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異世界冒険譚(仮)  作者: 網田 賢一郎
5/11

5 奴隷と主人

 場所は変わり、現在俺は街中の宿屋の一室に居た。

 あの後、女性に詰め寄り問いただそうとしたところ『先に場所を変えよう』と遮られてしまった。

 俺はそれでも落ち着き無く声を上げたが直ぐイケメンに口を塞がれ、射殺すように睨まれて、それでまぁ・・・ビビッてしまい、おとなしく従ってここまで移動したわけだ。我ながら情けない。

 ちなみに宿屋に到着したところでイケメンとは別れた。

 知り合いというだけで夫婦でも恋人でもないのだそうだ。

 

「さて、改めてはじめまして、ガゼル君。わたしはセシル。よろしく。」


 そう言ってセシルさんは帽子をはずしベッドへと腰掛けた。

 帽子に隠されていた黒髪と素顔があらわになる。

 ショートボブの髪型で少し釣り目の美人さんだった。


「えっと、こちらこそよろしくお願いします。」


 とりあえず挨拶を返す。

 今は彼女だけが頼りだ。心証は悪くしたくない。

 したくないが、そろそろ我慢の限界だ。


「あの、俺・・・突然ココにいて、訳わからない内に周りの人がこ、殺されて、その・・・捕まって・・・。」

「あーまって待って。とりあえず落ち着いて、深呼吸しよう。心配しなくても話はちゃんと聞くよ。」


 しどろもどろになって上手く説明できずにいると、セシルさんに落ち着くよう促される。

 言われたとおり深呼吸をして何とか考えをまとめようとするが、どうにもまとまらない。

 するとセシルさんの方から会話を切り出してくれた。


「そうだね、わたしから質問させてもらうからそれに答えてくれるかい?」

「あ、はい・・・。」


 俺は素直に頷いた。上手くまとめて話せそうにないのでありがたい。


「それじゃ、まず君はどうやってこの世界に来たのかな?」

「え、と・・・その、気がついたら来ていたといいますか・・・たぶん召喚されてきたんじゃないかな、と」

「召喚された?」


 セシルさんは召喚という言葉に反応してきた。


「召喚されたと思っているみたいだけど、それはどうして?」

「その、この世界に来たときに最初に立ってたっぽい所に魔方陣があったので・・・。」

「魔方陣・・・。」


 セシルさんは腕を組んで考え込んでしまう。

 何なんだろう。召喚っていうのは違うのか?


「あの・・・召喚ってのは俺の予想でしかないんで、ありえなかったらスミマセン。」

「ん?ああ、いや違うちがう。ありえなくはない・・・とは思う。」


 どうも歯切れの悪い感じだ。

 ありえなくは無いが、そうそうある事でもないってことか。


「それで召喚されたかもしれない、そんな君が何で奴隷になんてされて売られてたんだい?」


 次の質問をしてくれる。

 というか今更だけど、やっぱ奴隷で間違ってなかったんだな。

 

「俺が召喚されて、お世話になってた村が6人組の男達に襲われて、それで・・・・・・。」

「なるほど、その時に運悪く捕まった中に含まれてたと。」

「いえ・・・村人全員が殺されるか、捕まりました・・・・・・。」

「え?その6人は村を滅ぼしたのか?」

「はい・・・・・・。」


 村人が殺された瞬間、血溜りと死体と臓物、それらがフラッシュバックの様に脳裏に浮かびあがり、俺は吐きそうになってしまう。それを右手で口を押さえ、何とか堪える。


「無理せず1回吐いてきたら?」


 セシルさんに心配されてしまい、俺は大人しくトイレへと向かう事にする。

 今までも何度か思い出しては吐気と恐怖心に悩まされていた。情けない・・・。

 

「あ、トイレ行ってる間にちょっと着替えるから、戻ってくる前に声かけてくれるかな。」


 部屋を出る直前にそんな言葉をかけられる。

 口を押さえたまま頷いて俺はトイレへと向かう。

 なんか、セシルさんは結構マイペースなところがある様だった。

 

 吐くものも吐いたので一言声をかけてトイレから戻ると、セシルさんはドレス姿から長ズボンに長袖のシャツ、裸足に宿屋の備え付けサンダルという、簡素な格好になっていた。

 脱いだドレスがベッドに無造作に投げ出されている。


「いやー、やっぱりドレスは苦手だなぁ。窮屈だし動きにくし、ダメだね。」


 どうやらセシルさんはドレスは嫌いなようだった。


「すごく似合ってて綺麗でしたけど、ドレス嫌いなんですか?」

「ありがとう。君は中々口が上手いね。ま、嫌いと言うほどじゃないけど、苦手かな。」

「ならどうして着てたんですか?」

 

 俺はそう質問してみたが


「ちょっと野暮用で。まぁそれよりガゼル君の話の続きをしよう。」


と曖昧にしか答えてもらえなかった。

 ただ、俺はドレス着用の理由よりも気になった、いや気になっていた事を聞いてみる。


「あの、その『ガゼル』てのは俺の名前ですか?」


 そう、最初会った時からセシルさんは俺を『ガゼル君』と呼んでいた。

 何だかんだで俺はまだ名乗れて無いし、そう呼ぶのは奴隷として俺を買ったのでそう名付けたという事だろうか。

 その質問に対して、セシルさんは目を見開き驚いた様子だった。なぜ?


「あれ?君の名前は『ガゼル』じゃないのかい?」


 なにか確信を持って俺をガゼルと呼んでいたらしい。

 奴隷にされた時に商品名としてつけられてたんだろうか?


「違いますよ。俺は『タカヤマ カズキ』って名前です。『ガゼル』なんて名前じゃない。」

「いやでも・・・うーん・・・・・・。」


 セシルさんはどうも納得できないようだ。なんでだ?

 自分で名乗ってるんだから間違ってるわけ無いし、ウソついてると思われてる?


「上手く説明できそうに無いし、やってもらったほうが手っ取り早いか。

 それじゃカズキ君、目を閉じて『ステータス』って念じてみてくれるかな。」

「は?」


 いきなり何を言い出すんだ?ステータスってゲームかよ。

 なんて思っていると『いいからやってみて。』と催促されたのでとりあえずやってみる事にする。

(ステータス、ステータス・・・。てか念じるってどうやるんだよ。ステータスって強く思うとか?

 イマイチわからん・・・。えー・・・ステータス!)

 と、心の中で大声を出すイメージでステータスと思い浮かべてみる。

 すると閉じられたまぶたの裏、真っ暗な目の前に白い文字が浮かびあがる。

 俺はビックリして目を開いてしまった。

 文字は見えなくなっていた。


「出来たみたいだね。それじゃもう一度、今度はしっかり自分のステータスを確認してみて。」

「な、何なんですかこれは!?」


 すこし取り乱し気味にたずねるも「さあ?」と返されてしまう。


「この世界では出来ることって風にだけ考えて。深く考えたってどうせわからないんだし、便利な機能だか能力ぐらいの認識でいいと思うよ。」


 なんて気楽に言ってくれる。知らぬ間に開発されたVRゲームとか言われたほうがまだ納得できそうだ。

 とにかく、俺はさっきの手順をもう一度行う。


(目を閉じて、『ステータス』と・・・。)


 真っ暗な目の前にまたも白い文字が浮かび上がった。


【名前:ガゼル 年齢:17 種族:現人神 クラス:奴隷 レベル:1 スキル:なし 経験値:0/200】


 まるでゲームだった。いや、今はそれは置いておこう。

 それよりも、内容が無茶苦茶だ。名前も、種族も・・・・・・。


「なんだ・・・これ・・・・・・。」


 呆然として、ポツリとそんな言葉と共に冷汗が零れ落ちていた。

 俺は、何故か異世界に召喚され、奴隷にされ、気付かないうちに名前も変えられ、さらには人間じゃなくなってました。

 ・・・・・・なんだそれ。

 何でこんな事になってんだ?

 ガゼル?現人神?なんだよそれ、俺はどうかなってしまったのか?それともなにかされてしまったのか?

 そういえばこの世界に来る直前の記憶が曖昧だ。もしかしたら誰かが俺に――・・・


「落ち着いて、カズキ君。」


 セシルさんに名前を呼ばれ、体がビクリッと反応し我に返る。

 手が小刻みに震えている。息が荒くなっていた。

 恐ろしかった。知らない間に自分が、人間以外の何かに変えられてしまったのではないかという想像が、不安という形で体を蝕んでいく。

 震える俺にセシルさんが話しかけてくる。


「まずは深呼吸するんだ。落ち着いて。」

「でも・・・俺・・・。」

「大丈夫、わたしから見て君に異常は見当らない。異常があればわたしには分かるから。」

「分かるって・・・どういう・・・・・・。」

「大丈夫だから。それより君はこれからどうしたい?」


 大丈夫って、一体何が大丈夫なのかさっぱり分からない。

 だって、名前が変わってて、人間じゃなくなってて、いやそもそもこんな表示されてるものが異常であって・・・・・・。


「どうしたんだい?カズキ君、聞こえなかった?」

「あ・・・いえ・・・すみません。これからどうするか、ですよね。」

「そうそう、どうしたい?やっぱり帰りたい?」


 セシルさんは優しげに声をかけてくれる。だけど、本当にこの人を信用していいのか?

 いや、今の俺には信用するしか無いのだけれど、それでも・・・。

 ダメだ、今は思考を切り替えよう。考えても仕方が無い。

 聞かれているのは帰りたいかどうか。それは当然帰りたい。帰ることが出来るのなら今すぐにでも。

 でも・・・。


「帰りたいです。でも・・・。」

「でも、帰り方が分からない、かな。それじゃ、まずはそれの手掛かりを探そうか。」


 セシルさんはさも当然と言わんばかりに、あっさりとそう言う。

 言うのは簡単だけど、異世界へ帰るための手掛かりなんてそうそう有る物とは思えない。


「そんな簡単に言われても、手掛かりなんてそうそう有る訳ないんじゃ・・・。」

「いや、有るじゃないか。少なくとも一つはまだ残ってるはずだよ。」


 まるでその手掛かりは俺も知ってるはずだという感じでそう言ってくる。

 なんだろう、残っている手掛かり?

 俺が帰る為の手掛かりになりそうなのって・・・そうか!


「あの赤毛の女の子か。」

「え?赤毛の女の子?」


 自信満々に答えたつもりが外れてたらしい。

 あれ?でも俺を召喚したっぽいあの子が一番手掛かりだと思ったんだけど違うのだろうか?


「わたしは君の話してた魔法陣の事を言いたかったんだけど、その赤毛の女の子ってのは誰なんだい?」


 魔方陣の事だったのか。

 そうか、考えてみれば俺はセシルさんにあの子の事は話してなかった。

 

「えーと・・・多分なんですけど、俺を召喚したのがその赤い髪をした女の子で、俺と一緒に捕まって奴隷にされてたはずなんです。だからその子に会って話を聞ければと・・・。」


 俺が簡潔にそう説明すると、セシルさんは『なるほど』と言って腕を組くむ。

 

「確かに魔方陣よりはその子と話す方がよさそうだね。それに村のあった場所を調べる手間も省ける。

 よし、それじゃ先ずはその女の子を確保しようか。今どこに居るか分かるかい?」

「え?あ・・・いえ・・・。」


 女の子とはあの屋敷について別れてから会っていない。

 俺がこうやって売られているのだからあの子も誰かに買われ、売られたのだろうか。

 いい人に買われていれば、探して話を聞くぐらいは出来るかもしれない。いや、それは楽観過ぎるか。


「んー・・・その子は人間なんだよね?」

「え、あ、はい。多分人間だと思いますけど・・・。」

「かわいい?」

「まぁ、可愛かったですけど・・・なんでそんな事を?」

「何歳?」

「さぁ・・・分かりません。多分俺より年下っぽかったから15歳前後ぐらいかも・・・て、だから何で・・・?」


 そう訊ねるもセシルさんは何かを考えているようで返事してくれない。

 なんだろう、可愛かったとか年齢とか・・・買ってそうな人にアタリをつけてるんだろうか?

 もしかしたら意外と顔が広いのかも知れない。そんな少し失礼な事を考えている間に考えが纏まったらしく、セシルさんは『よし』と言って顔を上げた。


「それじゃ、今から出かけようか。カズキ君。」


 セシルさんは立ち上がり身支度をし始める。

 いや、ちょっと待って。


「え?いや、待ってください。いきなり何を・・・。」

「多分その子はまだ売られてないはずだから、もう一度、奴隷商館へ行こう。

 ついでに君の言葉が分からないのも何とかするから。」

「・・・・・・は?」


 なんで売られてないとか分かるんだ?いや、それもだけど、言葉って・・・そんな簡単に何とかできるもんなんだろうか・・・?

 もしかしてアレか、言葉を自動で翻訳してくれるマジックアイテムとかそういうのがあるのだろうか。

 そう考えていると『あ、そうそう、忘れてた』と忘れ物を取るようにセシルさんは荷物から小さなナイフを取り出し、俺の前まで近づいてきた。

 刃物を持って前に立たれ、俺は体が硬直する。ナイフで何をされるのだろうか。


「カズキ君、わたしは冒険者なんだ。依頼を受けてモンスターを狩ったり、ダンジョンを攻略したりしてこの世界で生計を立ててる。

 わたしはね、冒険の仲間として君を買ったんだ。」

「仲間・・・ですか・・・。」


 だとしたらこの首輪は外してもらえるかもしれない。

 仲間というんだし奴隷から解放して貰えるかも。


「そう。いわゆるパーティメンバーだね。

 さて、ここからが本題なんだけど・・・わたしは君が元の世界に帰る為に出来る限り協力する。その代わり君には、帰るその日までパーティメンバーとして戦って欲しい。」

「戦うって・・・俺、喧嘩とかほとんどしたこと無いですし戦うなんて出来ないですよ・・・。」

「当然最初から最前線に、なんて事は無いよ。それは訓練してレベルを上げて強くなってからだ。」

「でも・・・・・・。」


 ハッキリ言って怖かった。

 あの村での事が無ければ二つ返事で了承してたかも知れないが、あんな生々しい人の死を見てしまった後では無理だ。

 モンスターと戦うと言っていた。

 戦うって事は危険に自ら飛び込むようなものだ。

 できれば、そんな事はしたくなかった。


(・・・しかし、もしコレを断ったら彼女が俺をどうするかわからない。

 さっき取り出したナイフは何なんだろう?まさかとは思うけど、断ったら殺すって事か?

 だったらこの提案は受けるしかないけど・・・。)


 そう思い悩んでいると、彼女は溜め息をついて苦笑いをした。


「・・・ま、いきなり戦って欲しいなんて言われても困るよね。

 しばらくはわたしの奴隷として一緒に行動するだろうから、その間に考えて答えをだしてくれたらいいよ。

 それと、断ったからって殺したり売り飛ばしたりはしないから、そこは安心していいから。」

「・・・・・・はい・・・。」

 

 結局、答えを出せない俺にセシルさんから助け舟が出され、返事は先延ばしとなった。

 そのかわり、俺は彼女の奴隷として働かないといけないのだけど。 


 セシルさんが自分の左手親指にナイフの先をほんの少しだけ突き刺した。

 指された場所から血が出て小さな玉になる。彼女はそれを俺の首輪に押し付けた。

 すると首輪が淡く光り、固まった血を連想させるようなどす黒い赤い色へと変色した。


「これで正式にわたしが君の所有者として登録されたから、よろしくね。」

「あ、はい・・・。」


 これで俺は正式に彼女の奴隷になったらしい。


「どうせ逃げる所も無いんですし、しっかり働くから首輪を外して欲しいんですけど・・・。」

「申し訳ないけど、しばらくはその首輪は着けててもらいたいかな。」


 訴えてみたがダメらしい。そりゃそうか。


「さて、話も終わったし街へ行こうか。」


 ナイフを鞘に入れて腰に下げると、彼女は手を差出してきた。

 俺はその手を掴み立ち上がる。

 セシルさんに手を引かれ、そのまま部屋を出て街へと繰り出した。

 初めての、異世界の街へ。


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