者を見つけるのは途方もないほど難しいんだぞ。自分が悪いと思ってるなら、そのくらいフォローしてやれるほどキレイに相手とくっついてやるのが当然だろうが」


 いや多分私が生涯結婚することはないだろうけど。でもさ、ここまで味方でいようと思った矢先に舞台から弾き出された身としてはちゃんと彼が幸せな空間を作っていてもらわないと腹が立つわけで。なんの為に頑張ってきたと思ってるんだ。お前の為だぞガーランド。


「で、何処の令嬢だ。身分が低いのか?それなら何処ぞの養女にしてから結婚すればいいだろう」

「…結婚など、出来ない相手なんだ」

「………まさか人妻?」

「違うっ!!」


 人の奥さんに恋焦がれたり?とちょっと不安になって聞いてみれば凄い形相で否定された。良かった、流石にその方向は応援出来ないところだった。


「じゃあなんでだよ。そんな言いにくい相手なのか?」

「………」

「自分が知ってる相手か?なぁ言えよ」

「………」

「やっぱり人妻…」

「違うっ!!!」


 じゃあ誰だよ。言ってよ。言ってくれなきゃ私が惨めでしょう。

 応援くらいさせてくれたっていいじゃないか。


 彼は深い深いため息をつくと、片手で前髪をくしゃりと潰してみせた。これ癖なんだよね。本当に、心の底からまいってる時にする癖。本人気づいてないけど、ずっと見てきた私には分かる。

 そこまで言いたくないならいいと言おうとしたんだが、ギロリと鋭い目で射抜かれギクリと固まる。いや、この男実に顔が整ってるわけだが目つきが鋭いので睨まれると本当に怖いのだ。


「お前だ」

「へ?」

「お前だよ。…俺が好きな相手は、お前だ」



 今度こそ、本気で固まった。



「ああ、分かってる。お前は男だし、俺のことも友の1人だと思っているだろう。実際、この部屋で偶然出会っただけで、不定期に会って話すだけの間柄。…実際、お前の身分だって知らない。そんな相手に恋慕するなんて、俺は狂ったのかもしれないな」

「え…っと……」

「お前以上に、心安らぐ人物がいなかった。お前以上に、俺のことに心を砕いてくれる者はいなかった。お前以上に、俺と対等の目線で物事を考えてくれる奴などいなかった。友人として見ているつもりだったんだがな。…どうしても、愛おしいと思えたんだ」


 固まった私に注がれる目線は、先ほどの鋭いものとは全く違っていて。

 かっと顔に熱が集まる。な、なんて目で見てくるんだ!って、私告白されてる?!婚約破棄されたのに今告白されてる?!令嬢でもなく、変な男装してる自分に!?



 ただの、「私」であった自分を、好きだと言ってくれるの?



「勿論お前の返事は求めていない。…ああ、言うつもりなどなかったんだ。どうあがいたって、こんなこと結ばれるはずがないと分かっていたから」

「ごめん…」

「いいさ。まぁ、俺のことを嫌いでならないでいてくれるなら…また会ってやってほしい。話を、聞いてほしいんだ。お前の傍が心地よい」

「…うん」

「……暴露ついでに、一つ願いを叶えてくれないか?」


 な、なに?

 なんか頭が真っ白でついていけないんだけど。今度は何を言うつもりなんだ。

 身構えていると、彼は少しだけ困ったように微笑んでみせた。




 「名前を、教えてくれないか?」




 その言葉で、一瞬にして頭が冷えた。

 なにが「私」を見てくれただ。何も伝えていないのに、偽りの姿でしか本音で語り合っていないのに。ただただ自己満足で、相手を守っている気になって。


 ごめん、ごめんなさいガーランド。堅物なあなたはきっと、偽者に恋をしている。

 そこには誰もいないのに。



「…お前が婚約破棄を無事果たしたあとに、また会ったら教えてやるよ」



 もう、会うことはないだろう。

 だってそれが「親友」ってやつでしょう?



 私の恋も、彼の恋も偽者だった。

 なら最後まで彼の味方でありたいのだ。

ありがとうございました。続きも出来たのでよければ読んでやってください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 王子、凄く悩んだんでしょうね。 個人的に心配なのは、男性だから好きになったのか、です。 本人の自覚がなかった性癖、みたいな。 そうじゃなかったら、主人公と幸せになって欲しいですね。 さすがに…
[一言] 唐突すぎて伏線もなく意味がわからない 王子が発狂したとしか思えません 王子が最初から相手が女であることに気づいていたとか そういう描写が必要なのでは
[良い点] わかりやすい 文章でした。 [一言] 続編欲しいいです
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