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異世界冒険譚(仮)  作者: 網田 賢一郎
3/11

3 異世界人は奴隷となった

 俺と生き残った村人達は山賊達に連れられ、まだ暗い森の中を進まされていた。両手を縛られ、首を縄で繋がれ一列に並び歩かされる。

 俺は俯き、前の人の足を見ながら重い足を動かし続けていた。

 周りの目が怖かった。言葉が通じなくても、雰囲気で感じ取れてしまう。

 遺された村人達の悲しみと怒りが俺に向けられている。

 時折聞こえる村人の声が『役立たず』と『無能』と、そう俺を非難している気がした。

 今になって分った。

 高齢化が進んでいるなんて事はない、若い村人はこの山賊の人攫いに遭っていたのだ。そして俺は、それを解決する為に召喚されたという訳だ。


(―――ふざけてる。

 人選ミスだろ、何で俺なんか召喚してるんだよ。ただの学生で、何の力も無いのに人攫いを解決なんて出来る訳無いだろうが。これじゃただ犠牲者が増えただけだろ。

 何も出来ない俺を頼って、何も出来なかったからと恨んで、そんなの勝手すぎるだろ。)

 

 村人の怒りを受けた俺は、村人へ怒りを返していた。

 そうして怒りで、恐怖と不安をなんとかごまかしていた。そうしないと、泣いて、動けなくなってしまいそうだった。

 それはマズイ。

 今ここで泣き出して立ち止まってしまえば、俺はきっと殺されてしまう。

 事実、殺された村人に縋り付き泣いて動こうとしなかった村人が1人が殺されていた。

 

(死にたくない。こんな訳の分からない所で、理不尽に殺されてたまるか・・・!)


 俺はされるがまま、ただひたすら足を動かし続けた。




  

 ようやく日が昇り始めた頃、山賊達の目的地に着いた。

 森の中、少し開けた場所に数台の馬車が停まっている。馬車は木の箱型になっており、外と中を隔てる構造になっていた。

 鎧を装備し武装した者達と見るからに高級そうな服を着た貴族風で鋭い眼つきの髭を生やした男が山賊達の取引相手のようだった。

 これから俺と村人達はこの髭の男に売られるのだろう。

 髭の男は村人1人1人に、木の板を押し当てて隣に控えさせている兵士に何かを喋り、帳面に記帳させていた。あれは何をしているんだ?

 すこし・・・いやかなり気になったが、俺にそれを知る術は無かった。


 1人、また1人と髭の男の前に連れて行かれ、そのまま馬車の中へ押し込まれていく。しばらくして、俺の番が来た。山賊に首の縄を引かれ、無理矢理移動させられる。

 髭の男は俺を見て、少し驚いた顔をして俺の掴み顔の向きを変えながら観察してきた。気持ち悪いのですぐに止めて欲しい。

 俺の気持ちが伝わった、と言う訳ではないだろうけど、俺の顔はすぐに解放され、木の板を額に当てられる。

 髭の男がまた何か驚いたような表情をした。いったい何なんだ?

 俺の疑問は解消される事は無く、兵士によって馬車へと押し込まれ、その俺を待っていたのは先に入れられていた村人達だった。据わった眼つきで睨んでくる。

 馬車の中は簡素で本当に木の箱の中といった作りになっていた。

 出来るだけ距離を取って座ろうとしたが馬車の中は狭く、それを許してくれない。俺は膝を抱えて座って俯き、村人達と目を合わせないようにするしかなかった。


 しばらくして全員乗せ終わった馬車は動き出し、俺達はどこかへ運ばれる。

 村人は、また何人か減っていた。

 馬車は数台あったので別々に乗せられただけかもしれないが、俺が中に入ってから何度か外から悲鳴が聞こえていたし、きっと殺されてしまったのだろう。

 また、ぼそぼそと村人の声が聞こえはじめる。

 やはり罵倒されているのだろうか。


(俺が責められる謂れなんて無いはずなのに・・・いや、もしかしたら自意識過剰なのか?)


 そんな希望をもってチラリと少し顔を上げて村人達の様子を盗み見る。

 当然すぐに気付かれ、睨まれてしまう。俺はすぐに視線を戻す。


(・・・・・・やっぱり恨まれてるとしか思えない。)


 突如、1人の村人が俺の肩を掴んできた。何かを俺に怒鳴っているようだ。言葉はやはり分らない。

 掴まれた肩を揺さ振られ、その様子につられてか他の村人まで集まり始める。


「ちょっ・・・やめっ・・・て。」


 逃れようと動き出した時には既に手遅れになっていた。ただでさえ狭い馬車の中で、複数の村人達に囲まれてしまっている。

 肩を掴まれ、服を、髪を掴まれた。そして、1人が机を叩きつける時の様に、拳を握り俺に叩きつけてきた。

 後は集まった時と同じ様に周りに広がり、俺はただ小さくなってその暴力に耐えることしか出来ない。

 

(――なんで、なんなんだよ!俺が何をしたって言うんだよ!)


 理不尽だ。俺が殴られなきゃいけない理由なんて無いはずだ。俺は何も悪くない!


「■■■■」


 突然大きな声が聞こえて、村人達の手がとまる。赤毛の少女が立ち上がっていた。

 少女は村人達に何かを訴えていた。内容は分らないけど、村人達が今手を止めているのだからきっと俺をこの暴力から助けようとしてくれてるのだろう。

 だが、村人達は怒気を発し、行動を再開する。少女にも数人の村人が向かい、俺と同じ様に服を、髪を引っ張られ暴力を振るわれる。

 それなのに、少女はされるがままで抵抗の意思が見られなかった。

 なんだ?いったい何がどうなってるんだ!?


(畜生っ・・・。言葉が分らないと本当に何もかもが分らないじゃないか・・・!)


 今どういう状況で、何故こうなっているとか、俺は想像するしかないのだ。

 なぜ俺がこんなところにいるのか。なぜ俺が捕まったのか。なぜ俺が責められるのか。なぜ少女まで責められているのか。

 何一つ、真実は分らない。

 

 バンッと大きな音を立て馬車の扉が開いた。

 兵士が2人、険しい表情で中に入ってくる。

 怒鳴り声を上げ、俺と少女に集まっていた村人を引き剥がして俺と少女を村人から助けてくれた。

 いや、助けてくれたというわけでは無いのかもしれない。買取った商品に傷がつかないようにしただけ。俺も少女も、買取られた商品の一つなのだから。

 村人達を下がらせた兵士に連れられ俺と少女は別の馬車へと移される。

 ――正直、ホッとしてしまっていた。

 事態は何も解決していないのに、俺はただあの暴力から抜け出せただけで少し安心してしまった。

 ―――しかし、そんなものはすぐに消え去る事になる。

 移動した先の馬車には子供ばかりが乗せられていた。

 男の子、女の子、まだ10歳にもならない様な子供達まで買われてここに居る。

 すすり泣く子供、虚ろな目をした子供、膝を抱えてうずくまる子供。

 その中には村に居た子供2人も居り、涙を溜めた瞳で俺を睨んでくる。

 目を逸らし、壁側を向いて座り膝を抱え俯く。

 もう、俺は限界だった。

―村人達から受けた暴力の恐怖で、怒りはもう霧散してしまった。

―この状況をどうすることも出来ない。出来ることはなにも無い。無力感が俺を苛む。

―これからどうなってしまうのか、何も分らない。何をされるのか、させられるのか、悪い想像ばかり浮かんでは消えていく。不安は募るばかりだ。

―もう家には帰れ無い、帰れる気がしない。両親にも、友人にも会うことは二度と無く、俺の日常はもう二度と戻らない。喪失感が胸を締め付ける。


「うっ・・・うぐ・・・。」


 涙が溢れて止められなかった。

 俺は情けなく、声を押し殺し泣いた。





 目的地に着いたのか馬車が停止し、扉が開かれ兵士が降りるよう促してくる。

 外に出ると既に夜になっていた。

 周りを見渡すと、大きな建物に囲まれているのがわかる。どうやら屋敷の中庭らしき所の様だ。

 暗いのでハッキリは見えないが3階建くらいだろうか?けっこう大きい。

 屋敷を見上げていると兵士が目の前にやってきて何かを言って地面を指差した。


(座れってことか?)


 逆らう事は出来ないので、素直に地面に座る。すると頭をつかまれ下を向かされた。

 一体何なのかと思っていると首にガシャンと重い音をたて、首輪が着けられる。

 分厚い金属製の首輪が俺の首に着けられ、鍵がかけられていた。

 他の人達も同じ様に次々と首輪を着けられていく。赤毛の少女にも、子供達も例外は無かった。

 全員に首輪を着け終えると兵士達はそれぞれの首輪に縄をつけていく。後は山賊の時と同じだった。

 縄を引かれ、一列に並んで歩く。

 屋敷の中へ入り、少しした所にあった分かれ道で数人が別の道へと進まされ人数が減った。

 しばらく進むとまた同じ様に分かれ道で数人が居なくなる。

 そして次の分かれ道では俺だけが分かれ道で、他の人と別の方へと連れて行かれた。

 兵士に連れられ、薄暗い廊下を少し歩いた所で、どうやら目的の場所に着いたようだった。

 重苦しい印象の分厚い木製の扉が開かれ、その部屋の中に入れられる。

 部屋の中は豪華では無いがベッドと小さな机と椅子、机の上には蝋燭が乗せられている。簡素な造りで、この世界のビジネスホテルと言われれば、『なるほど』と納得できそうな造りだった。

 兵士が籠を渡してくる。中にはボロくなっている布で出来た貧相な服上下が入っていた。

 何かを言ってきたが、俺が言葉を理解できていないのを察すると服を脱ぐジェスチャーをしてくる。


(これに着替えろってことか。)


 俺は着ていた制服を脱ぎ、籠の中の服に着替える。妙にゴワゴワしていて着心地が悪い。

 さらに脱いだ服を籠に入れるよう指を指され、そのようにする。

 兵士は制服の入った籠を持って部屋を出て行った。扉は閉められ、最後にガシャリと鍵がかけられる。

 1人部屋に残され、俺は一通り部屋をチェックする事にした。と言っても部屋は狭く、すぐに見るところは無くなったので、とりあえず一息つこうとベッドに座り込んだ。


(これからどうなるんだろう・・・。この屋敷の下働きとして買われたのだろうか?いや、首輪やこの渡された服の感じだと下働きというより、奴隷か。

 ただ、奴隷ならこの部屋は少し扱いがいいようにも思えるな。

 漫画やゲームだと、奴隷は大勢の人達と一緒に大して広くも無い部屋に押し込まれそうなイメージだ。もちろんベッドなんて無くワラが敷かれているだけで。)


 そんなのと比べれば、この場所は少し狭いがベッドに机に椅子、鉄格子がつけられているが窓もあり、トイレの小部屋も設置されていた。

 待遇の良い奴隷という扱いなのだろうか?


「はぁ・・・。」


 ため息がでる。馬車で泣いて少し落ち着いたが、だからといってこの陰鬱な気分が晴れる事は無いし、事態が好転する様なアイデアが浮かぶことも無い。それどころか、首に着けられた物の重みはさらに気持ちを落としていく。

 俺はベッドに横になる。


(もう寝よう。どうせ出来る事なんて何も無い。)


 こうして、俺は異世界に来てからの5日目を終える。

―――奴隷にされたという結果を残して。



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