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捜索

作者: 隼 光

 今日は休日出勤の日だ。

寒い日で、夜明け時から灰色の雲が空を覆っている。

こんな日は、とても布団が恋しい。

羽根布団のふわんとした軽さと暖かさが、1人暮らしの佐奈にむかって、もっと寝てもいいんだよと誘惑する。


「でも、昨日の仕事の残り、仕上げんと…」


佐奈の脳裏に、山積みの発注書が浮かんでくる。

今日はあれを片付けるために、休日出勤をすることにした。

あれを入社1年未満の後輩たちに任せるわけには…


「そんなん、無理~」


そう気合を入れて、彼女はベッドから飛び出した。

寒い部屋の中、仁王立ちで気合をいれる佐奈、23歳。

入社2年目で、すでに最も女子社員の古株になっている不幸体質のOL。

何が不幸かって、それを不幸とも思っていない性格が、すでに不幸かもしれなかった。

いつもの通勤スタイルでマンションをでると、空から白いものが舞いおりはじめていた。


「なんや、積もりそうやなあ、雪」


ぶるっと肩を震わせて、佐奈は大きく1歩を踏み出した。


 出勤して会社の正門の鍵を開け、事務所に向かう。

今日は佐奈だけが出勤だ。

一階の製造工場も、工場事務所も人気がなくがらんとしている。

そのまま、まっすぐ二階にある営業部屋と受注センターに上がった。

今日は更衣室に荷物をおかず、そのまま自分のデスクに向かう。

エアコンのスイッチを入れ、デスクの上に積み上げた書類の山を仕分け…ようとして、一枚のメモに気がついた。

貼り付けられたメモを取り上げ、ざっと目を通す。


『佐奈ちゃん、お隣ん家の虎縞の猫が、一階の工場に迷い込んでいます。

 確か明日出勤するっていってたよね♪ 

 追い出しといてね、よろしくね。 工場長★』


「はい~~~?」


いつもあれこれと無理を聞いてもらっている、ナイスミドルな工場長の笑顔が浮かぶ。


「………お隣の家のにゃごですか、そーですか~~!」


(一晩、そのまんま放置したんかい~~~工~~場~~長~~!!)


ぐしゃりとメモ用紙を握りしめ、佐奈は回れ右をして階段を駆け下りた。

片手に箒、片手に塵取りを握りしめた。

そのままの姿で1階から2階まで掃除道具で音を鳴らしながら捜索を開始する。


 音に敏感な猫を驚かせるのは忍びない。

忍びないが、潜んでいる場所から追い出さないと。

 今日から三連休だ。

外はすでに吹雪と化している。

そのまま3日間、水も餌もない、この寒々とした会社の中に猫をほおっておくなんて。


「そんなん、絶対あかん!」


佐奈は仕事そっちのけで数時間捜索した。

が、猫の気配はまったくしない。

しかたなく、一旦捜索を打ち切った。

幾度も階段を上がり降りしたので、膝ががくがくと笑っていた。


 昼休み、近所のスーパーに、ドライフードの小袋と猫用の煮干しを買いに走った。

こうなったら、餌でつるか、3日分の餌と水を用意するしかない。

そう腹をくくって、仕事に…やっと本来の目的、自分の仕事に取り掛かる。

PCの電源をいれ、自分のデスクに座った時だ。


「ん~~なぁああ~~」


すぐ近くで、情けない猫の声がかすかに聞こえてきた。


「…やっぱり、おるやないの~~!!」


佐奈は再び仕事を後回しにして、猫の捜索に立ち上がった。

今回は最終兵器、煮干とドライフードを投入だ。


 煮干をふりながら、声のした受注センターを隅々まで練り歩く。

この姿をみたら、後輩の女の子たちはどう思うだろう?

そんな考えが頭を掠めたが、見られるはずもない。

佐奈は開き直った。


 捜索開始30分後、煮干に釣られて彷徨いでて¥「ホシ」を確保。

思いっきり暴れてくれたので、両手にも顔にも引っかき傷ができた。

それでも、この寒い工場で連休を過ごさせるより、自宅に帰したほうが絶対にいいに決まってる。

暴れる猫を抱きかかえ、佐奈はその足で隣の家にその虎縞の猫のつれていった。


「連休あけたら、工場長をとっちめんとなあ」


そう呟きながらも、佐奈の顔はなぜか晴れ晴れとしていた。


これは某サイトに投稿した80%真実なお話です^^:

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