7 レア種族
「すぐに彼から離れろ!すぐにだ!」
「おやおやおやぁ?これはこれはセシル卿じゃあないか。久しぶりだなぁ。いやいや、相変わらず私は嫌われているね?」
男は両手を『降参しました』といった風に挙げて俺から離れた。
セシルさんがあんなに声を荒げるなんて、そんなにコイツのことが嫌いなのか?
彼女は凄い速さで移動し俺を庇うように立ち、厳しい表情で男を睨みつける。
「それにしてもその子は君の奴隷だったのか。残念だなぁ。こんなにも面白そうなのに君の物だと手に入れるのは難しそうだなぁ。いやぁ残念、残念だなぁ。
・・・まぁでも仕方ない、貴女に斬られるのはごめんだからねぇ、私は大人しく退散するよ。」
どこまでもふざけた仕草で男は屋敷の塀の向こう側へと消えていった。
いったい、なんだったんだアレは・・・。
「はぁ・・・まさか客人がアイツだったなんて・・・大丈夫かい?」
「あ、はい・・・大丈夫です。」
「そう、なら良かった。」
心底ホッとしたようにセシルさんは肩の力を抜いた。
もしかして、アイツは危険な奴だったんだろうか?さっき大声をあげていたのはあの男が嫌いだったのではなく、俺が危険だったからか?
「えっと、さっきの人と知り合いっぽかったですけど――・・・」
そこまで言ったところでセシルさんの表情が再び鬼の様になり言葉を詰まらせる。
(こ、怖っえー・・・。)
「・・・奴は生粋の変人で変態で他国の権力者なんだ。危険な奴だから絶対に近づかないように。」
彼女はそう言った後、下を向いて深く溜め息をついた。
やっぱり危険だったのか・・・。確かに気持ちの悪い奴だったけど、いやちょっと待って・・・権力者?
「あんな奴が権力持ってる国があるんですか!?」
「そうなんだ・・・あんなのが権力持っちゃってるんだよ。」
セシルさんはうんざりといった感じだ。俺は、正直信じられない・・・あんなのが権力握ってるなんて。
そういえばセシルさんが伯爵って言ってたな。アレか、貴族ってやつか。
変態で変人なのに貴族・・・ゾッとする話だ・・・。
「まぁ、アレの話はもういい、やめよう。それよりも赤毛の少女なんだけど、ちょっと問題があったんだ。
今後の事を相談しよう。とりあえず宿に戻ってからね。」
「あ、はい。わかりました。」
問題か・・・なんだろう?既に買取られていた、とかだろうか?でもそれは無いって言ってたし・・・何にしてもまずは宿に戻ろう。
◇
「さて、まず赤毛の少女はまだ売られてなかったから、売買契約を結んできたよ。10日後に引渡し予定になった。」
宿に戻って俺はベッドに、セシルさんが椅子に座り、一息ついたところで彼女からの第一声は赤毛の少女の確保というグッドニュースだった。
「本当ですか!?」
「本当だよ。ただ、問題があって、それは、今の所持金だと全く足りない事なんだ。」
「マジですか!?」
グッドニュースかと思いきや、問題つきでした。
金欠かよ!とか思ったけど、考えてみれば多分、いや確実に金欠の原因は俺だよな・・・。
「マジです。君もそこそこ高かったんだけど、スキルを渡すのに使った秘薬がかなり高価な品物だったんだよ。カズキ君100人分ぐらいした。」
「そんなにって・・・えーと・・・俺100人分ってのがどのくらいなのかが解らないんですが・・・。」
高そうっていうのは伝わってくるんだけどこの世界の金銭価値が解らないのでイマイチ理解出来ない。
するとセシルさんが大雑把に教えてくれた。
この辺りの3国は同盟関係にあり、通貨価値は統一されているらしい。銅貨、銀貨、金貨、白金貨の4種類が使用されているそうだ。
日本円で大体、銅貨1枚で10円ぐらいだと思えばいいらしい。銀貨は銅貨100枚と同価値、金貨は銀貨100枚と同価値、白金貨は金貨100枚と同価値。つまり銀貨1枚1000円、金貨は10万円で白金貨が1千万円か。
「ちなみに君は金貨80枚、あの秘薬は白金貨10枚した。」
「それだと秘薬は俺100人分でもまだ足らないですよ。しかし、まさかそんなに高価な物だったなんて・・・と言うかセシルさんってお金持ちなんですか?」
「別に金持ちじゃないよ。秘薬は、元々は訓練で取得できない特殊スキルが失われないよう、継承する為に作られた物だからね。需要は少ないし、そもそも作るのに必要なアイテムが稀少で高価だから。」
「需要無いんですか?スキル譲渡なんて便利そうなのに?」
「安ければそうかもしれないけど、訓練で得られる通常スキルの為に大金を出すことはないよ。しかもアレで会得した場合、スキルレベルは初期値になるしね。」
「なるほど。」
スキルレベルまでは継承できないのか。
それでも十分便利だと思うけど、1億円となると確かに訓練した方が良いってなるか。
しかし1億もポンッと払えるのに金持ちじゃないって、この世界の金持ちの基準ってハードル高そうだな。
「話を戻すよ。それで今の所持金なんだけど、白金貨が1枚、金貨13枚と銀貨が33枚、銅貨少しで全部なんだ。
あの娘の売買契約で必要なのは白金貨3枚。つまりあと10日で白金貨2枚を用意しなきゃいけない。」
「え?なんでそんなに高いんですか?・・・女の子だから?」
「いや、確かに可愛い娘だったし頭もよさそうだった。君から聞いた情報だけでも恐らく高級奴隷として扱われてるのは予想してたし、もちろんそれなりに高価なのも判っていた。
・・・だけどね、それでも普通の高級奴隷なら精々白金貨1枚ぐらいが相場なんだ。」
セシルさんの話だと、奴隷には大別すると3種類あって、罪人奴隷、虜囚奴隷、高級奴隷に別けられるのだそうだ。
一番安いのが罪人奴隷。犯罪を犯した者が奴隷にされたのがコレで首輪の他、手枷足枷を付けられて国の管理の下、鉱山などで過酷な労働を強いられる。要は懲役みたいなものだ。そして数年のお勤めを果たした者の中から一部が奴隷商人に管理が委譲され、売りに出される。既に酷使された後なので安価で取引されるのだそうだ。安い分、使い潰すのを前提に買われる。
虜囚奴隷はその名の通り、捕らえられた罪人でない奴隷だ。3国の他、周辺の小部族等の者達を捕らえ、奴隷にするのだそうだ。他にも借金など様々な理由から奴隷商人に売られた者もコレになる。容姿や年齢、レベル等様々な要素で値段分けされる。そこそこの値段で取引されているので、すぐに使い潰されたりはしないが、それでも酷い扱いを受ける事に変わりはない。
高級奴隷は虜囚奴隷の中から容姿が良い、レベルが高い等の理由で選別された者を、更に様々な作法等の教育を施して価値を高めた奴隷。高価で取引されており、購入するのは貴族や大商人等の金持ちがほとんどで、使用人や愛玩動物の様な扱いが多いらしい。高価な分、他の奴隷ほど酷使される事は少ない。
大体の相場は罪人奴隷が金貨1枚前後、虜囚奴隷は金貨20~50枚前後ぐらい、高級奴隷が白金貨1枚前後が一般的ということだった。
「ならどうして・・・。」
「それは、彼女が珍しい種族だからだよ。」
「え?珍しい・・・種族?」
「彼女は、竜人と人間のハーフなんだよ。」
竜人・・・?
あの娘は人間じゃ無い?
「いや、いやいや、ちょっと待ってください!竜人ってリザードマンの事ですよね?でもあの娘はどう見たって人間にしか見えないですよ!だって、鱗なんて無いし、眼も爬虫類っぽく無いし・・・。」
「竜人というのは人とドラゴンの2つの姿を持つ獣人の1種だよ。成人する頃には、人の姿でも頭に角が生えてくる。変身しなければ人間との見た目の差は角ぐらいだ。君の思っているトカゲ人間のリザードマンとは別の種族になる。
竜人ってのはそのほとんどが牙獣王の国で要職に就いているエリート種族なんだけど、自分達の混血を毛嫌いしていてね。それこそ多種族との婚姻なんて決して認めない純血主義なんだ。
そのせいか、竜人という種族の人口は少ない。そして他種族との竜人のハーフは当然もっと少ない。彼女はそんなレアな存在で、おまけに若くて可愛いときてる。商館の主人の話じゃ従順で物分りも物覚えも良いらしい。当然値段は跳ね上がるってわけだ。
レアな種族っていうのなら君も現人神なんていう見たことのない種族だったんだけど、言葉が通じないって事であまり値は上がらなかったみたいだね。それでもただの虜囚奴隷よりも高値になったけど。」
「人間じゃ・・・ない・・・。」
「それにあの子の髪・・・いや、これはいいか。それよりもこれからどうするか、だね。」
これからどうするか・・・。
そうだ、あの娘が人間じゃなかった事に少しショックを受けたけど、それは一旦置いておこう。そもそも彼女が人間でなくても、俺には関係ないはずだ。なんで俺はショックを受けたんだ?
それにこの世界じゃ多種族が普通に共存してるんだから俺が人間で彼女が半人半竜だからと争う事も無いのだし、気にしなくてもいいはずだ。
それよりも、今は金をどうやって稼ぐかだ・・・っと言っても俺が金を稼ぐ方法なんてなさそうだけど・・・。
いや、そもそも10日しかないのにそんな大金、どうにかできるのか?
「まぁ、大丈夫だよ。ダンジョンを1つか2つ程攻略すれば多分、何とかなると思うから。」
「ダンジョン・・・ですか。」
「そう、わたしは冒険者だからね。資金を得るにはダンジョン攻略か依頼、クエストを請けて完了するしかないんだ。
だからカズキ君にはその手伝いをしてもらうよ。」
「クエスト・・・。」
聞いてはいたけど、ダンジョンにクエストだなんて、まるでゲームだ。
実はヴァーチャルリアルゲームでもやらされてる・・・・・・いや、ないな。もしそうならクソゲー過ぎるだろ。スタートで説明なし、言語理解不能、その後グロシーンを見て、暴力受けて、挙句奴隷にされて売られるって・・・ゲームでも楽しめねーよ。
「実際に行くのは明日から準備してそれからになるけど、その前にダンジョンでの行動やレベルなんかについても説明するからしっかり聞くように。じゃないと死ぬからね。」
「あの、俺まだパーティメンバーになるか決めてないんですけど・・・。」
「パーティメンバーじゃなくてもわたしの奴隷だからね。荷物持ちとしてついて来てもらうよ。」
「その、俺なんかついて行っても足手まといじゃないですか?危険なら留守番してた方が良いと思うんですけど・・・。」
「まぁ、正直足でまといだとは思うけど、それでもついて来てもらうよ。」
「でもですね・・・。」
「諦めなさい。君がパーティに入るかどうかの判断をする為に、わたしと一緒に行動して貰うって言ってたでしょ。それに君のレベル上げもしたいからね。
レベルが上がって強くなれば、その怖いって感情もマシになると思うし。」
「え、ええー・・・・・・。」
「心配いらないよ。わたしがしっかり鍛えてあげるし、君のレベル上げも本来はすごく時間がかかるけど、わたしはそれを補助するスキルがあるからね。
君自身の才能もかなり高いからすぐに強くなれるよ。
だからいい加減諦めて説明を聞きなさい。うっかり死なれたら困るから。」
「・・・はい・・・。」
死ぬのはゴメンなので真剣に聞いておく事にしよう。
・・・できればずっと荷物持ちの扱いでお願いしたい。
出来る事なら危ない事は極力避けたいけど、セシルさんの態度からしてそれは無理だろう。諦めてダンジョンへ挑むしかないようだ。
才能が高いと言われたけど、正直まったく実感を持てないし。
そもそもレベルが上がったら強くなるっていうゲーム的なシステムが、感覚だとまるで分らない。
筋力なんかが突然跳ね上がったりするのだろうか?それとも筋力なんかを鍛えたらレベルが上がるのだろうか?
そんなことを考えているとセシルさんの説明が始まった。




