エミリーの怒り
「帰して下さい! わたしを【蒸汽帝国】へ、早く帰して!」
毅然とした表情で、エミリー皇女はシャドウに向かって言い放つ。言葉は願い出るものだが、口調は完全に命令する者の威厳に満ちていた。
真っ直ぐ背を伸ばして立ったエミリーは、軽く前で両手を組み合わせ、瞬きもせずシャドウを見つめている。
シャドウは「ふ……」と薄く笑う。
皇女を引っ攫い、自分の本拠地に連れてきてから、微塵も怖れる様子は見せなかった。
多分、強がりのはずだ。本当は「わっ!」とばかりに泣き叫びたいはずなのだが、必死に耐えているのは可憐である。
「そうは、いかん」
シャドウの返答に、エミリーの眉が微かに寄せられた。軽く首を振ると、柔らかな金髪の巻き毛が揺れる。
「なぜ、わたくしを攫ったりしたのです? あなたに、何の得があるのです?」
シャドウは無言で窓の外を覗きこんだ。
【ロスト・ワールド】の、奇妙な風景が一望に広がっている。
シャドウがだんまりを決め込んでいるので苛々したのか、エミリーは一歩さっと前へ踏み込むと「たん!」と床を踏みしめた。
「返事をなさい! わたくしの下問に、すぐ答えるのです!」