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眩しい

作者:


 中間テスト最終日の金曜。

 私と海晴は久しぶりに街に来た。

 テスト明けの解放感に浸る私とは対照的に、海晴はいつもと寸分違わない無表情。

 ていうか、無駄に整ってるからちょっと怖いんだよね。

「どうしよっか? ぶらぶらする? マック行く?」

「腹減ったな」

 海晴はふあーっと欠伸をしながら伸びをした。

 電車のシートは学校帰りの生徒たちで埋め尽くされて、私と海晴はドアの前に並んで立っている。

 向かいのドアにも同じ高校の制服を着たカップルっぽい二人が立っていて、私はなんとなくそっちに目を向けた。

「お前、手、冷た」

「そう?」

「ほら」

「えー、恥ずかしい」

「いいじゃん」

 なんて会話が繰り広げられている、ような動作をしている。

 私は向かいのカップルから目をそらした。なんか、こっちがドキドキしちゃった。

「じゅな?」

「……あ、ごめん」

「どした?」

 海晴は怪訝そうに私を見ている。

「ううん」

 首を振って見返すと、海晴の目が意地悪そうな光を帯びていた。

 ……嫌な予感。

 海晴は背をかがめて私の耳元で囁く。

「なに見てた?」

 温かい吐息と声に膝が震えた。その時、電車がホームへと滑り込み、ガタンと揺れた。

「わっ!」

「おっと」

 海晴はバランスを崩した私の腕をとった。

 そして、そのまま自然な動作で私の手を握る。パッと見上げると、ニヤリと私の苦手な笑みを浮かべていた。

「そろそろ慣れたら?」

 海晴は私を引っ張ってホームに降り立ち、さっさと歩きだす。

 私は顔を俯けて、海晴の腕に空いている右手でパンチした。

 ほんと、顔と勘が無駄にいいんだよね。無駄に。



 マックで小腹を満たした私たちはぶらぶら歩いて、通り沿いのショップに入った。

 アンティーク調の手鏡や櫛、ストラップ、天使の置物。

 女の子が好きそうなお店で、先客には制服姿の女の子グループや会社帰りのお姉さんがいた。

 海晴はそんな中でも気にした風もなく、ポケットに両手をつっこんで店内を珍しそうに眺めて歩いている。

 私は立ち止まると、店の奥に並べられていたストラップを手に取った。

 猫の伸びの形を模したモノや鳥の羽根のついたもの。たくさんの種類がある。

 私はその中から、革製の飾りに小さな金属の三日月がついたものを手に取った。

 シンプルでちょっとかわいい。

「なんかあった?」

 いつのまにか海晴が私の横に立っている。

「これどう思う?」

 私がそれを見せると、海晴は長い指の先にそれをひっかけてマジマジと眺めた。

「いいんじゃね?」

 あんまり期待せずに聞いたのだけど、意外にもまともな返事が返ってきて、少しびっくりした。

 普通に嬉しい。

「じゃ、買ってくる」

 そう言って私がレジに向かおうとすると、

「じゅな」

 海晴が私の掌からそれを取った。

「そこ動くなよ」

 そう言って、お尻のポケットから財布を取り出しながらレジに歩いていく。

 私は足を踏み出しかけたけれど、そこにとどまって海晴の背中を見つめた。

 なんだかお腹の底がむずがゆくて、唇を噛んだ。なんかずるい。

 戻ってきた海晴は、また何も言わずに私の手を取って店の外に引っ張っていく。

「じゃ、帰るか」

 あれ?

「……え?」

 あれ?

「何? なんかまだある?」

 いや、えっと。

「あの、……さっき動くなって言ったよね」

「ん」

「で、レジ行ったよね」

「ん」

「……ストラップは?」

「は?」

「いや、……あれ?」

 買ってくれた、んじゃなかった? もしかして海晴が自分用に買ったってこと? その「いいんじゃね?」だったってこと? いや、逆に私が海晴のために買う、って勘違いして、自分で買ったってこと?

 私がぐるぐる考えていると、上からくっ、と我慢したような笑い声が聞こえてきた。

 見上げると、海晴が目元を手で押さえて、くくく、と笑っている。

 その手元には二つの小さな袋がある。

「マジ、じゅな可愛い」

 海晴は私の手を離すと、ショップの入口で、しかも通りには人だってたくさん歩いてるのに、私のことを抱きしめてきた。

 びっくりして見上げると、海晴は袋を開けて、私の目の前にさっきのストラップをぶら下げた。

「ほら」

 ぷらぷらと揺れるそれは、

「……おそろい?」

 呟くと、海晴はくしゃっと私の頭を撫でて、掌にそれを握らせた。

 ……なんかずるい。

 その呟きは私の心の中に降り積もって。


 ……なんかずるい。 

 

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