デューテリウム王国
昔々、デューテリウムという王国がありました。
国王の名前をトリトンといい、王妃のプロチウムと仲睦まじく過ごしていました。トリトンは国民のことを第一に考えるとても優しい王様です。そのため、国民からも大変な人気でした。
トリトンは国のためになる仕事は嫌な顔一つせずこなしていました。隣国からの大使の接待でも、国をさらによくするための政治に関することでも、新たなルールの作成のために膨大な資料に目を通すことでも、それは変わりませんでした。しかし、そんなトリトンにも、どうしても気が重くなる仕事がありました。
それが何かというと、犯罪者への処罰を決める仕事です。確かに、罪を犯した国民です。その人間を恨んでいる国民もいるのです。だからこそ裁かなければならないのですが、王の目の前に来る罪人の多くは、既に深い後悔の色が見え、それだけで罪を犯した罰を受けているようにも感じられます。
デューテリウム王国では、罰として、牢屋に入ります。この牢屋に入る刑期を王が決めるのです。多忙な王様なので気が進まないのであるならばほかの誰かに任せても構わないです。しかし、自分の嫌なことを他人にさせてしまうことになるわけです。王様はそちらのほうが余程嫌なのです。
愛する民から自由を奪うことが非常に苦痛です。裁判の時点で反省していることを加味して、トリトンは、短めに刑期を判決します。
このことが犯罪被害者からしてみると、不満になっていきました。犯罪者の中にはトリトンの前でのみ、しおらしくして罪を逃れるという策をこらす者も実際にいるのです。そういったところを見抜けず、犯罪者が早く出てきてしまう事態が起こってしまったのです。
大臣がトリトンに提案します。大臣もトリトンの優しさを知っているので、慎重に言葉を選びました。
「罪人が牢屋に入っている時間が短いのではないかと民の間で不満に思っている者が多いようです。実際、他国よりも刑期は短いです。王様は民の自由を奪うことが嫌いなのも事実なのは心得ております。そこで、罰金刑を作ってみてはいかがでしょうか?」
「そうなのか。しかし、罰金とはいえ、払えない場合はどうするのだ」
「その場合だけ、禁錮刑を長くすればよいのです。他国ではそのようにしております」
トリトンが言葉を返す前に、隣で聞いていたプロチウムが言葉を挟みます。
「それならば、あなたが禁錮刑を、私が罰金刑を決めるというのはどうでしょう?」
トリトンは愛する妃であるプロチウムに言われては反対できず、この日以降、そのように決定しました。
あるとき、王という立場を侮辱するような演劇を披露した劇団が逮捕されました。まず、トリトンが裁きます。自分を侮辱しただけなので罪を軽くしようと思いましたが、王妃のことを思い、心を鬼にして前例に比べて重めの刑期を告げました。次に王妃が裁きます。やはり、王のことを考え、法律学者から提案された額よりも重いものを告げました。
お互いがお互いを思い、そして民を思うからこそ、却って罪状が重くなってしまいました。
いつしかその重い罰が普通になり、トリトンは暴君として有名になってしまったということです。