新世界神話 其の壱――「天からの使者」
皆様、こんにちは。初めましての人は初めまして。七時雨虹蜺と申します。
これは気分で書いた短編ですので、それほど意味をもった話ではありませんので、「へぇー」みたいな軽い感じで読んでくださってもかまいません。
では、どうぞ。
新世界神話 其の壱「天からの使者」
それを見た時、人々は何を思ったのだろう。
神?
天使?
悪魔?
それとも、異星人?
街を暗くしていた雲を吹き飛ばし、光と共に現れた『ソレ』は、一体何に見えたのだろう。
銀色の華奢な体躯。背中には二対の天使の羽根を模した翼。そして背中に輝く光輪。
突如として現れた『ソレ』はとてつもなく巨大だと、私は思う。
『ソレ』に対して、小さなゴマ粒程度の大きさしかない人間達は、ただ唖然としているしかなかった。その場に立ち止まって、バカみたいに口をあんぐりと開けていた。
そして浄化を開始した。
背中の光輪から放たれた白く輝く浄化光線は陳腐な建物を吹き飛ばし、ただの土くれになった。ゴマ粒達はやっと事の重大さに気付いたのか、ヒステリックな叫び声を上げ、逃げ始めた。一体何処に逃げているのか分からないが、とにかく走っていた。
逃げろ、逃げろ。たとえ足が無くなっても、明日の朝日を見る為に逃げろ。そうして命を繋げ。
きっと、そう本能にしたがって逃げていたのだろう。なぜ、生き物はそこまで生きようとするのか、私には分からない。
本能?
欲求?
多分違う。答えはもっと奥底にあるのだろうから、私は分からない。というか、どうでもいい。
『ソレ』は歩を進める。それと同時に潰れていく鉄と土の建造物。それとついでに小さな命。浄化光線を浴びせ続ける。
黒い煙を吐く鉄塊を、浄化。
微生物程度の何かを放つゴマ粒を、浄化。
逃げまどうゴマ粒を、浄化。
寄り添う家族も、イラついたので、浄化。
そうこうしている内に、街はすっかり火の海と化していた。空は炎から出る黒煙によって真っ黒に染められていた。
ぐるりと見回すと、巨大な水たまりが見えたので、空に浮かぶ鉄塊を浄化しながらそこに向かった。
水に浸かってみると、同時に起きた波によりおもちゃのような船が転覆した。
そして『ソレ』は、目的地に向かって、進み始めた。
あれから一体どれくらいの時間が経ったのだろう。
一分?
一時間?
一日?
一年?
目の前には目的地の白い大陸が見えている。
その時、ふと母の顔が思い浮かんだ。あれほど私を叱り付けた母が一体何故浮かんだのかは分からない。なぜ、『人を殺しただけで』あれだけ怒られたのかも。
私は悪くないよ。ママ。だって神様がやりなさいって言ったんだよ?
母はそれを聞き入れてくれなかった。でも、この仕事を終わらせることが出来れば、きっと、喜んで、ほめてくれる筈だ。
白い大陸に上陸した。前は空から降って来る白い何かのせいで良く見えない。そして大陸の中心と思われる辺り――目的地に到達した。
『ソレ』はひざまつき、両手を掲げた。空には霞がかかった私の生まれた星が見える。
なんとなく、『死ぬ』ってことが分かった気がする。なんとなく、『生きる』ってことが分かった気がする。
手を掲げたのはきっと赦してほしかったのだろう。
目をつぶった。何も見えない。真っ暗だ。
そして、『ソレ』は熱と衝撃波に変換され、大陸を吹き飛ばした。
これが『世界の再生成』の始まりである。