擬態
知里夫の瞳が輝いた。
「面白え!」
叫ぶと、反対側の住宅に飛び蹴りを食らわす。
ばたん、ばた、ばたばたばたっ!
反対側も、まったく同じように呆気なく倒れていく。
あっという間に、辺りは倒れこんだ住宅の書き割りで埋まった。
二郎はナイフを手にとった。
空を見上げ、腕を引いて全身の力を込め、真っ直ぐ上へと投げ上げる。二郎の投げ上げたナイフは、ロケットが上昇するがごとく、ずんずんと高度を上げていく。
と、ナイフの先端がぷすり、と何かに突き刺さった。
びりびりびりっ!
ナイフは空を、布地のように切り裂いていく!
瞬く間に、空中に一つの切れ目ができていく。切れ目からは、毒々しい真っ赤な空に、どんよりと漂うグリーンの雲が覗いた。
ぎええええっ!
どこかで苦悶そのものといった、怖ろしい悲鳴が上がった。
ぴょこん、とそれまで地面に倒れこんでいた書き割りが一斉に立ち上がる。
ざあああっ! と、書き割りは空中に飛び上がり、猛烈な風を巻き起こした。飛び上がると、くるくると空中で旋回し、蚊柱のように一本の竜巻となって浮かぶ。
一方、切り裂かれた空は、さらに切れ目を広げながら、地平線の彼方に消えていく。後には、厭らしい真っ赤な空と、腐ったような緑色の雲が残るだけ。
「い、今のは……何っ?」
ようやく、タバサは息を吐き出し、言葉を押し出した。驚愕に、全身がこちん、こちんに固まっている。
「擬態だ。現実世界の町そっくりに擬態し、プレイヤーという獲物を待ち受けていたんだ。あのまま君がぼけーっ、と家に足を踏み入れていたら、ぱくっと一飲みにされていたはずだぜ!」
二郎は「ふっ」と指先で額の汗を拭った。




