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異世界冒険譚(仮)  作者: 網田 賢一郎
1/11

1 始まりは森の小屋

 カタンっと、何かの音が鳴った。

 その音でビクリと体を震わせ、ハッと目を見開く。

 どうやら、学校からの帰宅途中に一瞬意識が飛んでしまったらしい。

 歩いているのに居眠りなどしないだろうし、貧血だろうか・・・。

 ・・・・・・と言うか、住宅地を歩いていたはずが、目には全く知らない木の部屋が映っている。

 白昼夢か?とも思ったが、木材の香りまでしている。

 俺は、先程まで外を歩いていたはずなのだが、気がつけばどこかの部屋の中で立ち尽くしていた。

 いや、意味がわからん。何でだよ?

 

 とりあえず、改めて辺りをキョロキョロと見渡す。

 床は木の板で出来ていた。壁も木の板だと思われる。窓は無さそうだ。

 明かりは、火鉢のような筒が置かれてそこに火が点けられており、パチパチと焚き火の様な音がしている。これだけだからか、室内は暗い。さっきの音は燃える薪の音だったのだろうか。

 てか窓も無いのに室内で火とか危ないだろ。換気とかどうなってるんだと思い上の方に視線を向けると、天井付近の壁に小窓があった。

 なるほどと視線を戻す。見た感じ狭くは無いが、それ程広くもなさそうだ。

 そして・・・目の前に女の子がいる。暗くてよく見えないが、赤いロングヘアーで結構カワイイ気がする。どうやら驚いて固まってしまっているようだけど、驚いてるのは俺も同じだ。

 ホント一体全体何が起こった?

 疑問は尽きないし増える一方だけど、一先ず、目の前の女の子に話しかけてみよう。


「あの、すみません。」


 まずは無難な言葉でコミュニケーションを図る。


「■■■■」


 残念ながらなんて言ったのか、まったく聞き取れなかった。今も話しかけてくれてるんだけど、全くわからない。聞いた事もない発音の言葉だ。

 こんな訳の分からない事態で、何か知っているかもしれない人間と会話出来ないなんて・・・ホントどうしたら良いのか。 

 そんな風に悩んでいると女の子は慌てた様子で一礼すると、背を見せて出て行ってしまった。出入り口に扉は無く、布の様なもので仕切ってあるだけの構造で、女の子が出て行く時に少しだけ外が見えた。と言っても、それで分かったのは部屋の外も暗いという事だけ。

 小窓からも光は見られないし、今は夜なのだろう。

 このまま動かない方がいいのか、女の子を追いかけるべきか・・・・・・俺は少し迷ったが、女の子を追って小屋から出ることにした。

 一切合切なにも解らない状態で、1人薄暗い部屋に居続けることが怖かったからだ。

 布の仕切りを開けてゆっくりと注意して外へ出る。

 小屋は高い所にあり、すぐ足元に木製のハシゴを見つけた。


(危ない構造だなぁ。周り確認しながら出てよかった。足元を見ずに進んでたら落ちてたかもしれない。

 高床式っていうのだっけコレ。手すりとか柵とか何もないし危ないな、結構高いし。)

 

 周りを見渡すと月明かりに照らされ、辛うじて大小様々な木々と、大木の枝の上に作られている数件の家や小屋らしき物が確認できた。土と木の香りが鼻腔をくすぐる。

 足元に気をつけながら下を覗き込むと、ここの住人らしき人達が松明を持って集まっていた。その中にさっきの女の子を見つける。

 すこし遠いが、松明の明りに照らされている彼女の真紅の髪が特徴的過ぎて一目瞭然だ。

 俺の視線に気付いたのか女の子がこちらを向き、周りの人達もつられる様にこっちを見た。大勢の人からの視線にちょっとびっくりする。

 

(なんだ?なんで見られてるんだ?)


 そこまで考えて、部屋の中での状況を思い出す。

 今は夜。部屋には女の子が1人。そしてそこに突然現れたであろう男の俺。

 

(・・・もしかして、マズイ事になってる?あれか、俺は今女の子の部屋に侵入した変質者と言うことになってるのか?

 いや、確かに事実女の子の部屋に侵入したのかもしれないけど、俺の意志では無いしむしろ俺もなんでこんな所にいるのかわからないわけでして、ちゃんと説明すればきっと誤解だと、変質者じゃないと判ってくれるはず。

 あ、いや、そうだ、言葉通じないじゃん。終わった・・・。)


 自分の現状に軽く絶望しかけていると、こっちを見ていた人たちが次々と膝をついて頭を下げて祈りはじめた。


――なにこれ。


 訳が分から無すぎて、ほんと何一つわかるものなんて無くて、いいかげん目眩がしてきた。気持ちが悪い。

 俺は逃げるように小屋の中へと戻る。薄暗い部屋が目に入る。さっきと変わらず何もなかった。膝が震え、上手く立っていられず、床に力なく座り込む。

 ここは何所なんだろう。言葉が通じなかったし、きっと外国だと思う。小屋の外には木が生い茂っており、どう見ても森で、全く見覚えが無い。


「そうだ、携帯、GPS。」


 スマホで位置情報を確認すればいいと思い当たりポケットに手を入れる。しかしポケットは空っぽで何も無い。確か財布も携帯もポケットに突っ込んであったはずなのだが無くなっている。


「お、落としたのか?」


 床を這うようにして財布と携帯を探す。が、そう広くないこの場所に落ちていないということはすぐにわかった。

 かわりに、視線が低くなったおかげか床に何か黒い筋を見つけた。

 よく見てみるとそれは規則的に描かれ、文字と思われる形が羅列されていた。


「これ・・・魔方陣?」


 そう、床には魔方陣が描かれていた。魔法の儀式や悪魔の召喚なんかを行う時に描く物だ。

 中学生の頃に何度か紙に書いてみたりしてたなぁ。・・・痛々しい思い出だ。


「■■■■」

「うぉあっ!」


 背後から声をかけられてビックリして変な声を上げてしまった。声をかけてきたのはさっきの女の子だ。

 何時の間に俺の背後に回ったんだ?と思ったけど、考えてみれば魔方陣に気をとられて出入り口に背を向ける格好になってただけだった。アホだ俺。


「えーと、俺は怪しい者じゃなくて、その、えー・・・アイム、ジャパニーズ。」


 とりあえず英語で日本人だと訴えてみる。日本人がジャパニーズだったか自信ないけど。

 女の子が返事をしてくれるけど、やっぱり何も分らない。たぶん英語じゃないと思う。

 どうやらこの子も言葉が通じない事を察して、どうして良いのか分からないのか困った顔をしている。

 彼女は変わった服装をしていた。ズボンを履いてるみたいなのに上は和服の様な物を着ており大きなビーズを連ねた感じのネックレスを三つもつけてる。似た様なアクセサリーを他にも沢山身に着けていた。よく見ないと分らなかったがその可愛らしい顔にも何やら模様が描かれているようだった。なんだか神秘的な感じがした。少女の可愛さと綺麗な真紅の髪がさらに神聖さを増していた。

 それらを見て、有り得ない発想をしてしまう。俺は、もしかしてこの少女に召喚された?


・・・・・・いや、いやいやいやいや!ない!それは無い!無いはずだ。ありえない。

 俺は頭を振る。落ち着くんだ、俺。順を追って思い出して、状況を整理しよう。

 まずは名前、高山和樹タカヤマカズキ17歳。高校生。

 うん、大丈夫だ。自分のことはしっかり覚えている。次は、ここにくる直前まで何をしていたのかだ。

 確か、俺は家に帰る途中で住宅地を歩いていて、そして・・・・・・気がついた時にはこの場所にいた。

 目の前にはこの女の子がいて、なんか物々しいというかゴチャゴチャした民族衣装風の服を着て意味有り気な化粧をしている。そして、もう移動してしまっているけどたぶん俺が気がついたとき立ってたのはこの魔方陣らしきモノの上だった。

 ダメだ。どうしてもファンタジーな方向に思考が向いてしまう。そりゃゲームみたいなファンタジー世界の魔法なんかは大好きだし、夢見たこともあるけど現実にそんな事は起こらない。現実にはありえない。


「そうか、コレは夢だ。」


 そう結論付ける。そう、夢ならこの突拍子の無い事象も納得できるモノだ。

 俺はその場に寝転がる。そう夢なら寝てしまおう。寝てしまえば夢から覚めるハズだ。

 突然の俺の行動に驚いたのか、女の子が何か話しかけているのが聞こえ、時おり体を揺さ振られる。だが俺は目を開けない。

 コレは夢なんだから、俺は早く目を覚まさなければ。

 そう思い、俺は頑なに目を閉じ続けた。



 俺は目を覚ます。小屋の出入り口の布は巻き上げられており外の光が中を照らしていた。

 ここは、昨夜と同じ場所だった。


「なんでだよ・・・。」


 ポツリと、泣き言が漏れていた。いや、わかっていた。夢な訳が無かった。ただ事態を受け入れられず、現実逃避しただけだった。

 俺はこのどこだか分らない森の小屋に居る。それは現実だ。現実だった。そう噛締める様に反芻する。

 とりあえず、ここは何所なんだろう?俺はどうしたら良いのだろうか?

 たぶん昨日の女の子が俺を召喚したんだと思う。

 いや、勝手にそう思ってるだけだけど、人に話したら鼻で笑われそうだけど。

 そう仮定した場合、女の子は俺に何かをして欲しいと考えるべきか。

 ゲームや漫画で何かを召喚するっていうのは、その召喚したモノに何かをして貰うためだ。

 けど俺にできる事なんて限られてる。大した事は出来ない、ただの高校生だ。


『帰る為には魔王を倒し世界を救ってください。』


 なんて無理難題を言われたらどうしよう。ああいや、その前に言葉が通じなかったな。ダメじゃん、詰んでる。

 そもそも気がついたら知らない所に突然立ってるなんて不思議に見舞われたから異世界とか考えてたけど、地球上のどっかかも知れないし。そうだとしても、超常現象に巻き込まれたという感じは残るけど。

 ただまぁ、地球上なら異世界よりは帰還の難易度は低くなりそうだ。

 いやきっと、たぶんね、海外行ったこと無いから分らんけど、そうだといいなぁ。


(どちらにしても現在地も何もわからないし、確認しようにもどうすれば良いのか・・・・・・。)


 これからどうすれば良いのか頭を悩ませていると、昨日の女の子が何かを持って上ってきた。

 女の子はお辞儀してから小屋の中に入ってきた。格好は昨日と変わって簡素な服装で顔の模様も無くなっていた。

 どうやら、ありがたい事に食事を持ってきてくれたようだ。

 内容はビーフジャーキの様な、たぶん干し肉ってやつと何か木の実らしい物のスープが入った木の器、それと見た事のない果物だった。数は多くないけど、それら全部を持ってハシゴ上れるとか凄いな。この小屋は結構高いので、とても俺には出来そうにない。

 女の子はそれらを俺の前に並べてくれる。


「あ、どうもありがとう。」


 そう言って正座し、お辞儀する。昨日なにも食べずに寝たから腹は空いていた。

 ただ・・・並べられた物はどれも見覚えが無い。干し肉は何の肉なんだろう・・・。

 俺はおそるおそる器を持ってスープに口をつける。少し薄味だったけど、それぐらいだった。問題なく食べれると判断しスープと果物を食べてしまう。果物は少し酸っぱかった。干し肉は、怖くて食べれなかった。『こんな状況で、出して貰った食事に文句つけるとか、何様だ』と思わなくは無いが、未知の肉に口をつける勇気と覚悟はまだ無かった。

 食べ終わり、手を合わせてご馳走様と言いお辞儀すると女の子は器を持って降りていった。

 去り際に、俺が手をつけなかった干し肉を女の子が食べていたのが見えた。


 しばらくして女の子が戻ってきた。続いて初老のオッサンとオバサン、体格のイイお兄さんが入ってくる。全員日焼けした健康的な肌をしており、髪が、オッサンとお兄さんが茶髪、オバサンは黒かと思いきやよく見れば深緑で、そして女の子は赤と中々カラフルだった。

 不自然さは感じないが染めているのか、それとももしかして地毛なのか。

 前者なら何か髪染めの風習でもあるのだろうか。

 などと考えていると、全員が俺の前に座り何か話しかけてくる。

 

(いや、だからわかんないんだって。)


 困り果てていると4人が話し合いを始めた。仕方ないのだけれど、疎外感が悲しい。

 すこしして何か決まったのか、4人は立ち上がり俺に向かってお辞儀をして、女の子を残して3人が退出していく。

 少女は、俺に右手を差し出していた。


(これは多分ついて来て欲しいという事だろうな。)

 

 少し躊躇うが、意を決してその手を取り立ち上がった。

 そのまま手を引かれて、小屋の外へと向かう。

 おっかなビックリ、キシキシ音をたてる木製のハシゴで小屋の外、森の大地に降り立ち辺りを見渡す。

 まばらに建てられている高床式の家と小屋。

 見渡す限りの木々。それにさげぎられ、なお眩しい太陽の光。

 改めて全く知らない所に居るのだと感じ、再び軽い目眩を覚えた。


 気がつくと人が集まって来ていた。

 この村の人々だろう。ざっと見て20人前後くらいだろうか。

 その内、小さな子供が2人で、あとはあの女の子、それ以外だとさっきのお兄さんぐらいしか若いと言える人が居ない。後は中年から老人ばかりだ。こんなところでも高齢化が進んでいるのか。

 そしてやはり、髪がカラフル。大体は緑と茶髪、で濃かったり薄かったりと言った感じだった。年配者の人には流石に白髪が見られたけど。

 突然お婆さんが俺に何かを訴えてきた。

 何を言っているのかは分らないが、何かを必死に訴え、そして俺の前で地面に膝をつけて祈りはじめる。周りの人達もつられる様に俺にすがるように祈り始めた。


 (えーと・・・これは、あれか、俺は神様か何かだと思われているのか?)

 

 そうだとしか思えない状態だ。

 これはどうすべきだろうか。クソッ・・・ダメだ、思考が追いつかない。誰かどうすればいいのか模範解答を見せて欲しい。

 俺は心の中で悪態をつきながら、とりあえず力無く微笑みながら、お婆さんの手をとって頷いた。

 そして村人は、何かを訴えては頷き返す俺を見て安堵したような表情になっていく。それは波のように村人全員へと広がった。


――その光景に俺は、選択した行動が間違いだったと感じた。

 これは嘘だ。

 たとえそんなつもりが無かったとしても、俺の行動は村人達には訴えた事に対して「わかった。」と返事をしたようなものだ。

 実際は何もわかっていないし、今でも何をしたら良いのかも不明。

 なのに手を取って頷いてしまった。

 これは嘘をついたに等しい。

 ・・・・・・いや、違う。等しいじゃない。俺は流されるまま、保身の為に嘘をついたんだ。

 まずは断る態度を見せ、言葉を覚えるか意思疎通の手段を手に入れるまで村人の訴えは保留し、しっかりと話を聞いてから返事をすべきだった。

 だが、もう遅い。既に賽は投げてしまっている。

 ・・・仕方が無い。これでよかったと思うことにしよう。

 もし断っていたらこの村から追い出されていたかもしれない。

 元の世界へ帰されるのならいい。だけど森に放り出されたりしたら俺はどうしようもなく、死を待つしかなくなる。

 俺にサバイバル能力は無いし、今の持ち物は着ている制服の学ラン上下だけだ。


(だから今はコレでいい。今はここで世話になるしか無いんだから。)


 俺は、そうやって自分を納得させた。この村で世話になりながら解決策を考える。今はそうするしかない。なくなった。

 もちろん、それほど猶予は無いだろう。

 迂闊な行動のツケを払うべく、俺は頭を悩ませる事になってしまった。

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