フロッグキング
職業は女子高生である。
可憐な可愛い女子高生である。
たとえ「女子高生は尻にカエルをくっ付けてはいない」と言われても私は可憐な可愛い女子高生である。
「いい加減現実をみなって」
「うるさい。私は知らない、知ってる?知らなければ知らないのと同じことなんだよ」
「あのね、どんなに姫御子がこの世界を拒否しようとも姫御子が世界にいる事実は変わらないんだよ。それ即ち、姫御子の尻にカエルがくっ付いていることを認めなくてもカエルはくっ付いているということに」
「知らんっ私は知らないっ」
キーッと漫画みたいな奇声をあげる。
「キミコ、我輩はキミコの尻にしかれるためにこの異世界に、いやこの世に生まれてきたのだと確信した。キミコの大きく暖かく存在感のある偉大な尻に敷かれた時、我輩の体は一閃の快感に痺れ甘く蕩けたのだ。我輩の花嫁はキミコ以外に考えられんっ」
後ろから聞こえた艶やかな声の持ち主は巨大なカエルだ。
「うっせいっ、このカエル野郎っ。可憐な女子高生の尻にへばり付くんじゃないってっのっ」
上半身を捻ってスカートにしがみ付く巨大なカエルの頭部を鷲掴みにする。目玉を保護するためにピタリと閉じた姿はちょっぴりキュートだが、優しさは無用だ。握りつぶす勢いで鷲掴む。
「何で離れないのよー」
カエルと私の隙間は一ミリ以上もない。ベッタリだ。
「姫御子ーもう諦めなよ。いい加減寒いし、お腹減ったし、めんどくさい」
「酷い、親友を見捨てるの!?」
「えー見捨てるってより、祝福?してんのよ。そのカエル王様らしいじゃん、玉の輿、ロイヤルウエディング」
「玉の輿云々の前にカエルの嫁になるって問題は無視出来んでしょー、がっ!!」
がっ!!、のところで思いっきり力を入れて引き剥がしを試みるが無理。
「そーいったの何て言ったっけ?異種婚姻譚?なんかそんなの、えーと雪女とか天女の羽衣とか?」
本当に寒いらしい親友は鼻をすすって軽く足踏みしている。
「雪女も天女の羽衣も相手は少なくとも人の形してんじゃん。よく見てよ、これ、カエル、爬虫類」
グーでポコポコ殴るがカエルにダメージはない。ケロン、ケロンと妙に甘い声でフルフルしだしたので私にダメージが跳ね返ってきた。
「カエルは両生類だよ。でもさー相手が人の形してないぶん別に貞操の危機ってわけはないんだからさ。別にいいじゃん。カエルの交尾がどんなだか興味もないけど、少なくとも無害じゃない?カエルだし。それに王様らしいから貢がせるだけ貢がせればいいじゃん。それでたまに尻の下にクッション代わりに敷いとけばカエルの王様も満足だよ」
「たまにではない、常に、だ」
「カエルは黙っててよ。とにかくカエルを引き剥がすの手伝ってよー。こいつカエルのクセして爪立ててんだよ、絶対制服に穴が開いてる。おいカエル、制服代と慰謝料あとで払えよっ」
ついついポコっと殴るとカエルはトロンとして嬉しそうにする。
「うむ、好きなだけドレスを作るが良い」
「ドレスじゃなくて制服がいるんだよ。バカエルっ」
「おしい、我輩の名はミカエルだ」
ブホッ、ゲホゲホゲホ
「キミコ大丈夫か?」
「ゲホゲホ、だいじょぶ」
思わず咳き込んじゃったじゃないかーくそー。
「ゲホ、と、とにかくカエルを引き剥がすので、カエルを持って、私は反対方向に力を入れるから、せーの、を言ったが良いかな」
つかえながらカエルを引き剥がす作戦を述べる。
「え、えー触るの?それ」
「……酷くない。私、ソレに思いっきりしがみ付かれてんだけど?酷くない?」
「あ、いっけない、今日見逃せない番組があったんだっけ、じゃ、ね」
引き止める間もなく親友は私を捨てて行く。
「酷い」
「我輩が慰めてやる」
さっきよりも強い力でしがみ付かれてしまった。
慰めというよりも、カエル的には抱きしめてるつもり?
「キミコはよく頑張っておる」
ケロロとカエルが鳴く。
そもそもお前が原因だろう。
「カエルが鳴くから帰ろう…」
家に入ると家族全員が満面の笑みで私を迎えた。
「おめでとう姫御子。お母さんはあなたのような娘を持って幸せだわ」
「自慢のお姉ちゃんでわたしも嬉しい」
「お父さんは寂しくなるな…」
「姉ちゃん、おれこのゲームが欲しいっ、カエルに言って買ってくれよー」
「国王様、ジイは嬉しゅうございます」
「あんた姉の私よりも先にお嫁に行くなんてズルイー」
上から
母
妹
父
愚弟
紳士
姉
が口々に祝福の言葉を投げかける。
「おいおい、これはどーゆーことなワケ?」
尻に張り付くカエルをポコンと叩く。
「国王様と王妃様の仲睦まじい様子をこの目で見られる日がくるとは、ジイはいつあの世へ旅立っても良うございます」
「ラルフよ、お前には私達の子の世話も任せるつもりでおるのだ。休むのはまだまだ先にしてもらわねば」
「そうだよ、ラルフー。死ぬなんて言うなよー。俺、甥っ子とか姪っ子とかと遊ぶの楽しみしてんだからな、ラルフも一緒に遊ぼうぜ」
元気で人見知り皆無な弟がダンディな紳士の背中をバシバシ叩いている。
……………家族の中に知らないダンディなおじ様がいる。
「おおおおお、違う。私の家族にダンディで素敵な紳士なおじ様はいないっ。ナチュラルにいるけど誰?!」
「あれはラルフだ。幼少の頃より我輩の世話を「そんなことを聞いてるんじゃないのだよ、バカエル」
「あらあら、旦那様にそんな口を利いて。申し訳ありません、躾がなってなくて」
「良い。キミコは皆の前で恥ずかしいだけだ。二人っきりになればとても従順で臆病な子猫ちゃんのように我輩にべったりと甘えて」
「嘘をつくな、バカ、アホ、」
ポコポコと叩くがカエルはノーダメージである。
「うむうむ、照れずとも良い。では早速だが城へと帰還するとしよう」
それからカエルが、ケロケロケロロロロロローと鳴くと
あれから…
バカカエルは美形の王様に変身し、美貌に目がくらんだ私はついつい求婚を受け入れてしまった。美しさは罪だ、もっぱら被害を受けるのが美人じゃない方ってのが理不尽だと青年の主張をする。
私は女子高生をしながら王妃をし、カエルの王様がいる国に引っ越す。まあ、就職活動として都会に移るような気分だ。
幸いにも卵を産むことはないようだけど、卵のほうが痛くなさそうだな、とちょっと残念に思ったのは内緒である。
因みに、カエルじゃなくてオタマジャクシを産むとは当時、女子高生だった私は知らない。
補足。姫御子さんのお尻についたカエルの大きさは小さめの座布団くらい。普通なら悲鳴を上げる。