看板
ぞろぞろと、全員がカルガモの親子状態になって、町を歩き出す。
玄之丞が二郎にせかせかと追いついて、話し掛けた。
「おいおい、ところで、どうやって【ロスト・ワールド】へ吾輩たちを連れて行くのだね? まさか【ロスト・ワールド】はこっちです、なんて看板が出ている訳あるまい?」
二郎は、ぴたりと立ち止まった。顔を上げ、指さし、涼しい顔で答える。
「ところが出ているんだな、これが」
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☆ロスト・ワールド入口 ☆
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でっかく、周りにネオン・サインと電飾を散りばめた、十キロ先からでもはっきりと判る派手な看板がおっ立っている。その場にいた住民たちも、思わず立ち止まって見上げていた。
玄之丞は、あんぐりと口を開ける。
だけではない、二郎を除いた全員が、ぽかりと大口を開け、呆けたようになって看板を見上げていた。
「こんなもの、いつできた?」
髪の毛をくしゃくしゃと掻き回し、玄之丞は大声を上げた。
ぽん、と二郎のポケットから金属球が飛び出した。
二郎の相棒、ティンカーである。
「この看板が出現したのは、正確に三分十四秒前のことです!」
きんきんとした甲高い声に、玄之丞は目を丸くする。両腕を振り回し、二郎に食ってかかった。
「どういうことだ? 吾輩が判るように説明して貰おう!」
「【ロスト・ワールド】が本格的な活動を開始した、ということさ。いよいよシャドウの奴、あらゆる〝世界〟のプレイヤーを根こそぎ自分の〝世界〟へ引っ攫うつもりだ!」
二郎は冷静に返事する。
水をぶっかけられたかのごとく、玄之丞はばたんと両腕を下ろした。
ゲルダは一歩すっと前へ出て、疑いの声を上げた。
「でも、うかうかと【ロスト・ワールド】の誘いの手に乗る馬鹿者がいるとは思えません」




