時計
その時、壁に架けられた鳩鳴き時計が時を告げた。
ぽっぽー……と鳴り響いた途端に、それまで寝っころがっていた晴彦が、ぴょん、と一挙動で立ち上がる。
あーあ……! と長々と伸びをした。
玄之丞は振り返り、目を丸くした。
「なんだ、晴彦。起きたのか?」
晴彦は「ふあああ」とばかりに口に手を当て、頷く。子供のような笑みを浮かべていた。
「おい、晴彦。この客家二郎は知っているな。これから【ロスト・ワールド】に向かうぞ! 準備しろ!」
「うん」と晴彦は頷くと、壁に架かっていた鳩鳴き時計を外して、コートの中へ捻じ込んだ。
玄之丞は呆れた声を上げた。
「なんだ、そんなもの持って行って、どうするつもりだ?」
晴彦は両手を合わせ、頬に当てると顔を傾け、目を閉じた。
「眠るのか?」
玄之丞の問い掛けににっこりして、指で丸を作る。鳩鳴き時計の鳩の仕草で、口を尖がらせる。
「なーる、ほど! 目覚まし時計が必要だ、ということか!」
玄之丞が大声を上げると「うんうん!」と何度も頷いた。
「勝手にしろ!」と玄之丞は肩を竦める。
晴彦は、にこにことした笑みを浮かべ、タバサに近寄ると、いきなり顔を近づけた。