11 奴隷少年は下手をうつ
「いらっしゃい!・・・ってあれ?セシルさん、どうしたんですか?」
店へと入ると、小さい女の子がカウンター越しに元気よく声を上げた。
背は低く、10歳前後ぐらいに見える。ピンク色の髪を後ろで三つ編みにしてまとめてあり、頭にはバンダナが巻かれていた。厚手の革のエプロンと手袋をしており、いかにも『鍛冶屋です』といった格好だった。
(こんな小さな子が店主・・・な訳はないか。店番だろうなきっと。)
そんな事を考えながら店内を見回す。
壁には剣や斧、槍がかけられ、並べられていた。反対側を見ると盾や鎧等の防具が陳列されているのが見える。
「悪いんですけど、ご注文の品はまだですよ。お父さんも色々試してるみたいなんですけど、なかなか上手くいかないみたいで。」
「いや、今日はその件じゃないんだ。連れの武器防具を見繕って欲しくてね。」
「お連れさんの?」
「そうだ。」
少女は訝しげに俺の顔を見てくる。「んん~~。」と少し声を出した後、カウンターからこちら側へと移動し、俺に近づいてきて無遠慮に体をペタペタと触ってきた。
いきなりの事に驚いたが、少女はそんな俺を無視してセシルさんに話しかけていた。
「こんなひ弱な奴隷なんかに武器を持たせるんですか?」
「な・・・。」
いきなりなんだこの子は、失礼な。・・・まぁ確かにひ弱で間違ってないけどさ。
「その通りだけど、まあいいじゃないか。わたしの趣味だよ。」
「こっちは御代さえ頂ければかまいませんけど・・・それじゃ、防具は軽めの革で武器は片手斧か片手槌あたりでいいですか?」
「いや、できれば剣を、そうだな・・・ショートソードを見繕ってくれ。」
俺をよそに二人は会話を進める。
セシルさん、フォロー無しですか・・・てか武器防具に関して俺の意見は聞かれないんですかね?いや、さして詳しくなんて無いから別に良いけど、ちょっと寂しいというか・・・・・・。
「ええ~?この奴隷が使うんなら剣はオススメできないですよ。まさか剣術スキル持ちなんてことは・・・ないですよね?」
「ああ。正直、剣の才能は無いんじゃないかと思ってる。」
「ちょ、さっきから酷いですよ、セシルさん。」
なんでこんなボロクソに言われなきゃならんのだ。
朝の事があるから剣の才能に関しては反論できないけども。
「それならやっぱり斧とかのほうがスキル無くても安定して使えますよ?」
「確かにそうだけど、その辺も趣味って事で頼むよ。」
「わかりました。それじゃ少しお待ちくださいね。」
少女はそう言って店の奥へと姿を消した。それにあわせるようにセシルさんが側へと近づいてきて
「カズキ君、出来れば余計な事は言わないよう・・・いや、この店に居る間はちょっと黙っててくれ。」
いきなりの黙ってろ宣言である。
さっきから酷くないか?いや、あれか?店主が気難しいとか言ってたから、余計な事はするなって事か。あれ?でもあの子が店主ってことないよな?
「でもセシルさん――。」
「いいから、黙ってるんだ。」
ろくに説明も無く黙っていろと言われて少しカチンときた。
「店主さんが気難しいってのは聞きましたけど、あんな店番のガキにまで気をつけなきゃいけないってことは無いんじゃないですか?」
なので少し嫌味っぽく言い返してやる。『心まで奴隷になった訳じゃない』というアピールも含めて。
セシルさんを怒らせるかもというのは少し思ったが、俺だって自分を悪く言われたりして少し頭にきているのだ。
しかし、セシルさんは怒るよりも慌てた様子で、
「バカ、それは・・・。」
と口にし、次の瞬間何かに気付いて視線を移動させる。
視線の先にはちょうど剣と防具を持って少女が店の奥から戻ってきたところだった。
背が低い上、うつむいているので表情が読み取れない。
そのまま、黙ったまま少女はカウンターまで移動し、俺もセシルさんもその様子を静かに窺う。
ガシャリ、と荷物がカウンター横に置かれる音が店に響く。
少女はゆっくりと俺へ近づいて来て、セシルさんの「待て・・・」という声が聞こえた次の瞬間、胸倉をつかまれ物凄い力で体を引っ張られてカウンターへと上半身を叩きつけられる。額を打ちつけ、そのまま頭を押さえつけられた。
「奴隷風情が私をガキ扱いとは良い度胸してるじゃないですか。セシルさん、すこし痛めつけても?」
「こ・・・んの・・・・・・。」
いきなり暴力を振るわれ、カッとなった俺は『クソガキが!』と怒鳴って顔を上げようと思った。だが、その外見からは信じられないような力で、どれだけ力を込めても押えられた体はビクともしない。
両手も使って力を込めるが、やはり結果は同じだった。
頭に上っていた血が一気に下がっていく。
「いや、怪我をされると困る。すまない、わたしの躾が足りなかった。許してやってくれないか?」
セシルさんの助け舟に心の中でガッツポーズ。その後土下座での感謝を示す。あくまで心の中で、だが。
多分こうなったのは俺に失言があったんだろう。ただ、だからと言っていきなりのこの暴力には納得はできない。だが、けれど、この俺を押さえつけているこの怪力で振るわれる『すこし痛めつける』行為を受けるのはごめんこうむる。
『躾け』と動物か何かの様に言われたのは悲しいけれど・・・。
「・・・・・・わかりました。今回だけですよ・・・。」
少女は少し不満そうにしながらも引き下がってくれたようだ。
助かった・・・・・・正直、腕や指を折られるんじゃないかとすら考えていただけにその思いは強い。
心まで奴隷うんぬんの反抗心はポッキリ折られてしまったが・・・・・・。
いや、だってね?あんな万力みたいな力で頭掴まれたら恐怖心で一杯になってしまうって・・・。
冗談ではなく、マジな身の危機を前に意地を張り通すなんてできない。
俺はホッと胸をなでおろし、解放された体を起こすと今度はセシルさんに引っ張られた。
そのまま首に腕を回されガッシリ肩を組まされる。
「だから黙ってろって言っただろう。彼女がこの店の店主なんだ。ドワーフだから背が低いけど立派に成人している。まだ若いから幼く見えるかも知れないけど、奴隷の君がそれを揶揄して良いわけが無いだろう。
君は一応わたしの所持品って事になってるけど、それでも庇えるのに限度があるからね。気をつけないとほんとに死ぬよ?」
「は、はい。わかりました・・・。」
少しキツメに注意される。死ぬ・・・なんてのは流石にオーバーに言っているだけだろうけど、リンチされたりはありそうだ。
下手な発言はしない。そう、心に誓った。




