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告白

 少女漫画+テンプレートのような展開を目指してみました。……あれ?

 それほど長くないです。

 西日が世界を暁色に染め上げて、私こと壬生屋宮子みぶやみやこの鼓動は早鐘を打つようにばくばくと鳴っていた。


 放課後の校舎裏に人気はない。巨大なこの私立魁皇学園にはわざわざこんな場所まで来る人間など居はしない。


 メールに書かれていた内容はここへの呼び出しだった。それだけであればあるいは無視したかも知れない。だがその差出人はなんと学園のプリンス、ハーフで眉目秀麗文武両道の完璧超人レフィクル・凰真先輩だというのなら話は別だ。


 それが嘘でも本当でも、私は行かなくてはならない。凰真先輩ファンクラブ会員番号005番の私としては、もしそんなイベントがあればご飯三杯いけるほどに、彼に傾倒していたのだ。


 そして今、私は彼の両腕に挟まれて壁に押しつけられている。いわゆる壁ドン。ああ、男の子なのになんでこんなに良い匂いしてるんですか先輩っ!


「ミヤ」

「は、はひっ」


 彼は私の愛称でもって、耳をとろかすようなイケメンヴォイスを遺憾なく発揮している。ああ、近くて顔が見れないっ!


「こっちを向いてよ。大事な話なんだからさ」

「あ、先輩……」


 先輩は私の顎を掴むと視線が合わさるように力強く持ち上げた。そう、ちょっぴり強引なそんなところが女子のハートを鷲づかみにして離さないのだ。凰真の名前から魔王様なんて呼ばれたりもしている。

 とにもかくにも、その時の私は醜態をさらさないよう精一杯で、深く物事を考える余裕なんてまるでなかったのだ。


「ミヤ、お前は俺のこと好き?」

「ひゃっ!? そそそそれはそのっ」

「嫌いなの?」


 そんなわけ無いじゃないですかっ!


「す、すすす好きですっ! 大好きですっ」

「そう、良かった」


 先輩はそれはもうこの世の全ての美を結集したような、それでいて男性的な魅力溢れた笑顔で、気絶するんじゃないかと思うほどに私の心拍数を上昇させてくれた。


 まだここまでは良かった。耐えていた方だったように思う。理性は確かに私の元にあった。


 けど、次の瞬間。

 私の理性は綺麗に溶けて無くなってしまったのだ。


 先輩は慈しむように、そしてちょっぴり悪戯っけな表情で、私の耳朶を震わせた。


「じゃあさ、俺のお嫁さんになってよ」


 時が、停止した。


 お嫁さんになってよ。お嫁さんになってよ。お嫁さんになってよ。


 え、ええええええええええっっっ!!!

 な、なんてこったい。

 もう、今すぐ死んだって良い。


 最早私は夢見心地でいた。

 だからきっと、普通に考えても想像付かないことには、気づけなかったのも無理は無かったのだ。 


「お前が欲しい。俺の城までさらってやる」


 もう何をされても良い。私は無言で頷いた。


 顎に掛かった手を上向きにしながら徐々に先輩の顔が近づいてきて、私は来るべき至福の瞬間を、瞼を閉じながらじっと待った。



 初めての感触は、ひどく柔らかかったことを憶えている。



 そして、それが最後に憶えている、私の世界の記憶だった。


 ゆっくりと離れていく先輩と、その感触の余韻にたっぷりと浸りながら、ぽうという音で目を開いた。


 風が辺りを渦巻いている。私達を中心に、光り輝く幾何学模様が幾重にも張り巡らされている。先輩の額には、美しいルビーが陽光を浴びて輝いていた。


 それは神秘的な光景で、思わず見入ってしまうほど。

 そしてそれが、学園で起こっているのではないことに、私は気付いてしまった。気付いてしまったのだ。

「なに、ここ」


 そこは荒野と言っても差し支えない程に荒れた土地だった。

 そして夕日に照らされながら、朱色に染まった石造りの巨大な城が、私の目の前、凰真先輩の背後にそびえ立っている。



 なにがおきたのかまるでりかいできなかった。



「ミヤ」


 呆然としていた私に凰真先輩が、その甘い声でもって呼びかける。


 次の瞬間、再び私の唇は先輩によって塞がれた。


 そして、熱く、朱く、ぬめるものが差し込まれる。混ざり合って口の端から垂れていく唾液を思いながら、麻薬じみた快感の波は私の思考を停止させた。

 羞恥に苛まれながらも私は精一杯の思いを示すべく、先輩を抱きしめてさらに身体を寄せた。私からも、拙いながらも舌を絡みつかせながら、必死に先輩を求める。


 どれくらい経っただろうか。

 どちらともなく離れた私達は、頬を紅葉させながら荒く息をついた。


「落ち着いた?」


 安心感を与える、落ち着き払った声。そうか、先輩は私が混乱していたのを上書きしてくれたのだ。

 もう一度だけ、深く息をついた。

 うん、もう大丈夫。


「はい。その……取り乱してごめんなさい」

「いいよ。普通混乱するの当たり前だし」


 気にする様子なく言った先輩は、まるでここがホームのように寛いでいる。ということは、これはまさしく先輩の仕業であるに違いない。


「これは先輩がやったんですか」


 徐々に収まっていく風と光を横目に見ながら、私は肝心の内容を口にする。


「ああ。俺が転送した」

「じゃあそのルビーは?」

「もともと俺に付いていたものだ」

「じゃ、じゃあなんで私を――」

「言っただろう。俺の城までさらってやると」


 何となく理解した。ここは、私の知っている世界ではないと。

 そして先輩は、文字通り私をさらってきたのだ。決して超えられぬ境界を超えて。


「凰真先輩。ここは、どこなんですか」

「天秤の女神が治める世界、アイティトス。ここはその世界にあるリブラ大陸の魔王領だ。それと俺の名前は凰真じゃない」


 言いづらいのか、不機嫌そうに顔を顰める先輩。珍しい表情だった。


「魔王ルキフェル。かつてお前達の世界を追われた、元堕天使だ」


 成る程。それは恥ずかしい訳だ。先輩じゃなかったら、そしてこんな世界に来なかったら、まず信じないであろう中二ワードだった。


「元はと言えば大した話では無かったのだが、向こうの文化を知ると名乗るのがこうも恥ずかしいとは」

「あ、あはは。か、格好いいですよ? ルキフェル先輩」

「ぐぅ……」


 出来るだけ明るく笑顔で居たのだけれど、どうもそれは逆効果にしかならなかったみたいだ。苦虫を噛み潰すような、古傷抉られたような顔をしている。ごめんなさい先輩。でもそんな先輩も大好きです!


「ミヤを嫁にしたのは失敗だったかも知れない……」


 わーっ! ごめんなさいそんなこと言わないで!

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