書き割り
最後に二郎と、ゲルダ少佐が並んで出現した。
二郎はタバサを見て、呆れたような顔つきになった。
「やれやれ、あれほど考えるよう忠告したんだが、まるで無視かね? これだから、初心者は怖い……」
タバサは、かっとなって二郎に食って掛かる。
「ここが【ロスト・ワールド】なの? 全然、そうは見えないけど。それに、あたしは子供じゃないのよ。自分がしたことくらい、判っています!」
二郎は冷静に頷いた。
「ああ、間違いなくここは【ロスト・ワールド】だ。自分がしたことを判っていると言い張るのなら、それでいい」
冷ややかといっていい二郎の口調に、タバサの激昂は、しおしおと萎んでしまう。
「全然、危険でも何でもないように見えるわね……」
呟きながら、手近の住宅に近づく。二郎は素早くタバサの腕を掴み、引き寄せた。
「危ないっ! 自分のしていることが、判っているのか?」
「え?」とタバサは二郎を振り返る。二郎の顔は真剣であった。
一つ頷くと、二郎は「見ていろ!」と叫び、いきなり立ち並ぶ住宅の塀に蹴りを入れる。
ばたん!
二郎の蹴りが入ったブロック塀は、まるで芝居の書き割りの安物大道具のごとく、呆気なく倒れこむ。
ぱた、ぱたん、ぱたぱたぱたっ!
塀が倒れこんだ住宅も、ドミノ倒しの要領で、次々に倒れていく。それは、まったく書き割りの平面的な形だった。