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あたし、ゆうれいなの翔愛編

作者: 相原由紀

当作品はオンライン学園アドベンチャーゲーム[キャラフレ]にて展開される学園生活の中の創作小説です。

http://charafre.net/


 『あたし、ゆうれいなの』翔愛編


 様々な別れがあるけど、死も、その一つ。予めその時期が判れば心構えや気持ちの整理ができる。けど、突然の訪れは容赦無い断絶となり、旅立つ方も、残される方も呆然と受け入れるしかない。

あたしは、せめて「ありがとう。さようなら」を言いたい。あなたに・・・


         原案 二年三十二組 時峰悠々

         改作 一年二十六組 相原由紀

         編集 一年三十一組 命


 書いても書いても全然減らないシャープペンシルをもて遊びながら外を眺めていた。

 高台にある翔愛学園の教室から見える夕日の景色は幻想的であり、お気に入りだった。遠くの商店街やショッピングモール、その先の海は真っ赤な輝きを乱反射し、時折直線的な光を放ってくる。

 既に夕日は、水平線に没する前に最後の輝きを一際増し、抵抗するが如く輝いている。

 グランドでは部活の終了したクラブが片付けを行うだけで、静けさが再び辺りを支配しようとしていた。

 校庭や校門から続く坂道には満開の桜が咲き開き、時折吹く春風に煽られ花吹雪を作っていた。

 特進教室の窓が少し開いている為、時折風と共に花びらが舞いながら落ちてくる。そっと手を伸ばし、それを手のひらで受け止めようとするが、花びらは手を突き抜け、机の上に落ちてしまう。

 そう、あたしの体は透けているのだった。生物的な死は既に判っていた。けど、あたしそのものは以前と変わりなくここに存在する。

 死において生前あまりにも強い思いがあると、残留思念となり昇華できないとか言われているのを聞いたことがある。正しく今のあたしは、そんな感じなのだろう。

 しかし何が心残りだったか、死が突然すぎた為か、そのあたりの記憶が無い。

 もうあれから一年以上あたしはそのまま、ここに居る。最近では以前のクラスメイトの会話にも、あたしは過去のものとなり忘れ去られた想い出になっているようだ。

 もちろん、こちらから話しかけても無視するがごとく何の反応も無い。声も体も彼らには聞こえず、見えていないのは当然だと感じた。

 今は、ただ窓際のだれかの席に座り、夕日を眺めることが唯一の安らぎとなっていた。


 しばらくしていると廊下を駆ける足音が聞こえてくる。けど、いつもの通り、あたしの存在は認められるはずも無いと、そのまま夕焼けの空を眺めていたのだった。

「あれ、もしかして恵美じゃないのか?」

 突然だった。

「ひさしぶりじゃないか。戻ってきたのか?」

 あたしは振り返って、今、教室を進んでくる彼に驚いた。

「卓也くん・・・」

 そうだった。彼は入学当時から仲のよかった特進チャレンジ教室の同期メンバーだった。

「恵美が転校してから何度もメールしたんだぜ。全然返事くれないから嫌われたって思ってたよ」

「えっ、そうだったの?ごめんなさい。携帯壊れちゃって、その後、色々あって・・・」

 そう言うのが精一杯だった。

「そっか、ならしょうがないよな。まっこれから、また前のようにバカやったり騒げるよな」

 そうだ。卓也君と、あたしらは、とっても気の合う仲間だった。クラスや学食でもいつも一緒だったし、テストの勉強も教え、教えられながらやった。

 そして今まで忘れていたけど、あたしが転校するまで楽しい日々を送っていたのだった。

 卓也君との懐かしい記憶が蘇ってくる。


 あたしが翔愛学園に入学して間もなくのことだった。広い学園に迷いながら、色々回っていた。階段下や花壇。沢山の先輩達の輪があった。

 けど、そんな中に新入生が入っても会話に参加することができず、話しかけられても一言二言返すのがやっとだった。

 もちろん、一対一で声をかけられるのも怖かったし、こちらから声をかけるだけの勇気もなかった。

 そんな孤独で不安が一杯の時、特進教室で同じ新入生バッチを付けた卓也君に出会ったのだった。

「友達できた?怖くないから、ゆっくり話すといいよ」

 そんな、なんでもない一言が嬉しかった。あたしは関を切ったように学園の判らないこと等を会話の中で質問していた。

 彼は一つづつ丁寧に教えてくれたし、校舎裏の夜景も連れていってくれた。

「そろそろ俺達友達になろうか?」

(えっいいの?あたしみたいなので)

 初めての経験だった。とっても嬉しかった。

 それから毎日の登校が楽しみで、授業も苦にならなかった。慣れるにつれ、ファーストフードのお店でのランチや午後の柔らかい日差しで、天使のとまり木カフェでお茶を飲みながら聞くポップミュージックの一時が最高に幸せだった。

 次々入ってくる新入生を取り込み教室は毎日楽しさに包まれた。横には卓也君がいつも(ニコ)の笑顔でいた。


「ごめん、ここ俺の席な。体操服忘れちゃってな、明日も体育あるだろ持ってかえって洗濯しないとな」

 と言いながら机の中から体操服を取り出し、手持ち袋に収める。ほんの近くを彼の顔が通過する。

「ねぇ卓也君。あたし、見えてるんだよね?」

「当然だよ。しかし全然変わってないなーお前。昔のまんまだよ」

 確認するように更に近くであたしの顔を見つめる。何か、遥か彼方の昔に感じた浮き足立つような不思議な感覚が蘇ってきた。

 そうだ、これって恋の感覚かもしれない。胸がツンと苦しくなるような、切なく懐かしい感じ。

 そうすると自然と涙がポロポロ出てきた。止めることなんかできない。

「バカだなぁ。あいかわらず感激屋さんなんだな。ほれ、これ」

 優しくハンカチで涙を拭ってくれる。

「これメグのだぜ、転校する前に借りて返せなかったやつ。あれからいつも持ってたんだ」

 さり気なく、あたしの手にハンカチを握らせてくれた。その呼び方も昔のままだ。

「あっこのシャーペン。借りたやつ。あたしも返せなかった。長い間ありがと」

 卓也君の胸のポケットに丁寧に刺した。

「そっか、メグに貸したんだ。すっかり忘れてたよ」

 何か昔の感覚が蘇ってくる。忘れていた全ての記憶が。

「ねぇ、あたしの居ない間に彼女できた?」

「あははは、それがなーメグの印象が強くって、未だ彼女居ない歴更新中だよ」

「えっあたし、そんなに・・・だった?」

「ああ俺、メグのことが気に入ってたって言うか・・・その・・・なんだ」

「なぁーに?」

「って、メグほんと変わんないな。・・・好きだったってことだよ」

 もう感情が溢れかえり、恋と愛の思いが一斉に襲ってくる。

「あたしも。卓也君が、好きだった。今も・・・」

 時間が止まるって言うのは、こんな時のことなのだろう。静けさだけが、あたし達を包み込む。

「あっはははは、なんか感激って言うか、そんなもんじゃ表現できないよな」

 そう言って卓也君は真っ赤になってテレていた。あたしは涙ながら満面の笑顔を作って返した。

「さっ帰ろうぜ、明日から登校だろ」

 初めての握手のように手を差し出してくる。

(えっあたしをつれて帰ってくれるの?)

 恐る恐る手を掴む。あったかい彼の温もりが感じられる。嘘みたいだ。

「うん。昔と一緒だね。こうして引っ張って帰ってくれるの」

「だってなメグ、歩くの遅いんだから、しょうがないじゃないかよ。あれ、荷物ないのか?」

「うん。今日は挨拶だけだったから・・・」

 それから階段を下り、エントランスへ下りる。

 柏木先生が、こちらへ引き上げてくるところだ。いつも校門で立ち番をしているおちゃめな先生だ。あたし達は揃って一礼した。

 先生も手を挙げ合図を送ってくる。懐かしい。

 下駄箱で靴を変え校庭を二人で歩く。もう部活も終わり、だれも帰っている生徒はいない。あたし達だけだ。

 校門のところで立ち止まった。何度も今まで通ろうとしたけど、できなかった。

「メグどおした?」

「ううん。なんでもない」

 卓也君の手が強く握りしめられる。あたしを強引だけど力強く引っ張って行ってくれるのが判る。

 そして校門を抜ける。何ともなかった。昔のままだ。

「ねぇ、お願いがあるんだけど」

「何?メグのお願いは危険なんだけどなぁ」

「腕、組んでいい?」

 あたしは答えを待たず腕をからませた。肩が触れる。そして頭を斜めに傾け、もたれる感じで預け桜並木を歩いて行く。安らぎと安心感が心の中で広がる。

 一瞬風が吹き溜まった桜の花びらを舞い上げる。二人を包み込むように。

「メグ。待って」

 と言うと卓也君は、あたしの頭に載った花びらを手で払ってくれた。できれば、このまま一緒に帰りたかった。けど、それが許されないことも感じていた。

「ねぇ卓也君。あたし、ゆうれいなの・・・」

「あはははは、メグ。あいかわらず最高だな」

「ううん。最後に、おもいっきりステキな想い出ができた。ありがとうね」

「おいメグ、そりゃ・・・・・・・・」

 あたしは彼の肩に両手で摑まり、おもいっきり背伸びをして頬にキスをした。

 卓也君は、一瞬驚いたみたいだったけど、あたしの腰に手を回し、さらに持ち上げた。強く。そてし小さいころ、お父さんにやってもらったように、彼を中心に一回転した。

 嬉しかった。笑顔なのに涙が出てくる。

 見上げるあたしの顔を両手で優しく包み、ゆっくりと顔を近づけてくる。

 目を閉じて唇が重なるのを待った。もう、あたしは満足だった。

 その瞬間、手が透けていくのがわかった。

「卓也。新しい恋をして彼女作って。そして幸せになるのよ。絶対に」

「バカなこと言うなよ」

「ううん。あたし幸せだった。これからもずっと。あなたも新しい幸せ掴むのよ。ありがとう卓也」

 体が透けると同時に上空に吸い上げられて行くのが判る。もう卓也君は点ほどにしか見えないけど、あたりを探し回っている。

(あぁーこれで、天国に行けるんだぁ。なんて清々しい気持ちなんだろ)

 夕日が水平線と融合し変形して見える。あと少しで大地が飲み込んでしまうだろう。そんなオレンジ色の空を飛んで行く。最後に心の中で叫んだ。

(ありがとう。たっくん)


 翌日の朝。校門で。

「柏木先生。メグ、戻ってくるんですよね」

「メグって、一年の時に転校していった恵美のことか?」

「そうですよ。昨日だって二人で帰り挨拶していったじゃないですか」

「いや、お前一人だったぞ。けど、おもいっきりニヤけてたなー何かいいことあったか?」

「えっ、そんなー・・・」

「あぁ、おまえらには言ってなかったが、恵美なー転校して直ぐに事故で亡くなったんだ」

「そうだったんですか。・・・」

 今日も多くの生徒が学園前の坂や桜並木から登校してくる。高原さんも笑顔で次々挨拶している。何一つ変わり無い風景だ。その中にメグが居ないか見渡す。

 卓也は胸に刺さったシャープペンシルを見ながら思った。

(メグ、さよなら言いたかったんだな、たぶん。俺もこのまま沈んでたら、あいつに怒られるよな。新しい恋かぁ、それもいいかもな)

 桜の花吹雪が卓也を優しく包み込む。恵美の思いのように。


当作品は翔愛学園文芸部の次期会誌掲載への応募作品として投稿するに当り、作品評価の為当サイトに平行掲載されたものです。


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