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お城とドレスとメイドさん

 凰真――ルキフェル先輩に従って城の中へと入っていく。門番には鎧を着けた骸骨君が居た。わあ、本当に異世界なんだなあ。


 不気味と言うよりは、ポップとまではいかないまでも愛嬌ある風貌だった。何故だろう? ホラー映画に多少耐性あるからだろうか。骨とはいえ、あくまで骸骨という生き物だからかも知れない。おお、ファンタジー。


 城内ではテレビ画面越しにしか見ることが出来ないような、それは煌びやかな調度品が立ち並んで――居なかった。

 どちらかというと要塞に近い。無骨で、けれどどこまでも実用的といったような。


 もちろん飾り付けは品良くなされているのだけれど、必要最低限といった感じ。外側は石造りなのに、床はリノリウムっぽかった。内壁もどことなく現代的な意匠が凝らしてある。どこ行ったファンタジー。


 気になったので、メイド服を着たスライムや三メートルくらいあるサイクロプスの警備兵に敬礼されている先輩に尋ねてみた。


「先輩、なんか思ってたのと違うんですけど」

「ああ、最近リフォームしたんだ。昔はすきま風やらでよく冷えたから。建てられたのって二千年近く前だし」


 意外と切実な理由だった。そうですね、すきま風は辛いですよね……。


「もっとファンタジーなのが良かった?」

「い、いいえっ。時代に合わせて改良するのは大事だと思いますっ!」

「なら良かった」


 そうして先輩は口を弧月のように持ち上げて、にっこりと微笑んだ。


「ミヤを迎えるのに、辛い思いはさせたくないからね」


 ふ、ふわあああああああああぁぁぁぁぁっっっっ!!! 愛がっ! 愛が弾けるっ! いやむしろ爆発する!! 何度萌え殺せば気が済むんですか先輩いいいいいぃぃぃ!


 私が内なる叫びと戦っていると、ルキフェル先輩はこちらを心配そうに覗き込んでくる。


「大丈夫? 顔が朱いけど」

「ひゃいっ! だだ大丈夫です! 健康ですっ!」

「ならいいんだけれど。ごめん、急な話で疲れてるだろう。案内は明日にしようか」

「は、はい。そうしてもらえるとありがたいです」


 正直な所、私はいっぱいいっぱいだった。申し出をありがたく受け入れる。もろもろの手続きを後回しにして、私は部屋に通された。


 本来なら即夫婦の寝室だったのだが、先輩は気を利かせて最上級の客室で休むよう取りはからってくれた。こういうマメなところが先輩の先輩たる所以なのである。


「食事が出来たら呼ばせるから。服はそこの衣装棚に入ってるから良ければ着て」

「はい。何から何までありがとうございます」

「気にしないで。ミヤは俺のお嫁さんなんだから」


 ぼふんと顔が音を立てるくらいに熱くなるのが分かる。先輩はなんでもないようににこりと微笑みかけてから扉を閉めていった。


 枕に向かって倒れ込むように横たわる。高級羽毛布団だろうか。初めての感触だ。ベッドは一切軋むことなく私を受け止めてくれた。


 それに引き替え、私は私の今の状況を受け止めることが出来ないでいる。


 先輩に告白されたこと。

 魔法で異世界にやってきてしまったこと。

 人ではない、怪物達が普通に暮らしていること。

 私はその世界で本当のお姫様になるだろうと言うこと。


 そして、先輩のお嫁さんになるということ。

 先輩のお嫁さんになるということ。

 先輩のお嫁さんになるということ!!


「う、うふふふふ。いひ、うへへへへ! 先輩のお嫁さん。『俺のお嫁さんになってよ』。うきゃーっ!! これは現実? い、痛い! これは現実! 現実! いやっほおおおおぉぉぉう!!!」


 思わず枕を宙にぶん投げなげて、ベッドをトランポリンにしながらはしゃいでしまう。壬生屋宮子、齢十六才にして我が世の春が来たーっ!


 妄想でしかなかった先輩とのめくるめく甘い生活! ああ、会員番号001番彩花先輩、004番絵理ちゃん、そして007番近藤君。私は今日大人の階段を登ります!


「ふふふ、いひひ、うぇへへへへへへ――」


「失礼致します。宮子様、お食事の準備が出来ました……ひっ」


 そこには半狂乱になった私にドン引きしている、こうもりのような羽をはやした赤髪の女の子の姿が。


 うわーどうしよう。


 すっかり冷却された頭を軋ませながら彼女の方へと向ける。


 それはもう化け物を見るような表情で、彼女はその可愛らしいであろう顔立ちを引きつらせていた。ああ、最悪の初対面だ。きっと私の頬も引きつっていたに違いない。


 ぎこちない笑みを浮かべながら、彼女は言った。


「お食事の準備が出来ております。王がお待ちですので、お召し物を替えてからお声をお掛け下さい」


 言うが早いか、赤毛の女の子は扉の外に出て行ってしまった。


 あれー? こう言う時って着替えのお手伝いをしてくれちゃったりするんじゃなかったっけー。密かにそう言うものにあこがれていたりもしたのだけど。


「まあ、仕方ないか……」


 確かにあのファーストコンタクトはないわ。私だってどうかしてると思ったもん。失礼とか言う以前に間違いなく変人だと思われた。うう、上手くやっていけるのだろうか。甚だ不安だ。


 くよくよしていても仕方がないので、ベッドから降りると衣装棚を観音開きに開いた。


 そこには色とりどりのドレスドレスドレス! 映画か少女漫画の世界でしかお目にかかれない、細緻を凝らした逸品ものと思われるようなドレスが所狭しと並んでいる。春風のような若草色のローブ・デコルテ、星を散りばめたようなイブニングドレス。


 ある意味憧れでもあったそれらに目を奪われていたが、奥の方へと進んでいくと現代的な服装も少量ながらあった。何故か制服も。何故? しかも体操服もあった。あれぇー? 髪飾りの置き場には猫耳カチューシャあるぞおい。


 これは一体誰の趣味なのだろう……。一瞬思い人を頭に浮かべ、すぐにかき消す。ないない。先輩はノーマル。ノーマル!


 でもこれはこれで意外な一面を見られたような。


 ぶんぶんと頭を振って、薄桃色のカクテルドレスを着ようとしたのだけれど、これ結構着づらい。結局外に待機していた赤髪メイドさんを呼んで手伝って貰った。


 お似合いですよ、と言われたけど感情がこもっているようないないような。


 素直に喜べない感じだったけれど、姿見を見て馬子にも衣装なんて言葉が思い浮かんだ。ええ、ええ、どうせ私には華なんかありゃしませんよ!

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