影山知恵子
僕の通っている高校は新津華高校といって都内では結構有名な進学校だ。
部活も結構強いらしく数年前には甲子園に行ったこともあるらしい。
帰宅部の僕には一切関係のない話なのだが......
いくら朝だとは言っても日本の真夏日は油断ならない。
想定外の暑さに僕は目がクラクラして仕方がない。
額から出る汗も尋常じゃなく、持ってきたハンカチはもう既にびしょびしょだ。
朝あんなことがあったのに学校の授業はいつも通りに行われる。
当たり前といったらそうなのだが、なんだが変な気がしてならない。
あんな出来事があって平然と授業を受けられるわけもなく、ほとんど頭に入ってこない。
放課後、女子生徒にあることを尋ねた。
「女の子を幸せにする方法?隆君に彼女ができるわけないのになんでそんなことを聞くのかしら?」
「おい、僕が彼女できない前提で話すのはやめろ」
実際今の所彼女ができたことはないのだが......
まだこれからできるかもしれないだろう。
期待は薄いが。
「まあ、どこかに連れて行ってもらうのが無難かしら」
影山知恵子は頬に手を当てながらそう言った。
肩あたりまで伸びたポニーテール、パッチリとした目、綺麗な唇。
見た目からして秀才のこいつは、やはり見た目通り頭がいい。
この進学校である新津華高校でも頭ひとつ抜けて成績がいい。
こいつと僕との付き合いは長く、いわゆる幼馴染という真柄だ。
そのためか僕たちの間では気を使うことなくなんでも喋れる。
「でも、隆君にどこかに連れて行ってもらっても嬉しいかどうかは疑問だわ」
「少しは気を使え!!」
こいつは親しき中にも礼儀ありという言葉を知らないのか。
僕の心は案外脆いんだぞ。
それはもうガラスのように。
「やっぱり人を幸せにするほど難しくて答えが見つけづらいものはないわよね」
人を幸せにする、一見難しそうだが人によっては簡単かもしれない。
しかし、その幸せにする相手が見ず知らずの会ったばかりの人間となれば話は別だ。
大抵の人間が難しい、または不可能だと思うだろう。
「でも隆君がその子を幸せにしてあげたいと思うことがその子にとって一番の幸せなんじゃない?」
「お前は良いことを言うな」
「そんな事ないよ、当たり前の事を言っただけ」
知恵子は昔から僕の相談に乗ってくれ、僕の背中を押してくれる。
僕がこの進学校に入れたのもほとんど知恵子のおかげだと言っていいだろう。
ほんと、一生かかっても返せないくらいの恩をもう既に貰っている気がする。
「それで、その女の子はどんな子なのかな?」
「おい、僕は女の子を幸せにする方法を聞いただけで、僕が気にしている女の子がいるなんて言っていないぞ」
「そうかな〜、そうだとしたらこんな事聞かないと思うけどな〜」
やはり女という生き物は勘が鋭いらしい。
「例えば青髪の女の子とか」
勘が良すぎる!!
怖いくらいに勘が良い!!
こいつは一体どんな能力者なんだ!?
長い付き合いだが知恵子にこんな能力があるとは気づかなかった......
「だって朝隆君に会った時、ワイシャツに青い髪がくっついていたんだもん」
なんだそういう事か。
幼馴染が変な能力者じゃなくて安心したよ。
確かに白のワイシャツに青は目立つからな......
これからは気をつけた方がいいかもしれない。
「それにしても青髪なんて珍しいよね〜」
確かにそれはそうだ......
あの子が言うにはこの世にいてはいけない存在、だから多分この世の生き物ではないのだろう。
じゃあ宇宙人か?それても異世界人?
あの子を見る限りそんな風には見えなかったが。
まあ今日帰ったらもっと詳しく話を聞こう。
「ところで進路の紙はもう書いた?」
そういえばそろそろ提出日だっけ、すっかり忘れていた。
「まだ決めてないけど、どうせお前は有名国立大学だろ?」
「親がうるさいからね」
そういうと知恵子は肩を落としながら大きなため息を漏らした。
「なんだ知恵子らしくないな、お前なら大学受験なんて人間が呼吸するのと同じくらい簡単に受かるだろ?」
「一体隆君は私の事をどんな人間だと思っているの?」
「天才秀才奇才女」
「私はそんな変な女の子じゃありません、ちょっと頭が賢いだけの普通の女の子です」
頭が賢いのは認めるのかよ。
まあ事実そうなのだが。
それにひきかえ僕は一般人に毛がはえた程度だ。
別に自分が嫌いなわけではないが。
それにしても人間は不思議だ。
基本的には同じつくりなのにもかかわらずどうしてこんなにも差が出るのだろう。
神様からしたら人間の学力差や運動神経の差なんてほんの微量なものでしかないのかもしれないが。
僕はそんな事を考えているうちに時計が5時を過ぎている事に気がついた。
青鷺加奈子を1人でずっと居させるわけにはいかない。
知恵子との楽しい会話は惜しいが、僕は別れを告げると急いで家へ向かった。