【ロスト・ワールド】
あたしって、馬鹿?
タバサは自分の頭をこつん、と叩く。思わず飛び出してしまったが、まったく何も考えていなかった自分の間抜けさに、つくづく愛想が尽きた。
ここが【ロスト・ワールド】なのか……。ここが?
どこにでもありそうな、何の変哲もない住宅街が、一面に広がっている。電柱、舗装路、どこまでも続いている平凡極まりない建売住宅の列。
仮想現実から目覚め、現実世界で外へ出たら、こんな風景に出くわしそうだ。
空を見上げると、すこーんと抜けるような青空が高く、白い雲が数個のんびりと浮かんでいる。
横に晴彦が、ぼんやりとした表情で立ち尽くしている。ちょっと小首をかしげ、自分が立っている場所を確認している様子だ。
タバサは晴彦に話し掛けた。
「ここが【ロスト・ワールド】なの? とても、そうは見えないわね」
晴彦はタバサに顔を向け、笑顔になる。相変わらず、子供のような邪気の無い笑顔だ。
「こりゃまた、何と言うことだ!」
出し抜けに背後から声が聞こえてきた。玄之丞の喚き声だ。
玄之丞は、すぱすぱと葉巻をふかしながら、油断無さそうな目付きで、じろじろと辺りを見回している。
玄之丞の背後から知里夫も現れる。何も無い空間から、ぽんと飛び出す。
ドアは見えない。つまりは、あのドアは一方通行なのだろう。入口だけで、出口なしということだ。