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私が書いている二次創作の主人公と名前は同じですがまったく関係ありません
ただ考えるのがめんどうだっ(ry
帝暦二千五十年、世界には人型兵器が存在していた。
TS、テラーズ・スティア。
身長数メートルの人型兵器。
背中、足に取り付けられた推進装置により、優れた機動性を発揮し、その大きさに見合った高火力の武器を操る地上兵器である。
地上兵器とはいえ、ブーストすれば地上から数十メートルも飛び上がることが出来るのであるから、その機動性は他の地上兵器を圧倒しているといえよう。
胸部に設置されたコクピットにあるレバーによって手足を、関節の一つに至るまで人間の体と同じように動かすことが出来る。
手で物を自在に掴むことも可能。その足で、ほぼ全ての地形で戦闘能力を発揮する。
そんな夢の様な兵器が存在していた。敵を駆逐するために。
パイロットたちはTSを操り、敵のTSを撃墜することを使命としている。腕を上げ、多くの敵を撃墜すれば報酬がもらえ、部隊での地位も向上した。
彼らは、戦うことが好きなのだ。
そして、その度合いが強い者が、エースパイロットと呼ばれるのであろう。
インシュヴァルツ。
彼もその中の一人であった。
ピピピピ
耳にアラーム音が届く。敵に機体をロックされた証拠だ。同じ場所に立ったままでは、相手の射撃武器により蜂の巣にされてしまうだろう。だが、こんなところで敵に撃墜されるわけにはいかない。
それは、味方の敗北を意味する。
味方が何機残っているのかは分からないが、一機落とされることは大きな損害になる。
性能がそう変わらない強力な兵器による戦闘は、一つの数の差が勝敗を分けることもあるのだ。
インシュヴァルツは両手で掴んでいるレバーをすぐさま前に倒し、ブーストペダルを踏む。それに伴って機体の背中に付いている推進装置から青い光が放出され、機体は一気に加速し、その体を岩場に隠した。
その瞬間、さっきまでインシュヴァルツがいた場所を、無数の弾丸が貫いていく。フルオートの100mmマシンガンだろうか。
一発一発の威力は少ないとはいえ、あの量の弾丸をくらえば命は無い。
インシュヴァルツが今操っている機体、≪TSー14(エルシアス)≫は、そもそもが超高速戦闘用の格闘機だ。
その抜群の機動性を活かして敵に突っ込み、高威力の格闘武器と近接用の射撃武器を使い、ヒットアンドアウェーを繰り返すのが通常の戦闘法だ。
ただ、その機動性故に防御力がかなり低い。極限まで装甲を減らして、機体を軽くしているためだ。
勝つためには、撃ち合いをしていてはいけない。一瞬、一撃で勝負を決めなければならないだろう。
そして、刹那にして決着が付くこの戦闘において頼りにできるのは、いままで自分が培ってきた技術と反射神経だけだ。
まだアラーム音は鳴り響いている。例え敵の視界から消えたとしても、ロックが外れるわけではない。相手も素人ではないのだ。次の攻撃のタイミングを探っているはずである。
インシュヴァルツは機体を反転させ、敵がいる方向に持っている武器を向ける。レーダーに映っている敵機は一機。一対一でいられる間に決着を付けるべきだろう。
硬直状態が続く。
しかし慎重にならざるを得ないのだ。もし何の策もなしに飛び出した瞬間、待ち構えていたように弾が襲ってくる可能性もある。
だからといって待っているだけでは、捨て身の突撃をされてもおかしくはない。その場合も、自分の行動が遅れた場合、ジ・エンドだ。
インシュヴァルツはちらとモニタを見て、残弾を確認した。大丈夫。まだ十分残っている。
「さてと、やりますか」
口元に垂れてきた汗を下で舐め取り、インシュヴァルツは薄く笑みを浮かべた。
次の一瞬で勝負は決する。自分が勝つか、相手が勝つかの違いだけだ。
ガン。
インシュヴァルツは、レバーを力強く右に倒し、ブーストレバーを踏みつけた。岩場に隠れていた機体がそのまま右にスライドし、敵の射線に姿を晒す。
相手の真紅の機体、≪TSー8(レイオン)≫の光る双眸が笑ったような気がした。無論そんなことはありえない。あれはTSのメインカメラ。モニターに周囲の景色を映し出し、パイロットの視界を確保するためのただの機械だ。
それなのにそう感じられたのは、相手が勝ったと確信したことをインシュヴァルツが分かっていたからか。だから機械が笑ったように見えたのかもしれない。パイロット笑みがTSの目に反映されたかのように。
レイオンが持つマシンガンから、空薬莢が次々と飛び出した。ほぼ同時に飛び出した数十の弾丸が、エルシアスに襲い掛かる。
フルオートで弾を撃ち尽くして、レイオンの動きが止まった。いや、弾が無くなったから止まったのではない。恐らくパイロットが唖然としたのだろう。インシュヴァルツが取った行動に。それから自分の攻撃が当たらなかったことに。
インシュヴァルツはブーストレバーを踏んだまま、機体が岩場から出た瞬間にレバーを左に押し返したのだ。岩場から出た機体は、その推進力を余すところ無く活かし、高速でもといた場所に戻ったことになる。まさにエルシアスの機動性あっての芸当だった。
相手からは、エルシアスが出てきた瞬間消えたように見えたことだろう。
その、一瞬の逡巡が命取りとなった。
エルシアスは今度こそ敵の機体、レイオンの前へと躍り出た。慌てて空になったマガジンを交換しようと敵が動いたとき、その体に十数発の弾丸が命中する。
64mm近接用機銃。牽制用の銃であるため、相手が持っているマシンガンよりも貫通力も威力も低い。レイオンの厚い装甲の前では、効果的なダメージを加えることは難しい。
だが、それでいいのだ。ダメージを与えるための射撃ではない。
目的は別にあった。例えダメージを与えられなくとも、命中したときの衝撃は発生する。
弾が当たり、敵の機体がわずかに体勢を崩す。
だが、インシュヴァルツにとってはそれで十分だった。
機銃を地面に投げ捨て、腰に備え付けられているビームソードを抜く。射撃武器での戦闘では相手に当てることが難しい武器だが、当たったときのダメージはマシンガンなどとは比べ物にならない。大口径のカノン砲が命中したときと同程度のダメージを与えることができるのだ。
ブン、という音がして、青い光が柄から飛び出す。
背中のブースト装置が最大出力で動き、爆発的な推進力が生まれる。エルシアスがレイオンへと襲い掛かるスピードは並大抵のものではない。
レイオンの前で、ビームソードが振り上げられた。最後の抵抗か、機体頭部の前に敵は手をかざす。
しかし、そんなものに意味はない。
高エネルギーによって作られたビームソードが、その腕ごと敵の機体を貫いた。頭部からコクピットがある胸部までが一瞬で切り裂かれる。
インシュヴァルツは瞬時にその場から離脱した。
直後、すさまじい音が轟く。
敵の機体が爆発したのだ。
インシュヴァルツの口にふっ、と笑みが浮かぶ。
勝った。それを実感したとき、達成感が込み上げてくる。
その感情を胸に昂ぶらせたまま、インシュヴァルツは機体を翻した。敵だったものの残骸には目もくれず。