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電脳ロスト・ワールド  作者: 万卜人
【ロスト・ワールド】への挑戦!
92/198

ドア

 言ってる端から、一人の住民がふらふらと前を横切る。

 看板に近づき、ぼけっとした表情で見上げる。


 なぜか西部劇から脱け出たような扮装をしていた。幅広のテンガロン・ハット。明るい茶色のシャップス(乗馬用の前覆い)。歩くたびに、踵の拍車が、かちゃかちゃと軽薄な音を立てていた。


 平原児はハットを持ち上げ、にやりと笑った。


 看板の下には、一枚のドアがあった。何の変哲も無い、木の板でできている。ドアには金色のノブが突き出していた。


「面白そうだなあ……おら、一度【ロスト・ワールド】ちゅうところへ行きたいと思っていただよ!」


 ぐいっと手を伸ばし、ノブを握りしめる。


「やめろ、おい!」

 二郎が慌てて一歩前へ出たが、すでに遅かった。カウボーイは、さっさとドアを潜り抜け、中へと踏み込んでいた。


 ばたり、とドアが閉まった。

 ひひーん! と馬の嘶き。ついで「タリイ・ホウ!」という男の怒鳴り声。

 ぱかっ、ぱかっと蹄の音がして遠ざかる。


 全員が毒気を抜かれたかのような顔を見合わせた。

 玄之丞が二郎に向け、決意した口調で声を掛けた。


「行くか?」


 二郎は、ゆっくりと頷く。

「向こうのお招きとあればね……」


 ゲルダが逡巡を振り払うように叫んだ。

「エミリー皇女が助けを求めております! 行かなければなりません!」


 拗ねた顔つきで知里夫が「へっ」と笑った。

「こりゃ、おっそろしく楽しめそうだ!」


 二郎はタバサを振り返る。


「タバサ! これが最後のチャンスだぞ。【ロスト・ワールド】に足を踏み入れたら、もう行くところまで行くしかないんだぞ。戻れるのは、今だけだ」


 タバサは唇を噛みしめる。気付くと、自分の手の平がじっとりと汗ばんでいる。


 怖くない! 怖く……ないったら!


 と、すたすたという足音がして、タバサの横を晴彦がのんびりとした顔つきのまま、ドアに歩いていく。

 何の躊躇いもなく、晴彦はドアを開けた。


「晴彦さん!」


 タバサが呼び掛けると、晴彦は「にこっ」と笑顔になった。

 そのまま平気な顔で、足を踏み入れる。

「待って!」と、思わずタバサは追いかけた。


 たった一歩。それだけでタバサは【ロスト・ワールド】に踏み入れてしまっていた。

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