青鷺加奈子
僕は朝いつも通りに目を覚ますと、大きな違和感を感じた。
正確に言うと僕の上に1人の少女が乗っていた。
それはもういつも通りだといった風に、それが当然であるように。
しかし僕はこの少女のことを知らないし見たこともない。
なんでそんな子が僕の部屋にいるのかは当然僕にはわからない。
その少女の髪は異様に青く、そして白い肌はもはや人間とは思えないほどだった。
透き通るような瞳に桜色の唇、見た目は小学五年生くらいだろうか。
もはや美少女を通り越して何かの芸術作品ではないのかと疑ってしまう。
「お前は誰だ?」
僕がそういうと少女は困ったような顔をして、
「頑張って私を殺してください」
そんなことを言ってのけた。
それはもう前から言おうとしていたかのように。
この子は僕を殺人犯にでもしたいのだろうか?
そんな風には決して見えないが......
「えっと......どういう意味かな?」
「そのままの意味です。私はこの世に存在してはいけない者、もし私がこのまま生きてしまったらこの世は滅んでしまう」
どうやらそういうことらしい。
いや、僕には全く理解できないのだが。
そんな漫画やアニメのようなことをいきなり言われても脳がついていけない。
しかも僕は寝起きなんだぞ。
「それは本気で言っているのか?」
そんなの信じるほうが無理だろう。
しかしその少女は、
「本気、嘘を言っても仕方がない」
それはそうだが、ちょっと無理やりすぎないか?
「仮にそれが本当だとして、お前は俺に殺人犯になれと?」
「そうは言っていない、私は一定以上の幸せを受けると自然と消えるようになっている」
そんなことが本当にあり得るのか?
答えはNOだありえない。
しかし、そんな冗談をわざわざ人の家にまで侵入して言うだろうか?
しかも見た目はこの世の生き物じゃないと言われても信じてしまうほどに美しい。
「じゃあお前は俺に自分を幸せ者にしてくれと言っているのか?」
「そう」
その少女は短くそう答えた。
他にも色々聞きたいことが山ほどあるのだが、それ以上聞いても何か別の情報を聞けるとは思えない。
僕は大きなため息を吐きつつ、
「とりあえず僕の上から降りてくれ」
それを聞くとその少女は僕から降り、ベッドの横に立った。
「それで、もう一回聞くがお前は誰だ?名前は?」
「私は青鷺加奈子」
どうやら日本人らしき名前はあるらしい。
「僕は清水隆、とりあえずよろしくな」
そうは言ったものの、これからどうすればいいかなんて僕に分かるわけがない。
普通だったらこんな変なことを言う子は警察に届けるのが当然だろうが、この子はどこか儚げで、そしてとても寂しそうな表情をしている。
こんな子を邪険に扱えるほど僕の心は腐っていない。
「いったいどこに住んでるんだ?」
「家はない」
「家族は?」
「いない」
これはもう1人にはしておけない。
そう僕は確信した。
さっきの話が嘘か本当かは置いといてこの子を放っておくことは僕にはできない。
ちょうど僕の両親は海外に出張中のため家には僕1人しかいない。
この子が住み着いても何も問題はない。
食費やらが高くなるがそれくらいの余裕はある。
「じゃあ俺の家に住むか?」
「うん」
こんな簡単に1人の少女を家に住まわしていいのかは分からないが、いや普通に考えたら当然だめなのだが、僕はなぜかこの子のそばに居たいとそう思ってしまった。
この出会いは偶然なのではなく運命なような気がしてならない。
この子のことをもう少し詳しく知りたいのは山々なのだが、今日は平日そして僕は高校二年生、当然学校に行かなければならない。
こんな出来事があったと言っても学校を休んでいい理由にはならない。
僕は意外と真面目なところがある。
いやただ不器用なだけかもしれないが......
「とりあえず僕は学校に行かなくちゃならない、帰ってくるまで静かに家で待っていられるか?」
「学校?」
この子は学校も知らないのか?
まあこの世には存在してはいけない者とか自称してたから、この世界のことはあまり詳しくはないのかもしれない。
しかもあろうことかこの子からは冗談で言っているような感じはない。
全くもって不思議な子である。
「まあとりあえず僕が帰ってくるまで家にいてくれるか?」
「分かった」
僕はそういうと急いで学校の行く準備を始めた。
下手したらもう遅刻の時間である。
急いで制服に身を包み、カバンに乱雑に教科書を詰め込む。
今日は朝食抜きだな......
3時間目の体育は体力がもつだろうか?
まあそんなことを今から心配しても仕方がない。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
僕はそう加奈子と言葉をかわすと急いで自転車にまたがり学校に向かった。