質問
シャドウは、ゆっくりとエミリーに顔を向けた。シャドウの凝視に、エミリーの頬がすっと青白くなる。
「下問……ね。おれは、あんたの家来ではないよ」
ぷるぷるとエミリーの唇が小刻みに震えた。
わざとエミリーに向け、シャドウは飛び切りの悪魔的な笑みを浮かべる。唇の両端に、にゅっ、と白い犬歯が覗いているのを、シャドウは自覚している。
シャドウは思い入れたっぷりにエミリーを見つめ返すと、肩を竦める。
「が、ご下問なら返答しよう。おれは、あんたを【ロスト・ワールド】の女王として迎え入れたいのだ!」
エミリーの顔が怒りに赤く染まった。
「馬鹿なことを仰い! なぜ、わたくしが、そなたの【ロスト・ワールド】にて、そのような地位に昇らなければならないのです?」
ずい、とシャドウは一歩エミリーに近づく。
「はっ!」と驚きにエミリーは引き下がった。
もう一歩。エミリーは、さらに下がる。
とうとうエミリーは壁に押し付けられたも同然の格好になる。シャドウは近々と自分の顔を寄せ、エミリーの大きな瞳を覗きこんだ。
まん丸に見開かれたエミリーの瞳孔は大きく開き、真っ青な瞳にはシャドウの顔が、はっきりと映し出されている。
とっくりとエミリーの恐怖に引き攣った表情を眺め、即座にシャドウは身を引いた。
「なぜなら、あんたこそが、仮想現実世界の女王に相応しい女だからだ! あんたは覚えているかね?」
話題の変化に追いついていけないと見え、エミリーは童女のような表情を浮かべる。
「何を憶えている、と仰るの?」
「子供の頃の思い出だ。まだ幼い頃の自分だ! 憶えているかね? あんたの両親、兄弟姉妹、なんでもいい。子供の頃の思い出を憶えているか?」
わくわくとエミリーの唇が震え始めた。目がきょときょとと、落ちつかなげに辺りを彷徨う。息が掛かるほどの距離にシャドウは顔を近づける。
「憶えていないかね? エミリー。君は何歳なんだ?」
エミリーの両目が「えっ?」っと虚ろになった。




