見失って見つける
私は恋をしています。
ある一人の女性に恋をしています。
同性愛には縁がないと思っていました。
しかし今、私は確かに恋をしているのです。
始まりは食堂で遅めの昼食を取っている時でした。
私は自分で自分がなにを求めているのかわからなくなっていました。
複雑に入り組んだ路に迷い、将来も、未来も明日も、見えなくなっていました。
足りない人生に嫌気が差していました。
そんな時、ふと窓の外を見ると、綺麗なあの女性が、私と同じように昼食を取っていたのです。
私が彼女の方を向く度、彼女もこちらを向いてきました。
そして眼が合うのです。
その眼は光り輝いていました。
希望に満ちた、未来の見えた眼でした。
彼女は私とは正反対でした。
私は彼女を羨ましく思いました。
それからというもの、私が向かう先には、だいたい彼女がいました。
お手洗いで彼女に会いました。
私は彼女を見ると、つい笑みがこぼれます。
それを見て、彼女も私に微笑みかけるのです。
とある洋服店でも彼女に会いました。
私が試着室のカーテンを開けると、そこに彼女がいました。
私は驚いてカーテンを閉めました。
彼女もまた、驚いていました。
私は彼女のことを調べました。
まず、登校に使う電車は同じです。
見かけるのは稀ですが、同じことは確かです。
また、帰宅時も同じでした。
他にも、帰宅に使う道、行きつけの喫茶店、その日に食べる昼食まで同じでした。
私は調べていくうち、彼女に恋をしたのです。
今日も、彼女を眺めながら帰宅しました。
家の鍵を開け、靴を脱ぎ、手を洗おうと洗面所に行きました。
するとそこにはなんと、彼女が立っていたのです。
しまった、と思いました。
彼女を眺めて帰っているうち、いつの間にか彼女の家に来てしまったようです。
パニックになった私は、とにかく逃げなければと思いました。
私は玄関で靴を拾い、庭から逃げようとリビングの窓に向かいました。
しかし窓の外には、彼女が立っていました。
先回りをされたのです。
終わったと思いました。
彼女はこの後、警察へ通報するでしょう。
そして私は連行され、格子の中で生活を送るのです。
私は考えました。
先の見えなかった人生。
それがこんな形で終わるなら。
そして考えた末、私は台所からナイフを持ち出し、彼女の目の前で私の腹に突き刺しました。
私は朦朧とする意識の中で、窓を見ました。
あぁ、そうか、足りないものは、そうだったのか。
そこには、腹にナイフが刺さった彼女が映っていました。
私は確かにそこにいました。