記憶
「君は幾つだ? 答えてみろ!」
シャドウの詰問に、エミリーは両手を挙げ、顔を覆う。
ぶるぶると激しく首を振る。
すっ、とシャドウは身を引いた。
「十年前、君は【蒸汽帝国】に華々しく登場した。すると、普通なら君は二十八歳になっているはずだ。仮想現実接続装置は、満十八歳にならないと使用を許可されないからな。それ以前の記憶で、何か憶えているのはないのかね?」
がくり、とエミリーは膝を折った。すとんと腰が抜け、床にべったりと座り込む。顔を覆ったまま、啜り泣いた。
「わたし……わたし……! 判らない、判らないのよう……!」
シャドウは両腕を後ろに組み、諭すように話し掛けた。
「無理もない。君は【蒸汽帝国】で生き始めてから、唯の一度たりとも、現実世界で目覚めたことはないのだ。君は、ずっと夢の中で生きているのだ。完璧な仮想現実の女! それこそが、君だ!」
シャドウは決め付け、指を突きつける。エミリーは顔を上げ、まじまじとシャドウの顔を見上げた。
「あなたは、あたしの何を知っているの?」
「何もかもだ! おれは、全仮想現実のあらゆる〝世界〟にスパイを放っている。君の存在を知ってから、おれは、いずれ全〝世界〟を支配した後、君を真の玉座に座らせることを夢見てきた。君こそ、仮想現実で女王になるに相応しい女だからだ!」
シャドウを見上げるエミリーの目には、何事か考え込んでいる表情が現れている。